公開日 2026年6月4日

「自分で考えている」という、最も危険な思い込み

考えているつもりでも実際には考えていないことが実に多いです。
「自分で考えている」という、最も危険な思い込み

思考が乗っ取られている

 私が尊敬する料理人に質問をしました。
「なぜ、この薬を飲んだのですか」
答えはこうでした。

「有効性と副作用を自分で十分に調べ、飲んだ方がよいと判断したからです」

立派な答えです。
理性的で、主体的で、非の打ちどころがありません。

でも、メーカーが発表している、この薬の治験データを見ると、効果はあまりありません。
(通常は、あまり効果が無いという治験データであれば承認されません)

 ここで多くの人は、こう考えるでしょう。
「その人は、調べ方が甘かったのだ」と。

違います。問題は、もっと深いです。

その人は、調べていません。
にもかかわらず、調べたと本気で信じていたのです。

嘘をついているのではない

誤解しないで下さい。彼は嘘つきではありません。

彼の中で起きたのは、記憶のすり替えです。
最初にあったのは、ひとつの体験だけです。

「テレビに出ていた権威ある学者が、説得力をもって説明していた」

これだけです。
ところが時間が経つと、この記憶は静かに書き換わっていきます。
「説明を聞いて納得した」が、
「自分が有効性と副作用を吟味して判断した」に変わります。

本人の中では、たしかに「考えた」のです。
しかし、実際には「考えた」のではなく「考えた感」だけです。 

そして、ここが恐ろしいところですが
「考えた感」は、本当に考えたときと、区別がつかないのです。
自分では、見分けられないのです。 

だから彼は、心の底から正直に「自分で調べて判断した」と答えています。
実は、日本人の多くがこの状態に陥っています。 

なぜ、日本人にこれが多いのか

 日本人の多くは、長い受験勉強を通じて、ひとつの能力だけを徹底的に鍛えてきました。
正解に、自分を一致させる能力です。 

先生が用意した答え
権威が示した模範解答
そこに自分の答えを近づけられた者が、優秀とされました。

これは、AIへの教育でいう「教師あり学習」によく似ています。
あらかじめ用意された正解(ラベル)に、出力を合わせていく訓練です。
この訓練を何年も受けると、脳の中で「正しさ」の基準が静かに、すり替わるのです。 

本来、正しさとは「真実と一致しているか」で決まります。
ところが鍛えられた脳は、「権威と一致しているか」を正しさだと感じるようになります。
だから、権威ある人の意見を聞くと、
確かめる前に「これは正しい」という感覚が先に来るのです。
無意識にです。
その感覚を、後から「自分で考えた結果」だと記憶が裏づけることになります。

考えているつもりで、答え合わせの相手を
「真実」ではなく
「権威」に、間違えているのです。

これは、薬の話ではない

ここまで読んで、「自分は大丈夫だ」と感じた人ほど、危ないです。
なぜなら「自分は大丈夫」という、その判断こそ、検証していないかです。

そしてこれは、薬の話だけではありません。
あなたの投資の話も同じです。

「資産の10%はゴールド」
「インフレ対策に株を買う」
「ポートフォリオを組んで投資する」
「通貨は円とドルに分散するのが良い」
「日経225は10万円を目指して上昇していく」
「国にいくら借金があっても、自国通貨建てだから問題ない」

あなたがそう「思っている」
もしくは、そう「思っていた」ときのことを、
問い直して欲しいのです。

それは、本当にあなたの結論でしたか。
それとも、どこかの専門家の結論や教科書に書いてあったことを、
自分の結論だと思い込んでいただけでしょうか。

リーマン・ショックのとき、多くの専門家が「対岸の火事」だと言いました。
日本は震源から遠い、影響は限定的だと聞いた人の多くは
「なるほど、日本は大丈夫だ」と自分で納得したのです。
その後、何が起きたかは、ご存じのとおりです。 

権威に判断を預けた代償は、自分が払うことになります。 

「考えた感」を剥がす3つの問い

この混乱を解決する3つの問いがあります。
この問いは他人を論破することに使うものではありません。
あなたが、何か意見を持つ時のために自分に向けた問いです。
自分を映す鏡としてお使いください。 

①出所を問う 

「その考えに、最初に触れた瞬間を、正確に思い出せますか」 

たいていは、
テレビで見た
何度か聞いた
馴染んだ
正しく感じた
どこにも「調べた」がない。

②反転させる

 「もし、あなたが信頼するその専門家が、まったく逆のことを言っていたら、あなたは今、逆を信じていましたか」
正直に答えれば、多くの人がここで言葉に詰まります。

信念の本当の原因が、データではなく
「あの人が言ったから」だった
「そこに書いてあった」だったことが
自分の目の前で露わになるからです。

「反転させる」この問いが、いちばん何が起きていたのかを明確にする問いです。

③仕組みと数字を問う

 結論ではなく
なぜそうなるのか
仕組み・構造を説明できるか
差は何パーセントか
何人に効いて
何人に効かないのか

「効く」「正しい」とは言えても
仕組みと数字が、出てきません。

人は、結論を問われている間は、自分が分かっていると錯覚できます。
仕組みを問われて初めて、自分の中が空っぽだったことに気づくのです。 

ただし、逆張りは思考ではない

 ここで、ひとつ大事なことがあります。
これを読んで「権威の言うことは、すべて嘘だ」と思ってしまう人がいます。
これは、思考ではありません。
権威依存の、裏返しにすぎません。
権威が「上」と言ったら反射的に「下」と言う。
それは結局、判断の主導権を、相変わらず権威(の逆)に握られているのです。

自分で考えていないのです。
ただ、符号を反転させているだけです。 

目指すのは、決して反権威ではありません。
むしろ、権威は尊重し、権威が間違っていたら指摘してあげるくらいの感覚が正しいといえます。
権威が正しいときは正しいと認め、間違っているときは間違っていると言えることが思考です。 

ここでは解説しませんが、権威を敬うことは極めて大切です。
しかし、権威が言うことを鵜呑みにすることとは全く別の話です。
 

この記事も疑うこと

 最後に一番大事なことを言います。
この記事を、信じてはいけません。 

疑心暗鬼ではなく良い意味で疑ってほしいのです。

私が正しそうに書いているから信じる、ではなく
出所をたどり
反転させ
数字で確かめて
あなた自身が納得したときにだけ、受け取ってほしいのです。

もし私が、新しい「権威」になってしまったら、この記事は失敗です。
あなたはまた、考えるのをやめて、判断を私に預けることになってしまいます。 

それでは、テレビの学者の話を信じたことと、何も変わらないのです。 

一人ひとりが自分の頭で考えるようになることが、世界を良くしていく突破口になるのです。

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プロフィール

松島修

松島修

エフピーネット株式会社 代表取締役 投資助言・代理業 関東財務局長(金商)第1898号、インベストメントアドバイザー、経済コンサルタント、ベストセラー作家

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