公開日 2026年6月17日

AI株だけ上がる本当の理由 エンロンの亡霊が蘇った

AIの循環取引はエンロン事件を連想させます。一番の問題は合法ゆえに青天井になることです。誰も正面から語らないエンロンの会計操作のDNA・遺伝子がAIに受け継がれたことを解説します。
AI株だけ上がる本当の理由 エンロンの亡霊が蘇った

エンロン事件から学ぶ先端金融工学の闇

2022年、世界で2番目に大きい暗号資産取引所FTXが突然破綻したとき、私は「エンロン型詐欺は続く」と書きました。

まず、エンロン事件の本質を理解することが、とても大事です。

エンロンは米国で最も革新的と称賛され、当時一番人気の巨大企業でした。
もともとガス会社だったエンロンが最先端金融工学で金融機関になり
ガス・電力・水・天候・排出デリバティブ取引・CDSを扱っていました。
(CDSとは、一般的にクレジット・デフォルト・スワップ・Credit Default Swapと呼ばれる金融派生商品・デリバティブです)
エンロンはエネルギー企業でしたが、実態は「最先端の金融機関」として機能しており、優秀なエリートが集まるステイタス抜群の巨大企業だったのです。

ところがエンロンは2001年に突然、米国史上最大の経営破綻をし、世界に衝撃を与えました。

エンロンの特徴は最新の金融工学を使い、デリバティブを使った取引だったので外部からはその実態が分からない状態でした。
実態が分からないことから最先端で優良のはずのエンロンが、ある日突然、破綻したのです。
隠すことが先端金融工学のDNAだといえそうです。
リスクを見えなくする手法は「仕組債」でも使われました。
「仕組債」は投資家も営業(売る側)もリスクが分かりにくい金融商品です。

エンロンのCEO、ジェフリー・スキリング氏はハーバードビジネススクールで最優秀、その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入った超エリートです。

ジェフリー・スキリング氏  BLOOMBERG NEWS

米経済界の出世の階段の最上段にまで上り詰め、数々の高級ビジネス誌のページを飾り
桁外れに優秀な男と呼ばれた人が米国史上最大の破綻の張本人でした。
逮捕され巨額不正会計で有罪判決を受けて収監されました。

あの独特の匂いが、今、また漂っています。
今度は、世界経済を引っ張っているはずのAIの中心からです。

なぜAI株だけが上がり続けるのか

世界中が危機で揺れているのに、なぜAI株だけが上がり続けるのでしょうか。
多くの人は「AIだけは本物の成長だから」と思っていますが、私はそうは見ていません。

一つは、現在、AI分野だけしか巨大な投資資金の受け皿になれないからだと思います。
次の記事を参考にしてください。

もう一つは巨大な需要が本物だから上がっているのではなく、
「同じお金がぐるぐると回っているから上がっているように見える」
からだと思います。

そして、この「お金を回す手口」は新しいものではありません。
エンロン事件、そしてリーマンショックの元凶であるサブプライムローン破綻事件で使われた構造が今のAI人気にそっくりなのです。

今回、誰もはっきりとは語らない、一つの重要な視点を解説します。
「エンロン事件の時の金融工学の専門家と手口は、破綻のたびに各所へ散らばり、同じ構造を新しい舞台で作り直してきた」ということです。

AI循環取引とは 同じお金が一周して売上になる

まず、今のAIの循環取引(サーキュラー・ファイナンス)を、できるだけわかりやすく説明します。

私があなたに1万円を貸します。
あなたはその1万円で、私の商品を買います。
すると私の売上は1万円増えます。
しかし、世の中に新しいお金は1円も生まれていません。
同じ1万円が、私とあなたの間を一周しただけです。

これが循環取引の正体です。

図1 AI循環取引(サーキュラー・ファイナンス)の仕組み

今、AI関連企業の一部で、このような循環的な資金の流れが見られます。

半導体メーカーのエヌビディアがAI開発企業に出資し、その企業が受け取った資金でエヌビディアのチップやクラウドを買う。
お金が輪を描いて戻り、売上として計上されます。

出資資金が結果として売上につながるケースはありますが、「出資」が「売り上げ」に化けるだけのこともありそうです。

この取引規模は驚くべきものです。

2026年時点で、こうした循環的な取り決めは合計8000億ドル規模に達すると分析されています。
主なものは次のとおりです。
・エヌビディアとOpenAIの1000億ドル規模の提携
・AMDが顧客に約10%相当の新株予約権まで渡す2000億ドル級の取り決め
・オラクルの3000億ドルのクラウド契約

数字だけ見れば壮大な成長物語ですが、その多くは同じ顔ぶれの間でお金が回っているだけかもしれません。

この循環取引という錬金術は新しい発明ではありません。

2000年前後のITバブルでも、通信機器メーカーのノーテルやルーセントが、自社製品を買う顧客に資金を貸し付け、売上の幻想を作りました。
自社の機器を買ってもらうために自ら融資(ベンダー・ファイナンス)をしたのです。
顧客が破綻すると貸付金は紙くずになり、その売上は幻だったと判明しました。

歴史は形を変えて繰り返します。

エンロン事件を連想させる構造

2022年の記事でエンロン破綻時の特徴を3つ挙げました。
それを今のAIに重ねてみると驚くほどきれいに一致します。

①同じ電力に同量の売り買い

エンロンは、同じ電力を同じ量だけ売り買いして、取引高と売上を水増ししました。
これは今の循環取引と、まったく同じ発想です。

②巨額の簿外債務の隠蔽

エンロンはSPE(特別目的事業体)に借金を移し、決算書から消しました。
今はデータセンターをSPV(特別目的会社)に切り出し、借金を本体の決算書に載せない手法が広がっています。
国際決済銀行(BIS)も、AI投資を支える資金調達の一部は、レバレッジを簿外に移して見えなくしている可能性があると警告しています。

③破綻直前までアナリストが強く買い推奨

エンロン株が暴落しても破綻直前まで、多くのアナリストは強気で買い推奨していました。

今も、AIの循環取引を指摘する声があがってきても、多くのアナリストはAI関連株へ強気推奨を継続しています。

一方で、エンロンの売上構造を早くから見抜いて空売りしたジェームズ・チェイノス氏のような少数派は、当時も今も必ず存在します。

違いは、たった一つです。
エンロンは違法でしたが、今回は、合法です。

残党は散らばった

私は2022年のFTXの記事で、
「金融の世界は遺伝子の中に不正会計や詐欺がある」
「エンロンの残党は散らばった」
と書きました。

過去のバブルと構造がそっくりです。
・エンロン事件
・サブプライムローン(リーマンショック)
・今のAIバブル

これを具体的に解説していきます。
誰も正面から語らない部分です。

①エンロンのプリペイ取引

エンロンの簿外取引を組成したのは、シティグループやJPモルガンといった一流銀行です。
その仕組みは、米証券取引委員会(SEC)の説明によれば、
JPモルガンからエンロンへの「融資」を「売上」に偽装したのです。

エンロンがリスクをJPモルガンの作ったSPVに譲渡
それをJPモルガンが引き受け、
最後にエンロンへ戻す、
という循環でした。

この3つの契約は、すべて「同じ日」に「同じ条件」で同時に結ばれました。
商品の移動もありません。

SPV(Special Purpose Vehicle)を間に挟んで複雑な売買契約を偽装したことで、エンロンは数億ドルの「負債」を隠し、それを「営業利益」に見せかけたのです。
今のAI循環取引と、構造がそのまま重なります。

銀行の内部メールには「エンロンはこの取引が大好きだ。借金を隠せるからだ」という趣旨の文言まで残っていました。

②同じ銀行がサブプライムを作り、今のAIを支えている

エンロンの簿外取引に関わったシティ、JPモルガン、メリルリンチは、その後、規制当局と総額3億ドルを超える和解をしました。
ペナルティ(民事罰)と被害者への支払いです。

そして同じ銀行群が、2000年代後半にはサブプライムの証券化(CDO)の中心となり、住宅ローンを小口に刻んで世界中に売りさばきました。

さらに今、AIデータセンターの巨額の簿外資金調達を主導しているのも、モルガン・スタンレーやJPモルガンです。
手口の舞台が、エネルギー→住宅→AIと移っただけです。

③サブプライムで暗躍したファンドが今のAIの主役

マグネター・キャピタル(Magnetar Capital)というヘッジファンドがあります。
2008年の金融危機で、サブプライム関連のCDO(債務担保証券)を組成しながら、同時にそれを空売りして儲けた「マグネター・トレード」で悪名を馳せたファンドです。

そのマグネター・キャピタルが、今、何をしているか。
AI向けクラウドの中核企業CoreWeaveに、当初わずか5000万ドルの転換社債で入り込み、その持ち分は約125億ドルにまで膨れ上がりました。
これは同社ポートフォリオの約72%を占めます。
2024年には、ブラックストーンと組んで当時史上最大級の75億ドルのプライベートデット(私募債)でCoreWeaveに融資しています。

これらの取引は、インフラ拡大のために多額の負債を積み上げるリスクを孕んだ循環的な動きであると指摘する声も挙がっています。

同じ人たちが、同じ手口を舞台を変えて続けています。

④サブプライムCDOは「データセンターABS」に生まれ変わった

住宅ローンを束ねて証券化したのがサブプライムのCDO(債務担保証券)でした。
今、データセンターの賃料収入や設備を束ねて証券化する「データセンターABS」という商品が急成長しています。

データセンターABS(Asset-Backed Securities・資産担保証券)とは、データセンターの不動産や施設設備から将来得られる賃貸料などのキャッシュフローを裏付けとして発行される金融商品のことです。

2018年に登場したこの新しい商品は、いまや年間140億ドル超に急成長し米金融大手のバンク・オブ・アメリカによるとデジタルインフラ証券化市場の約6割を占めるまでになりました。
中身を複雑な層(トランシェ)に刻んで見えなくする手口は、当時とそっくりです。

AIバブルの一部はデータセンター投資への過熱によって支えられています。

⑤メタの簿外SPVは、エンロンのSPEの直系

メタ(旧フェイスブック)は、巨大データセンターの資金を「プロジェクト・ベニエ」と呼ばれる約273億ドルのSPV(Special Purpose Vehicle)で調達しました。
その大半が借金ですが、SPVは別法人なので、メタ本体の決算書には借金が載りません。
見かけ上、負債が少なく健全に見えるのです。
これはエンロンのSPE(Special Purpose Entity)と同じ発想で、しかも合法です。

断っておきますが、これらの企業や個人が違法行為をしているという話ではありません。

全員、合法の範囲で動いています。

しかし、過去の金融危機に至った構造の「匂い」を最もよく知る人たちが、今、AIの資金調達の中心にいます。
この事実こそが、私が最も気にかけている点です。

プライベートクレジットという影の銀行

もう一つ、見落とされている時限爆弾があります。
プライベートクレジット(私募の融資)です。
影の銀行・シャドーバンクとも呼ばれます。

これは「銀行が貸さないお金を、規制の薄いファンドが代わりに貸す」仕組みです。
2008年のリーマンショックの金融危機後、規制が強まった銀行は、リスクの高い融資を手控えるようになりました。

リーマンショックの時より金融システムの規制が強固になったので金融危機にはならないと言われる所以です。
しかし、そのリスクは消えたのではなく、規制の緩いファンドへ移動しただけです。
リスクは、見えない場所「プライベートクレジット」へ動いただけだったのです。

データセンターなどの莫大なAIインフラ投資は、プライベートクレジットからの融資に大きく依存してきました。

AI関連企業への私募融資は、
2010年の約30億ドルから、
2025年には約400億ドルへと急増しました。

担い手はブラックストーン、ブルーオウル、アポロ、PIMCO、ブラックロックといった巨大ファンドです。
問題は、その中身が外から見えにくいことです。
エンロン破綻の前も、その構造が外から見えませんでした。

実際、2026年1月末には、AIへの不安から(DeepSeekショック)プライベートクレジットで解約請求が相次ぎ、いったん資金の流入が鈍る場面がありました。

プライベートクレジットに預けた資金は、解約できない状況が拡大しています。

合法だから安全という最大の罠

ここで多くの人はこう考えます。
「監査も通っている。法にも触れていない。なら安全ではないか」。

しかし、エンロンも、破綻するその直前まで、すべて「合法で優良な最先端企業」でした。
違法だと分かるのは、たいてい崩れたあとです。
崩れて初めて、皆が「あれは詐欺だった」と気づく。
気づいたときには、もう資産は溶けています。

つまり「合法だから安全」ではなく、
「合法のまま危険が積み上がっている」ということです。

むしろ、誰も止められない合法だからこそ、危険は青天井に膨らみます。

いま一般的に正しいと信じられている次のような投資常識は、今のような局面で機能しなくなります。
・分散すれば安全
・プロに任せれば安心
・インデックスを買っておけば大丈夫

専門家や報道を鵜呑みにせず、自分の頭で構造を見抜く力が必要です。

注目すべきサイン

では、このAI資金の巨大な輪は、どこから綻ぶのでしょうか。
注目している点には次のようなものがあります。

①プライベートクレジットの解約停止や制限

すでに運用ファンドで、流動性逼迫による融資ファンドの解約停止や償還延長が相次いで発生しています。
AI関連企業のデフォルト率が上昇しています。
さらに昨今の金利上昇はデフォルト率を上昇させるでしょう。

②社債スプレッドの拡大とCDSの上昇

テック大手は巨額の設備投資のため、記録的な規模の社債発行を続けています。

オラクルのデフォルトリスクを反映するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドは一時金融危機以来の高水準に達しました。(その後資金調達計画で低下)

 ③循環の中心にいる企業の赤字拡大と、資金繰りの変調

AIモデル企業などの事業において、売上高は急増しているものの、設備投資額や電力コストが利益を大幅に上回り、実質的な営業赤字やマイナスのフリーキャッシュフローが常態化しています。

とりわけ重要なのが、輪の中心にいるAI開発企業の採算です。
OpenAIは2026年に約140億ドルの赤字が見込まれ、これは前年の約3倍にあたります。
需要が少しでも鈍れば、輪は一気に縮みます。
お金が回らなくなった瞬間に、水増しされていた売上も、簿外に隠れていた借金も、一斉に姿を現すからです。

危険サインは、一つずつ揃いつつあります。
世界を震撼させる危機の前兆が現れている可能性があります。

もちろん、明日すべてが崩れるということではありません。
マスコミや政府もAIバブルを延命させる方向です。
資金が回り続ける限り、相場はさらに膨らむのでしょう。
しかし、楽観相場は、ある日突然、下落が下落を呼ぶ暴落相場へと変わります。
エンロン破綻時も、リーマンショック時も、そうでした。

では、どうするか

①自分の頭で考える

「成長分野だから上がる」で思考を止めず、
「そのお金は、どこから来て、どこへ行くのか」をたどってみてください。
輪を描いて戻ってくるなら、それは実体ではありません。
マスコミでは、ほとんどされない危険サインにも注目してください。

②プロや権威への依存を見直す

プロが詰むのは、能力が低いからではありません。
皆が同じ常識を共有しているがゆえに、危機の局面で全員が同じ方向に間違えるからです。

③誰かの約束に依存しない「本物の資産」を持つ

循環取引も、簿外SPVも、証券化も、突き詰めれば「誰かが払い続けてくれる」という約束の上に成り立っています。
その約束が切れた時、破綻します。
約束に依存しない資産、その代表がゴールドです。
ゴールドの価値が際立つ時です。

最後に

エンロンの専門家と手口は、エンロン破綻のあと各所へ散らばりました。
住宅ローンの証券化となり、今はAIの循環取引と簿外SPVになっています。
設計者の遺伝子は、舞台を変えて受け継がれてきたのです。
合法であるということは「制度はあなたを守ってくれないかもしれない」という意味です。

米ナスダックがスペースXなど大型IPO銘柄をインデックスに早期採用できるようにルール変更したことは制度があなたを守ることを放棄したサインです。

最後に警報を鳴らせるのは、制度でも専門家でもなく、正しい情報とあなた自身の頭です。

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プロフィール

松島修

松島修

エフピーネット株式会社 代表取締役 投資助言・代理業 関東財務局長(金商)第1898号、インベストメントアドバイザー、経済コンサルタント、ベストセラー作家

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