公開日 2026年10月8日

帰国するゴールド 中央銀行はなぜいま自国に金を持ち帰るのか

中央銀行が海外に保管していたゴールド現物を国内に戻す動きが静かに進行しています。 自国のゴールドへの完全なアクセスを常に維持したいという恐れが根底にあります。
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ゴールド周りが静かに大きく変化中

最近、ゴールド周りに、いくつもの新しい動きがあり、常識が変わりつつあります。
ゴールド周りの動きをしっかり見ていく必要があるので順番に解説しています。

特に次の記事を押さえておくことでゴールド周りの変化を深く理解することができます。

ゴールドの里帰り

中央銀行が海外に保管していたゴールド現物を国内に戻す動きが静かに進行しています。
フランス、インド、ドイツ、静かに進む「ゴールドの里帰り」の謎を解いていきます。

2025年7月から2026年1月にかけて、フランス中央銀行は129トンのゴールドを、ニューヨーク連銀の地下金庫からパリへと移送しました。
同じ時期、インド準備銀行はロンドンから104トンのゴールドを本国へ運び入れています。
大きな報道はなく、世界の中央銀行は静かに、しかし確実に、自国のゴールドを取り戻し始めています。

なぜ今、わざわざ運ぶのか。

何が起きているのか

フランス

最も規模が大きいのはフランスです。
フランス中央銀行(バンク・ド・フランス)は2025年7月から2026年1月にかけて26回に分けて取引を行い、ニューヨーク連銀に預けていた129トンのゴールドをパリへ移送しました。
フランスは今や自国のゴールドをすべて国内で保管する体制になりました。
フランスの総準備量は約2,437トンで変わりません。

興味深いのは、この移送は単なる引っ越しではなく、ゴールドの買い替えだということです。
古い規格のゴールド地金をニューヨークで売却し、
新しい基準のゴールドをパリに納品したのです。

ロンドン地金市場協会(LBMA)の現行規格に適合する新しいゴールド地金に買い直して品質面での入れ替えを兼ねていたということです。
賢いやり方だと思います。

この結果、フランスは合計で約128億ユーロの会計上の評価益を計上しました。

インド

インドも大きく動いています。
インド準備銀行は2026年3月までの1年間で104トンのゴールドをロンドンから本国へ移し、ムンバイやナグプールの高セキュリティ施設に収めました。
この結果、インドのゴールド準備(合計880.52トン)に占める海外保管比率は、2023年3月の55%から、2026年3月には22%まで低下しています。

図1インド準備銀行ゴールド準備の海外保管比率の推移

 

ドイツ

ドイツ連邦銀行は2013年から2017年にかけて大規模な「金塊輸送作戦」を実施し、ニューヨーク連銀やパリから数百トンのゴールドをフランクフルトへ戻しました。
これにより、全体の約50%を国内で保管するという当初の目標を達成しています。
現在も保有ゴールドの約50%はニューヨーク連銀やイングランド銀行などに保管されています。

しかし、地政学的なリスクや米国の政策に対する懸念の高まりを背景に、ドイツ国内の政治家や経済学者の間では、すべてのゴールドをドイツへ戻すべきだという議論が再燃しつつあります。
2026年7月時点で正式な移送計画は発表されていません。

世界各国

世界ゴールド協会(WGC)が76の中央銀行を対象に実施した調査でも、この流れは裏付けられています。
回答した中央銀行のうち19%が、過去1年間でゴールドの国内保管比率を高めた、あるいは保管先を分散させたと答えています。
この割合は2025年の調査時点の7%から19%へと大きく上昇しています。

日本

日本のゴールド準備金の海外保有率は、公式には非公開とされていますが、約846トンのうち約730トン(約86%)が米国ニューヨーク連邦準備銀行などの海外機関に寄託・保管されていると国会答弁などで明らかにされています。
日本の場合、海外から日本へ移動させた、もしくは移動予定という公式な発表はありません。

なぜ、今、起きているのか

なぜ中央銀行は今、ゴールドを運ぶ手間とコストをかけて自国に移動させているのでしょうか。
答えを解く鍵は、2022年にあります。
2022年ロシアが欧米諸国に保有していた外貨準備が凍結されました。
この出来事は世界中の中央銀行に一つの教訓を刻みつけました。
「他国の管理下に置いた資産は、政治的な判断ひとつで凍結される可能性がある」
という教訓です。

フィナンシャル・タイムズが引用したアナリストの言葉を借りれば、今回の一連の移送は
「自国のゴールドへの完全なアクセスを常に維持したいという恐れ」によるものです。

図2「ゴールドの里帰り」をめぐる55年の物語

里帰りは二回目

実はゴールドの里帰りは半世紀前にもありました。

フランス

1965年から1971年にかけて、フランスのド・ゴール政権は米国に預けていたゴールドを次々と引き揚げました。
この動きがゴールドとドルの交換体制であったブレトンウッズ体制に強い圧力をかけ、
1971年、金本位制の崩壊の一因になったことはよく知られています。

半世紀以上を経て、フランスは再び同じ行動を取っているのです。

インド

インドの場合、劇的な変化があります。
1991年、深刻な国際収支危機に陥ったインドは、外貨を確保するために自国のゴールドをロンドンへ空輸し、4億ドルの融資の担保として差し出しました。
国家の弱さゆえに、ゴールドを手放さざるを得なかった瞬間です。

それから35年後の2026年、インドは経済的な強さを背景に、そのゴールドを自らの手元へと取り戻しています。

米国・ドル体制からの離脱を意味するのか

ゴールドの里帰りは、中央銀行が米国やドルという枠組みから距離を置き始めた兆候なのでしょうか。
ここは慎重に見る必要があります。

報道の見出しだけを追うと大きな地殻変動のように見えますが、データを冷静に見ると、動きはまだ緩やかです。
米連邦準備制度のデータによれば、ニューヨーク連銀が保管する外国政府保有分のゴールドは、2024年末から2026年4月までの間で、わずか2%しか減少していません。

フランスやインドの移送は大きなニュースになりましたが、ニューヨーク連銀に眠るゴールド全体からすれば、今のところ一部の動きにとどまっています。
さらに、フランスの事例が示すように、移送の実態は必ずしも「米国不信」という単純な政治的メッセージだけではありません。
今回のフランスの移送は、ゴールド地金の規格を最新化するための品質面での入れ替えという実務的な側面が強く、結果として大きな会計上の評価益まで生まれています。
地政学的な警戒心と、実務上の合理性が同時に働いていた、というのが実態に近いでしょう。

総合すると、現時点では、この動きは米ドル体制からの「撤退」というよりも、
中央銀行が抱く「先行きの読めない世界に対する保険」だと理解するのが適切です。

現時点では世界の金融システムは依然として米国市場、ドル、米国債に大きく依存しており、その構造自体はまだ変わっていません。

しかし、その依存の一部を静かに減らし、自国でコントロールできる資産の比率を高めておく。
これが今、世界の中央銀行が取っている行動です。

私たちはどうすればよいか

①保管リスク

国家レベルの保管委託先のリスクという発想は、個人の資産防衛にも応用できる視点です。
中央銀行が「どこに保管するか」を重視し始めたように、個人でゴールドを保有する場合も、保管場所の信頼性は吟味すると良いでしょう。
ゴールドの裏付けのない金融商品(ETF、暗号資産、CFD)は長期保有しないことが必須です。

自宅金庫   盗難リスクに注意
銀行の貸金庫 最近リスクであることが発覚
田中貴金属 分別管理されている
ゴールドの裏付けのあるETF1540
ゴールドの裏付けのある暗号資産
×裏付けのないETF
×裏付けのない暗号資産

ゴールドCFDは裏付けがないので短期用

②ドイツの動向に注視

ドイツの動向は注視してください。
ドイツが正式な移送計画を発表すれば、この流れが
「一部の国の選択」から「主要国共通の潮流」へと段階を進める転換点になります。

③あおり情報を見定める

報道の大きさと実際の規模を区別しないと客観的な判断ができません。
フランスやインドの移送は象徴的で報道価値の高い出来事です。
しかし、ニューヨーク連銀全体の外国保有分がまだ2%しか減っていないということは、こ「緩やかな保険の積み増し」であって
「なだれを打った脱出」ではないということです。

まとめ

中央銀行がゴールドを自国に持ち帰る動きは、2022年のロシア資産凍結を引き金に、世界中で静かに広がっています。
その動機は、他国の管理下にある資産はいつか手の届かないものになり得るという、ごく単純な警戒心です。
これは半世紀前に金本位制が崩壊したきっかけの1つになったフランスの行動の再開です。
35年前にゴールドを担保として差し出したインドは今、経済的な強さを背景にゴールドを自国に戻す動きです。

現時点では脱ドル宣言ではなく、静かな保険の積み増しです。
この地味でも着実な動きこそが、今、注視していく変化だと考えます。

今、金融、ゴールド周りは大きな変化が静かに始まっているので
「ゴールドの周りの変化をしっかり見ていきましょう。」

参考記事
Central Banks Pull Gold Home as Geopolitical Risks Rise(Yahoo Finance)
The World's Central Bankers Are Bringing Their Gold Home(World Politics Review)
Central Banks Are Pulling Gold From the US and UK: Here's Where It's Heading(CCN)
RBI Repatriates 104 Tonnes of Gold from London to Domestic Vaults in FY26(Republic World)
India Gold Repatriation 2026(Advantage Gold)

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松島修

エフピーネット代表取締役

エフピーネット株式会社 代表取締役 投資助言・代理業 関東財務局長(金商)第1898号、インベストメントアドバイザー、経済コンサルタント、ベストセラー作家

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