公開日 2026年10月7日

エネルギー価格に影響を与えるフーシ派をめぐる戦闘とイラン戦争―今後のシナリオ

フーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡周辺を掌握し、原油は100ドル突破。イエメン情勢からイラン戦争の行方を読み解き、エネルギー価格を左右する3つのシナリオを示す。
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10月2日、主要7カ国首脳による会議(G7、日本は外務審議官が代理出席)で原油と軽油(ディーゼル燃料)の備蓄放出問題が協議され、今後4カ月で合計1億バレルの石油備蓄を放出することが合意された。

合意の背景には、11月3日の中間選挙を控え、急ぎ国内の燃料価格の値を下げようとしているトランプ大統領によるEUへの圧力があった(卸売価格が小売価格に反映するには1~2週間かかる)。

報道によると、米国は、フランスとドイツを含む欧州の主要国に対し20日以内に1億バレルのディーゼル燃料を放出するよう求め、応じない場合、ディーゼル燃料の輸出を禁止する措置を講じると伝えている。

G7議長国であるフランスのマクロン大統領の共同声明発表を受け、ディーゼル燃料の先物価格はEUで約5.75%、米国で3.25%下落した。

これにより、EUはトランプ政権による対EUディーゼル燃料輸出禁止という事態を回避できた。

しかし、ロシア・ウクライナ戦争とイラン戦争により世界の石油精製能力が減少していることに加え、北半球の秋・冬の需要期を迎えるなかで米国とEUの石油製品の在庫量が過去の平均量を下回っていることが懸念される。

とりわけ、天然ガスの供給量の不足が深刻化する可能性がある。したがって、中東情勢次第では、需給がひっ迫し、エネルギー価格が上昇するリスクが消えたわけではない。

本稿では、エネルギー価格に影響するイラン戦争の行方を考える上でポイントの一つとなるイエメン情勢に注目し、フーシ派とサウジアラビアおよびイエメン暫定政府との戦闘について概観し、イラン戦争との関連を検討した上で、今後のシナリオを示す。

イエメン国内の軍事的状況

イエメンには旧北イエメン地域だけでもおよそ75の部族があり、国家統合は困難とみられてきた。

現在、多くの国が承認する暫定政府下でも軍事組織は一枚岩ではなく、正規軍だけでなく、以下のような複数の有力指導者がそれぞれの地域部族をまとめている。

  1. (1)正規軍を指揮するザギール・ビンアジーズ中将

  2. (2)西海岸およびモカ地域で「国民抵抗軍」の指揮を執る
       タレク・サレハ氏(サレハ元大統領の甥)

  3. (3)アデンに本部を置きタイズ地域で指揮を執る大統領評議会議長
       ラシャド・アル・アリーミ氏

  4. (4)イエメン南部で軍事力をもつ「ジャイアンツ旅団」の最高責任者
       アブドゥル・ラフマン・マフラミ氏

こうしたこともあり、2014年9月に政府軍との戦闘を経て首都サナアを武力制圧したフーシ派への有効な軍事対応が取れず、内戦状態が続いている。

フーシ派は反米・反イスラエルを掲げる「抵抗の枢軸」の重要な組織としてイランの革命防衛隊の支援を受けており、イラクの親イランのシーア派民兵との連帯を強めている。

その軍事力は、推定35万人の戦闘員を有し(2015年には3万人)、弾道ミサイル、巡航ミサイル、攻撃用及び偵察用無人機、対艦弾道ミサイルなどを保有している(9月20日付アン・ナハール紙)。

このような軍事力を有するフーシ派は、2023年11月、ガザ紛争におけるイスラエルの軍事行動への抗議として紅海での船舶の通航阻止を実施して以降、バブ・エル・マンデブ海峡を含むイエメン周辺海域の海上交通の脅威とみられてきた。

フーシ派とサウジアラビアとの交戦

2月末に米国とイスラエルのイラン攻撃ではじまったイラン戦争において、4月13日にトランプ大統領がイランの港湾に出入りする船舶を阻止する封鎖措置を表明した。

これを受け、フーシ派はイランを軍事的に支援すると警告した。さらに、6月8日には紅海におけるイスラエル関係の船舶の航行を再び禁止すると発表した。

その後の7月13日、サウジアラビア主導の有志連合がサナア空港を空爆、これへの報復として、翌14日、フーシ派がサウジアラビア南西部のアブハ国際空港を弾道ミサイルと無人機で攻撃する事態となり、2022年3月より非公式の停戦状態にあったイエメン情勢は急変する。

フーシ派は、このサナア空港への空爆の目的は、イランの故アリー・ハーメネイ最高指導者の葬儀に参加したフーシ派幹部を殺害することだととらえている。

一方、有志連合側は、空爆で対象とした航空機にイラン革命防衛隊関係者とフーシ派を支援するための武器が乗せられていたと説明している。

7月16日、フーシ派の指導者アブドルマリク・フーシ氏は、サウジアラビアがイエメンに対する「包括的な侵略」に関与しているとして軍事行動をとると明言した。

さらに、同月20日、フーシ派はサウジアラビアに関連する船舶の紅海経由での通航を阻止する「海上封鎖宣言」を発出した。

これに対し、サウジアラビアはイエメンの正当な政府への支援を継続すると表明し、サウジアラビアとフーシ派の対立は決定的となった。

この時点で、米国はイランとの戦闘への対応強化にあたっており、イエメンをめぐる新たな軍事作戦を展開する余力が限られており、サウジアラビアへの支援は情報提供が中心であった。

その状況のなか、紅海を航行するサウジ船舶をフーシ派が攻撃し、サウジアラビアはフーシ派の軍事拠点への空爆を実施するという報復合戦が続いた。

その後、8月に、ロイター通信がサウジ高官の話として、フーシ派とイラクの親イランのシーア派民兵組織が協調して、サウジアラビアのエネルギー関連施設、港湾、空港などの民間施設に攻撃を行う可能性があると報じた。

そうしたこともあり、国際社会のこの戦いに対する認識は、サウジアラビア対フーシ派の戦闘から、サウジ・米国対「抵抗の枢軸」という国際紛争へと変わっている。

フーシ派のイエメン西海岸地域への侵攻の背景

米国とイラン間でホルムズ海峡の主導権争いが続くなか、8月9日にイランは最高安全保障委員会(SNSC)の事務局長、革命防衛隊(IRGC)の司令官など6つの軍関係の要職に就く人物を変更する人事を行った。

イランの国防・外交を統括するSNSCの事務局長には、元IRGCの司令官(1981年~1997年)のモフセン・レザイ氏が任命され、イラン国軍の参謀総長にはIRGCのアリ・アブドラヒ少将が任命されるなど、軍部における対米強硬派のIRGCの影響力が確固たるものとなった。

一方、トランプ大統領は8月12日、SNSトゥルース・ソーシャルに「米国はホルムズ海峡を完全に掌握しており、それを維持する」と投稿し、さらにイランの港湾封鎖は「鉄の壁」と呼ばれており、「イランは何もできない」と続けた。

こうした両国とも強硬な姿勢を崩さないなか、8月24日にベッセント米財務長官が記者会見を行い、イランと取引を継続する国や企業を二次制裁の対象にすると表明した。

イランと米国をめぐる情勢が膠着していたこの時期、イエメンでは8月6日ころからフーシ派がマリブ州、ハドラマウト州の政府軍への攻撃を強化し、バブ・エル・マンデブ海峡に近いイエメンの西海岸地域に進軍する動きを見せていた。

こうした動きに関連し、7月30日付のシャルクルアウサト紙(ロンドンに拠点を置く汎アラブ紙)には、フーシ派がイランのIRGCと連携し、紅海を通過する船舶から通行税を徴収することでフーシ派の恒久的な資金源とする計画を有していると報じている。

その後、フーシ派は、9月10日には紅海のハニシュ諸島(イエメンとエリトリア間に位置する群島)、西海岸地域の港湾都市モカを手中に収め、翌11日にはバブ・エル・マンデブ海峡の入り口に位置するドーバブや要衝のペリム島(海峡を二分する場所に位置する)などを占領した。

一方の暫定政府は、地域的に分裂状態にあったため、こうしたフーシ派の攻勢に対応することができなかった。

フーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡の周囲を掌握したことは、サウジアラビアにとっても痛手であり、封鎖状態にあるホルムズ海峡の原油輸出ルートの代替として活用していた紅海ルートも使用不可能となるリスクが高まった。

フーシ派の西海岸地域掌握をめぐる注目される動き

以下に、こうしたフーシ派の西海岸地域掌握に関連する注目される動きを挙げておく。

  1. (1)9月10日、サウジアラビアのムハンマド皇太子がトランプ大統領に電話し、
    フーシ派への攻撃を要請したが、
    同大統領はこの要請を拒否した(アクシオス)。

  2. (2)米国はサウジアラビアの有志連合本部に、
    対フーシ派戦のための情報提供、
    標的設定ツールの利用を支援する約200名の軍事関係者を駐留させている(CNN)。

  3. (3)サウジアラビアは米国から分刻みで最新情報が共有されたが、
    政権内で激しい対立が起きて意思決定が遅れたため、
    サウジアラビア軍による空爆は一度も実施されなかった(CNN)

  4. (4)イエメン暫定政府軍の現地にいた兵員は、
    登録者(給与を受け取ることができる者)のわずか20%であった(CNN)。

  5. (5)フーシ派は、イエメンの対岸のソマリアで活動する
    イスラム過激派組織シャバブ運動と連携を強めており、
    海上交通への懸念が高まっている(アン・ナハール)。

以上の点から、イエメン暫定政府、それを支えるサウジアラビア、そして米国はイエメンの状況を把握してはいるが、暫定政府に統一された指揮統制が存在しないこと、兵士不足、サウジアラビアと米国が国益を優先し対応してこなかったことが、現在のフーシ派優位の状況を作り出したことが見えてくる。

その結果、バブ・エル・マンデブ海峡の安全航行が脅かされ、原油先物価格が上昇し、9月10日のニューヨーク・マーカンタイル取引所のWTIは前日から6.43ドル上がり1バレル102.48ドルの終値をつけるに至った。

・・・

続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。

9月下旬以降、暫定政府の反転攻勢で戦況に変化が見えはじめています。ここから先では、エネルギー・米軍・和平交渉の最新動向を整理したうえで、「交渉再開」「米軍参戦」「抵抗の枢軸への同時攻撃」の3つのシナリオと、それぞれの蓋然性、原油・天然ガス価格への影響を解説します。

本記事は、メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2026年10月6日に書かれたものです)

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水口章

中東専門家

外務省主管財団法人中東調査会上席研究員などを経て、敬愛大学国際学部教授。同大学総合地域研究所所長。法務省難民審査参与員。 湾岸戦争、米国同時多発テロ、イラク戦争、「イスラム国」(IS)問題など、中東地域関連問題についてマスメディアで解説してきた。

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