公開日 2026年11月5日

ゴールドを売らずに現金化 ゴールドローン

世界で、ゴールドを担保にお金を借りる仕組みが登場してきています。金本位制ではありませんが、米国の一部の州でゴールドは法定通貨となり、機能的な意味での部分的な金本位制的な動きが進行しているとも言えます。
ゴールドを売らずに現金化 ゴールドローンのアイキャッチ画像

海外で新しい展開

ゴールドが上昇しても下落しても、語られるのは「買うか」「売るか」の二択です。
しかし世界では今、第三の道が静かに拡大しています。
ゴールドを売らずに担保にして現金を得る手法です。

この動きは、インド・中国・米国で、それぞれ異なる形で進んでいます。
興味深いことに、米国での動きは「金本位制の復活」を思わせる制度変化とも重なり始めています。

何が起きているのか

インド

インドでは、ゴールドローンという業態が記録的な成長を遂げています。
インドのゴールドローンとは、保有しているゴールドの宝飾品などを担保として、即座に現金を借り入れる融資サービスです。
銀行などの金融機関での手続きが非常にスピーディであり、手軽な短期資金調達の手段として、クレジットカードの未払い残高を上回るほどの巨大な市場規模に成長しています。

インド最大手のゴールドローン会社ムトゥート・ファイナンスの2026年3月期決算によれば、連結ゴールドローン残高は1兆6,500億ルピーに達し、前年比54%の増加となりました。
純利益も前年比98%増という金融業として異例の伸びです。

図1 インド ムトゥート・ファイナンス社 連結ゴールドローン残高の推移

これは一過性の現象ではありません。
インド準備銀行(RBI)は2026年4月、ゴールドローンのLTV(担保評価額に対する融資上限比率)を原則75%、25万ルピー未満の小口融資については最大85%まで認める新規制を施行しました。
さらに、規制当局は大手ゴールドローン業者に対する店舗拡大の事前許可要件も廃止しています。
貸す側の裾野を広げる方向に舵を切りました。

中国

中国にも、形は違いますが同じ機能を持つ仕組みがあります。
「典当行」と呼ばれる質屋業態です。

中国の銀行が個人向けレバレッジ取引を締め出す一方でゴールド地金や宝飾品を担保に短期資金を借りる「典当行」があります。
正規の許可を得た業者を中心に生活資金の調達手段として機能し続けています。

米国

最も制度的な動きを見せているのが米国です。
2025年5月、フロリダ州はゴールドとシルバーを法定通貨として認める法律に州知事が署名し、2026年7月1日に施行されました。

次の記事を参照ください。

ゴールドが法定通貨になったことでゴールドバーや金貨を担保にした融資を利用することが可能です。

2015年にテキサス州は全米初の州営ゴールド保管庫「テキサス・ブリオン・デポジトリー」を設立していました。
これはあくまで保管インフラであり、法定通貨化そのものではありませんでした。
2025年6月、テキサス州はHB1056法に署名し、ゴールドとシルバーを日常取引の法定通貨として認めると同時に、預けたゴールドを電子的に「使う」決済システムの整備を法制化しました。
(施行時期については一次資料の間でも「2026年9月」「2027年5月」と表記の揺れがあり、確定次第の続報が必要です)

図2 米国における「金・銀の法定通貨化」の広がり

2026年7月時点で、ゴールドとシルバーを法定通貨として認めている州は、アリゾナ・コロラド・フロリダ・カンザス・ルイジアナ・オクラホマ・テキサス・ユタ・ウェストバージニア・ワイオミングの10州です。
さらにアラスカも、2026年5月に法案が両院を通過し知事の署名待ちの状態にあります。
(集計するサイトによって対象州の数え方に幅があり、8州から11州まで報じ方が分かれています。ここでは2026年6月更新の情報源に基づいています。)

2011年にユタ州が80年ぶりにこの一歩を踏み出してから15年。
当時は1州だけの実験的な試みでしたが、今や全米の5分の1に迫る規模に広がっています。

 日本

日本は昔から「質屋」を使ってお金を借りる仕組みはありますが、最近はゴールド担保融資に特化したサービスも立ち上がりつつあります。
業者の信頼度は未知数です。

 なぜ、今起きているのか

なぜ今、これほど多くの国で「ゴールドを売らない資金調達」が拡大しているのでしょうか。
答えは単純です。
ゴールドが大きく上昇し、今後も上昇が見込めることから誰も手放したくないのです。

インドの経営陣は決算説明会で興味深い発言をしています。
ムトゥート・ファイナンスのジョージ・ムトゥート氏は、残高の伸びを牽引しているのはゴールド価格ではなく借入需要そのものだと説明しました。
ゴールド価格が上がったから担保価値が増え、借りられる額が増えた、という単純な話ではありません。
ゴールド価格が上昇局面なので生活資金が必要になってもゴールドは売らずにローンの借り入れを増やしているのです。
この心理は決して不合理ではありません。
ゴールドを売れば目先の現金は手に入りますが、含み益を利益確定すると同時に将来の値上がり益を手放すことになります。
一方、ゴールドを担保に入れて借りれば、金利を払うだけで、ゴールドという資産は自分の手元に残ります。

「売る」か
「保有する」かの二択に、
「借りる」という第三の選択肢が育ってきたのです。

これが実務的な変化の核心です。
そしてアメリカの法制度の動きは、これとは少し異なる論理で進んでいます。
米国のゴールド法定通貨化そのものは、連邦準備制度やドルの金兌換制度とは無関係な州レベルの象徴的立法という側面が強いです。

しかし、テキサス州の電子決済システムのように、実際にゴールドを「使える」インフラが整い始めると、話は変わってきます。
法律上の位置づけと、実務上の利便性が、同じ方向にそろい始めています。

「金本位制」の復活?

ここは誤解しやすいポイントなので、区別しておきます。

今回の法定通貨化やゴールド担保での決済インフラの整備は、それ単体では、厳密な意味での金本位制の復活を意味するわけではありません。

フロリダやテキサスの法律が定めているのは、「ゴールドやシルバーを通貨として扱うことを認める」という州法上の位置づけに過ぎません。
連邦政府の通貨制度にも、ドルのゴールド兌換にも手をつけていません。

「政府が保証する金本位制」ではなく、
「個人が自発的に選べる、ゴールドを裏付けとした決済手段」が、
法律とインフラの両面から整備されつつある、ということです。

テキサス・ブリオン・デポジトリーの仕組みも、預けたゴールドを国家が兌換保証するのではなく、預託者自身のゴールドを電子的に動かせるようにする、いわば「ゴールド建てのデビットカード」に近い発想です。

法定通貨化を批判的に見る立場からは、実際にこれらの州で金貨を使って日常の買い物をする人はごく少数であり、大半は投資家向けの税制優遇(売却時の州税免除)を目的とした象徴的な立法だ、という指摘があります。

この見方は正しい部分があります。

厳密な意味での金本位制、つまり政府がドルの兌換を保証する制度は、今のところ復活していません。

「金本位制」の一部復活

しかし、法定通貨化は変化の一部分に過ぎません。
中央銀行の準備資産構成の変化や、
現物裏付けのデジタルゴールドの拡大など、
他の要素と重ね合わせると、機能的な意味での
「部分的な金本位制的な動き」が進行しているとも言えます。

この点は先の記事「ゴールドが法定通貨になった?金本位制が部分的に復活している」で詳しく扱っています。

ゴールドの扱いの変化がはじまっています。

私たちはどうすればよいか

①「売る」か「保有する」かの二択だけで考えない

ゴールドを長期の資産防衛として保有するなら、一時的な資金需要が生じたときに真っ先に検討するのは売却ではなく、担保に入れて借りることです。

日本では、まだこの制度はありませんが、今でも考え方を応用できることがあります。
例えば住宅を購入する時に、ゴールドを売却すれば現金で買えるとしても、ゴールドは売らずに住宅ローンを組むと実質的に同じ効果があります。

②信用を確認する

日本でのゴールド担保融資は業者の信用度をまず確認してください。

③制度を注視

国ごとのインフラの成熟度には大きな差があることを理解しておくことが必要です。
インドは民間ノンバンクが主導する形で最も進んでおり、規制当局もそれを後押ししています。
米国は法制度とインフラが同時並行で整いつつある段階です。
中国は「典当行」という伝統的なチャネルが、銀行のレバレッジ規制強化とは独立して機能し続けています。
日本では、「質屋」という業態自体は各都市に根強く存在するものの、ゴールド地金を専門に担保化する仕組みは、インドほど産業化されていません。
この差は、今後数年でどう縮まっていくかを注視する価値があります。

まとめ

世界では法律とインフラの両面から、ゴールドが
「保有するだけの資産」から
「使える資産」へと近づいています。

ゴールドを取り巻く変化を追いかけていくことが、資産防衛の視点で重要だと思います。
一緒に変化をしっかり見ていきましょう。

関連記事

参考出典
Muthoot F9M26: All That Glitters is Still Gold(CreditSights)
Muthoot Finance Q4FY26 Results(DSIJ)
22Muthoot Finance: Gold Loan Boom Hits Margins Amid Rising Costs(Whalesbook)
Gold and Silver Legal Tender States 2026(World Population Review)
Bullion Sales Tax by State: 2026 Update(FindBullionPrices.com)
What States Accept Gold as Legal Tender? 2026 List(OWNx)
KINGOT for Business(株式会社アウラム)
Texas Bullion Depository

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エフピーネット代表取締役

エフピーネット株式会社 代表取締役 投資助言・代理業 関東財務局長(金商)第1898号、インベストメントアドバイザー、経済コンサルタント、ベストセラー作家

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