公開日 2026年5月4日

米国・イスラエルの対イラン戦争の行方(3)

米国・イスラエルとイランの戦争は膠着状態が続く。経済・軍事の圧力が強まる中、各国の動向と今後のシナリオを整理する。
米国・イスラエルの対イラン戦争の行方(3)

4月28日、米国とイスラエルのイラン攻撃開始から2カ月を迎えた。

現在、イラン情勢は「戦闘も和平合意もない」状態にあり、戦争終結のための交渉のめどさえたっていない。

こうした膠着状態のなか、トランプ米大統領は出口を模索し続けている。トランプ政権が出口への経路のひとつとして選んでいるのが、4月13日から実施しているイラン港湾に対する米海軍による海上封鎖の延長である。

トランプ大統領は、4月29日、記者団を前にして「封鎖は天才的な作戦だ」と述べた上で、イランは「ただ、降参だといえばいい」と語った。

ただし、同大統領は、4月30日、米中央軍のクーパー司令官から軍事作戦計画の説明を受けており、他の出口への経路も選択肢としている。

米国メディアによると、作戦は短期的かつ強力なもので、複数の戦術について報じている。

具体的には、
(1)エネルギー施設や政府のインフラへの空爆、
(2)地上部隊を派遣しホルムズ海峡の一部を制圧することで海峡を開放、
(3)特殊部隊を投入して核濃縮ウランを確保などである。

このように、トランプ政権は、経済と軍事の両面でイランに最大限の圧力をかけようとしている。

また、イスラエルのメディアは4月28日、同国のカッツ国防相がイランの存在的脅威を排除するため「再び行動を起こす必要があるかもしれない」と述べたと報じている。

一方、イラン側は、ペゼシュキアン大統領が米国の港湾封鎖は「軍事作戦の延長」だと指摘し、4月28日には、革命防衛隊のムサヴィ航空宇宙部隊司令官が、敵の作戦には「長期的かつ広範な攻撃で対抗する」と述べ、米国の港湾封鎖の継続を容認しないとの強硬姿勢を示した。

米・イラン間の交渉メッセージの交換は、パキスタンを通して行われているが、5月3日、米中央軍がホルムズ海峡における自由な航行の防衛任務を4日から開始すると発表した。

この任務で米軍はミサイル駆逐艦、航空機を投入すると述べられており、イラン議会の外交政策・国家安全保障委員会のアジジ委員長は、これは「停戦違反」だとして警戒を高めている。

このような情勢が続くなか、原油価格は、ゴールドマン・サックスが予測した2026年の平均原油価格であるブレント原油が1バレル83ドル、WTI原油が78ドルを大きく上回り、2月28日の開戦前に比べて1バレル当たりおよそ50ドル上昇している。

本稿では、イラン戦争について、今後の注目点を整理した上で、「米国・イスラエルの対イラン戦争の行方(2)」(3月29日記)で示したシナリオの修正を行う。

注目される米国とイランの3つの動向

世界経済に大きな影響を与えているイラン戦争の行方を考える上で重要と思われるポイントが3つある。

高まる米国民の政権への不満

ひとつ目は、米国民の不満である。

ガソリン代や物価上昇により生活費の負担感が高まっており、トランプ大統領が国内問題ではなく、ベネズエラやイランなどの外交問題に力を注いでいることに疑問を持つ米国民が増えている。

4月28日の世論調査(ロイター通信とイプソス社が4月24日~27日に実施)では、トランプ大統領の支持率が34%と政権発足以来最低となった。

支持率低下の主な要因はイラン戦争だといえるだろう。3月の世論調査(ピュー・リサーチセンター)で、すでに、54.1%がイランへの軍事行動を支持しないと回答しており、5月1日に発表されたワシントン・ポスト、ABCニュースおよびイプソス社の世論調査では、61%がイランに対する軍事行動が誤りだったと考えている。

イラン戦争にかかっている費用も国民が不満を募らせる要素といえるのではないだろうか。

4月29日、米議会の軍事委員会で国防総省の会計監査官代行のシュールズ・ハースト氏が、これまでのイラン戦争の戦費は推計で250億ドルだと証言した。

これには、イランによる攻撃で破壊された湾岸アラブ諸国にある米軍の16の施設(高度なレーダー施設を含む)や航空機の損害は含まれておらず、実際には400億ドル以上と推計している報道もある。

仮に、2カ月で250億ドルだったとしても、それは米航空宇宙局(NASA)の今年度予算に相当する額である。

今後、開戦理由、戦略の不在と合わせて費用対効果も議論となり、この戦争の実態を国民が知ることになる。

5月1日発表の世論調査で、経済的に生活が苦しい(23%)、生活水準の維持がやっと(52%)と回答した米国民の意識と乖離し続ける対イラン政策を、トランプ大統領はいつまで続けられるだろうか。

戦争権限法の順守問題

ふたつ目は、1973年戦争権限法の順守問題である。

この法律は、泥沼化したベトナム戦争の反省から、大統領の軍事行為を制限するためのもので、以下のような内容が定められている。

(1)事前の議会への説明努力
(2)事後の場合、48時間以内の上院・下院議長への報告義務
(3)議会承認
(4)承認が得られない場合、60日以内の軍事行動の終結義務
(5)軍の安全上やむをえない場合、30日間の延長

今回の「エピック・フューリー」(壮絶な怒り)作戦は、2月28日にイランへの空爆開始、3月2日に議会に正式通知を行っているが、議会承認は得ておらず、5月1日に60日の期限が過ぎた。

これについて、4月30日にヘグセス国防長官は、米議会軍事委員会で、停戦中は60日間の期限が停止しているとの認識を示した。

しかし、米軍の港湾封鎖は、国際法では敵国の補給路を断って武力行使の継続を困難にするという軍事行動だとされており、米国は実質的には停戦をしていないと解釈される。

こうしたヘグセス長官の問題のある議会証言、戦費の拡大、承認期限切れ、米軍の被害状況が誠実に報告されていないことなどを踏まえ、議会で、再び大統領の戦時権限に制限をつける議案が提出される可能性がある。

戦争権限法では、議会による宣戦布告承認がないまま投入された軍は、議会の決議によって撤退させられることになる。

これまで超党派で6回議案がまとめられ議会に提出され、共和党の反対で否決されている経緯はあるが、中間選挙が近づきつつあるなか、国民の不満の高まりを受け、共和党議員がどう動くかが注目される。

イラン経済はどこまで耐えられるのか

3つ目のポイントは、弱体化するイラン経済の動向である。

欧米系メディアでは、4月19日にイランのモハンマディ労働・社会福祉相が、この戦争によって200万人が職を失ったと発言したことから、イラン各地で戦争の直接被害を受けた石油化学プラント、製鉄所、自動車工場などで「労働力の調整」(一時解雇)が進んでいると報じた。

また、米国によるイランの港湾封鎖の影響で、製造業、小売業、輸出入関連事業者が、操業停止や閉鎖を余儀なくされる状況も生じていると伝えており、個人消費が落ち込み始めている。

さらに、港湾封鎖は、イランの原油輸出による収入減だけでなく、減産によって油田がダメージを受けるとも報じられている。

総じて、イラン経済は、景気の後退、失業率の上昇、物価高騰の中にある。トランプ大統領が指摘するように、イランは「崩壊状態」にあるのだろうか。

イランのモジュタバ・ハメネイ最高指導者は、4月30日の公開書簡で、ホルムズ海峡の法的規則と新たな管理の実施は「地域のすべての国に快適さと進歩をもたらし、その経済的な恩恵は国民の心を喜ばせる」と述べた。

さらに、「核やミサイルに至るまで、先端技術を国家資産と見なしている」として、イランが核開発やホルムズ海峡支配を放棄しないとの意思を示した。

その上で、敵に対して軍事能力を示せた今、「経済的・文化的ジハードの段階でも、彼らを失望させ、打ち負かさなければならない」と述べている。

このモジタバ氏の強気の発言は、次のようなロイター通信(5月1日付)の報道と合致する。

ロイター通信によれば、イランでは
(1)銀行預金の引き出し制限や燃料・主食の配給制などの措置は取られていない、
(2)公務員への給与支払いの遅延は起きていない、
(3)スーパーマーケットの棚には商品が十分並んでいる、
(4)オフィスや銀行は通常営業しているのである。

それは、イラン政府が、トランプ大統領の軍事攻撃の脅しが強まった今年1月から、
(1)備蓄(6カ月分)のための必要物資の輸入、
(2)預金引き出し限度額の引き上げ、
(3)中小企業への融資などの措置をとってきた成果と考えられる。

イランは、イスラエル・米国との対立が深まるなかで、「抵抗経済」と呼ばれる経済制裁下における持久戦に取り組んでおり、農業生産や工業生産の自給自足を目指す一方、国境を接する国々との貿易拡大を図ってきた。

その成果として、トルコ、イラク、パキスタンとの貿易量は現状、落ち込んでいない。また、ロシアとはカスピ海経由の貿易が拡大している。さらに、パキスタンとの国境に近いチャハバル港は封鎖されておらず、機能している。

ただし、このような取り組みにより、ホルムズ海峡を通しての交易を代替できているとはいえず、原油の減産や輸入品を中心とする価格上昇が続くと予想される。

したがって、いずれ、イランの政治指導者たちは、港湾封鎖の解除、国外の凍結資産の解除、経済制裁解除といった成果を上げる一方、トランプ大統領が納得できる大きな譲歩をするという難しい交渉に踏み出さざるを得なくなると考えられる。

そして、その交渉で成果が上げられず、市民の経済的苦境が長引けば、大規模な抗議活動が発生することになるだろう。

その他の注目すべき動向

イラン、米国に直接かかわる動向以外で、注目される2つの動きがある。

UAEのOPEC脱退

4月28日、アラブ首長国連邦(UAE)が、5月1日付で石油輸出国機構(OPEC)とOPECプラス(OPECと非OPEC加盟の主要産油国で構成)から離脱すると発表した。

UAEの離脱は、価格管理と市場安定化のために、加盟国の原油生産量を制限する石油カルテルの政策に対する不満が理由とされる。

同国の原油生産量は日量480万バレルまで増加したが、OPEC協定では320万バレルに制限されている。

UAEは、ポスト・オイルを目指し経済構造改革を進めており、その費用を賄うために石油・天然ガスの収入拡大政策に取り組んでいる。

離脱により、UAEはホルムズ海峡の外でオマーン湾に位置するフジャイラ・ターミナルを通じて原油輸出や精製燃料の輸出を増やすことが可能になり、ホルムズ海峡が封鎖されている現状、世界経済にもプラスとなる。

かねてよりOPECは「世界を搾取している」と不満を口にしてきたトランプ大統領は、UAEのOPEC離脱を称賛した上で、「ガソリン価格を下げ、原油を下げ、あらゆるものを下げる点でよいことだと思う」と述べた。

米国メディアでは、UAEが米国およびイスラエルと何らかの取引をしたとの報道も流れている。

UAEは、イスラエルと「アブラハム合意」による国交正常化を行っており、経済交流も活発化している。

イスラエルは、イラン戦争前に、UAEに防空システム「アイアンドーム」を提供していたが、今回、軽量の監視システム「スペクトロ」と新防空システム「アイアンビーム」(高出力レーザー照射)も提供した。

また、米国は、UAEがイランによる攻撃で財政支援が必要となれば支援するとの方針を示している。

UAEが他の湾岸協力会議(GCC)諸国とは一線を引くかたちで、明確にイスラエル、米国よりの立場をとる背景には、イランによるGCC諸国に対する攻撃において、UAEが弾道ミサイルやドローン攻撃を最も多く受けたことがある。

イランとUAEの間には、これまでの
(1)領有権問題(大小トンブ島、アブ・ムーサ島)、
(2)イスラエルとの関係についての対立だけでなく、
(3)イスラエルと米国によるイランの体制転換工作にUAEが協力したとの疑念もある。

今後、UAEがイスラエルから提供された防空システムのもとで、米国、イスラエルによる対イラン攻撃の拠点を提供することがあれば、湾岸地域での戦闘はエスカレートする恐れがあり、同国の動向が注目される。

なお、アラブ・メディアではイエメンやスーダンをめぐるサウジアラビアとUAEとの対立や、他のGCC諸国とUAEのイラン政策の違いがあるとして、GCCの亀裂にも焦点を当てている。

ホルムズ海峡の自由航行への取り組み

もうひとつの注目点は、「海洋自由構想」と名付けられた、有志連合によるホルムズ海峡の航行の自由に取り組む動きである。

トランプ大統領は、ホルムズ海峡をめぐっては他国の支援を必要としないと述べ、EU、日本、韓国などの対応を強く非難してきた。

しかし、5月1日、米国務省は各国に「海洋自由構想」への参加を要請した。

その内容は、米中央軍がリアルタイムの海洋状況把握(MIDA)を提供し、米国務省と米国防省の主導で安全航行確保の調整を行うほか、外交的調整、制裁の実施を行うというものである。

こうしたトランプ政権の下での政策協調は難しい問題であるが、世界経済のためにホルムズ海峡の自由航行を回復させるため貢献するとの理由で、同構想に参加する国も出てくると考えられる。

その数が増えてくれば、新たなペルシャ湾の秩序が形成されることになる。

以上、イラン戦争をめぐり注目される今後の動向を整理した。

これ以外にも、イラン・ロシア関係、中国の湾岸外交もイラン情勢に変化を与える要素ではあるが、ロシア、中国の外交は今のところ、イラン戦争の行方を左右するほどの重要性はなさそうである。

短期的なシナリオの再修正

3月29日から1カ月以上経過し、パキスタンによる仲介努力もあり、ミサイルやドローンによる戦闘は停止状態にある。

また、イランは、パキスタンを通じて交渉再開に向けての14項目の提案を米国に送り、5月3日に米国からその返答を受け、内容を検討している。

一方、イランと米国が一旦は交渉のテーブルに着いたことで、国際社会は両国の主張の隔たりの大きさを確認することになった。

上記で整理した点と、米国によるイランの港湾封鎖と軍事圧力が増していること、およびイスラエルがレバノンで空爆を継続していることなどを踏まえ、3月29日のシナリオを以下のように修正する。

・・・

全文を読みたい方は「イーグルフライ」をご覧ください。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2026年5月3日に書かれたものです)

【追記】2026年5月5日:5月4日9時時点の最新の情勢に基づき、本文を一部更新しました
※「イーグルフライ」では、本稿に基づいた今後の詳細な予測シナリオ(最新版)を公開しています

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プロフィール

水口章

水口章

外務省主管財団法人中東調査会上席研究員などを経て、敬愛大学国際学部教授。同大学総合地域研究所所長。法務省難民審査参与員。 湾岸戦争、米国同時多発テロ、イラク戦争、「イスラム国」(IS)問題など、中東地域関連問題についてマスメディアで解説してきた。

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