米国によるイラン再攻撃の可能性とその影響

10月27日にイスラエルで行われた国会選挙の結果、新たな連立政権が樹立されるまでネタニヤフ氏が暫定首相を続けることとなった。
そのネタニヤフ氏は、選挙を前に、トランプ大統領との電話会談で「やり残した仕事」を共に終えようと語っていた。
米国のニュースサイトのアクシオス(11月1日付)によると、10月31日、ネタニヤフ首相は再び電話会談で、トランプ大統領に11月3日の米中間選挙後にイランへの攻撃実施を強く求めた。
これに対し、トランプ大統領はイランとの交渉を見守りたいとの考えを示したとされる。
その一方で、同大統領はフロリダ州の私邸で記者団に対し、イランに関し「核施設は破壊した。まだ1、2カ所は対処する必要があると思うが、10分でできる」と語ったとAFPなどが報じている。
さらに、ニューヨーク・タイムズ紙は、米国とイスラエルが攻撃再開の具体的な作戦計画の策定を終えたと報じている。
トランプ政権の軍事圧力と報道を使ってのイランへの交渉圧力に対し、イラン側は7つの条件が合意されて初めて状況は進展するとの姿勢を崩していない。
カタールの仲介をはじめとする複数の国の和平努力がみられる一方、戦闘のエスカレートへの懸念が高まっている。
本稿では、ネタニヤフ氏がイラン攻撃を求める背景について検討した上で、トランプ政権が仮にイランを再攻撃した場合、
中東情勢にどのような影響がもたらされるかについて考察する。
注目される国会選挙後のネタニヤフ氏の動き
2023年10月7日のハマス等による越境攻撃後、初めて実施された今回の国会選挙は、中東情勢の行方に影響を与えることから、国内外の注目を集めた。
イスラエル国内では、ネタニヤフ政権の司法改革問題、ハマス等からの人質救出問題、超正統派ユダヤ教徒の兵役免除問題、10月7日の攻撃に関する調査委員会設置のあり方などをめぐり亀裂が生じており、今回の選挙は、汚職疑惑も抱えるネタニヤフ氏への信任投票の意味合いがあった。
そのため、投票率は77.9%(有権者733万1981人)となり、イスラエル国民の関心の高さが示された。
イスラエルには郵便投票や在外投票の制度がないため、米国からおよそ5万人が帰国したと報じられるように、多くの国外在住の有権者が帰国し投票したとみられる。
選挙結果は、ネタニヤフ氏率いる与党勢力が53議席、ユダヤ系反ネタニヤフ勢力が48議席、アラブ系勢力が19議席を獲得し、いずれも議席の過半数(定数120)を確保できなかった。
イスラエルでは分断が深まっており、政治的、イデオロギー的、宗教的に統一された「ユダヤ人国家」ではないことは明らかといえる。
イスラエルの組閣をめぐる今後のシナリオとしては、次の4つが考えられる。
シナリオ1
与党勢力のうち、国内外で評判が悪い極右政党であるベングヴィル党首の「ユダヤの力」、スモトリッチ党首の「宗教シオニズム・ゼフート」の両党、もしくは「ユダヤの力」を切り離した上で、ユダヤ系反ネタニヤフ勢力と挙国一致内閣を樹立する。
シナリオ2
与党勢力が、反ネタニヤフ勢力から党もしくは議員を引き抜いた上で、ネタニヤフ政権を樹立する。
シナリオ3
ユダヤ系反ネタニヤフ勢力とアラブ勢力が手を組んで政権を樹立する。
シナリオ4
ヘルツォグ大統領による組閣要請(2回まで)が失敗に終わり、議会による3人目の組閣要請によっても政権樹立ができず、再選挙が実施される。
いずれのシナリオにおいても、新たな政権が誕生するまでネタニヤフ氏は不安定ながらも暫定首相の地位にとどまる。
暫定期間中のネタニヤフ首相には先制攻撃や予算編成ができないが、仮に、米国がイランを攻撃し、その報復の一環としてイランがイスラエルを攻撃すれば、イスラエルの参戦は可能となる。
その際、イスラエルの安全保障の確保をカードにネタニヤフ氏がシナリオ1もしくは2を進め、首相に再任することが考えられる。
また、イスラエルが参戦しなくても、シナリオ4の再選挙になれば、イランのイスラエル攻撃により国内の危機感が高まることで、今回の選挙で反ネタニヤフ勢力に投票した人びとが投票行動を変える可能性がでてくる。
それだけでなく、再選挙においてリクードが議席の上積みをねらって、今回の選挙では得票率1.68%で議席獲得に至らなかった(足きり条項3.25%)右派の「イスラエルの人々」(党首ウィンター氏)をはじめ落選した政党の人びとをリクードに取り込むことも考えられる。
つまり、ネタニヤフ氏にとって、イスラエルの安全保障のためだけでなく、自身が首相の地位にとどまり続けるためにも、トランプ政権のイラン攻撃の再開は望ましいものだといえる。
なお、ネタニヤフ首相は今回の選挙でカタールとトルコがアラブ系勢力に違法に資金提供を行ったと主張し、国内治安機関のシンベトが捜査を行っていることから、その結果によっては、別のシナリオもありえる。
ネタニヤフ氏とトランプ氏の「やり残した仕事」
ネタニヤフ首相とトランプ大統領は、イランの核開発や親イラン武装組織について客観的データを提示することなく脅威だと主張し続け、国内外の人びとに、「テロ支援国家」のイランが核兵器を保有するという物語としての「イラン脅威論」を認識させてきた。
その両国は2025年6月、イランに対する武力行使を実施した(「12日間戦争」)。
この戦争で、イスラエルは「ライジング・ライオン」作戦を発動し、核施設、防空システムに加え、核開発に関わる科学者、軍高官(革命防衛隊のサラミ最高司令官)など多数を殺害した。
また、米国は「ミッドナイト・ハンマー」作戦で大型貫通爆弾を使用し核施設3カ所を爆撃した。
これらの作戦により、イランでは民間人を含め600人以上の死者を出した(イスラエルではイランの反撃により推定28人が死亡した)が、イランのイスラム体制は崩壊せず、再攻撃に対応するための戦略を構築していった。
イスラエルと米国はイランへの2度目の攻撃では、経済制裁下で通貨の価値の下落、物価上昇へのイラン国民の抗議運動に合わせるように、イランの反体制勢力に働きかけ(アハマディネジャド元大統領、クルド勢力など)たうえで、大規模空爆をイランに実施した。
この攻撃によるイランの被害はさらに大きく、最高指導者ハーメネイ師をはじめ軍、革命防衛隊、情報機関のトップクラスの人びと、そして民間人を含め3500人以上の死者、2万6000人以上の負傷者が出ていると報じられている。
また、物的には、軍事施設、交通網をはじめエネルギー関連で油田、製油所、ガス施設などに大きな被害が出ている。
この期間をあけての2度の攻撃は、イランの核兵器開発、ミサイル開発の阻止を越えた攻撃意図があったと推察でき、国際社会からは、国際法や国連憲章に違反しており、この戦争の正当性に疑問を投げかける声が高まりはじめた。
その一方、イランが報復として、ホルムズ海峡の封鎖、近隣のアラブ諸国内の米軍基地を標的とした攻撃、湾岸アラブ産油国のエネルギー施設、港湾、空港などへの攻撃を実施し、国際的にエネルギー価格が上昇したことで、同国への非難も大きくなっている。
以上のことから、ネタニヤフ氏とトランプ氏の「残された仕事」とはイランの政権のレジーム・チェンジであり、両氏が第3波の攻撃が必要だと表明している理由だと考えられる。
・・・
では、第3波の攻撃が実施されれば、何が標的となり、戦争はどこへ向かうのか。
「イーグルフライ」では、想定される攻撃の規模と標的、中間選挙後のトランプ政権の対イラン戦略を検討したうえで、イランをめぐる戦局、揺らぐ米国主導の中東安全保障、ガザを含む中東和平問題への影響を考察します。
※本記事は、メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2026年11月3日に執筆されたものです)
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