公開日 2026年4月21日

「紛争早期終息」の前提は非現実的になりつつある

ホルムズ海峡の混乱長期化で原油供給に深刻な影響。紛争の早期終息を前提とした市場の楽観は崩れ、世界経済の下振れリスクが現実味を帯びている。
「紛争早期終息」の前提は非現実的になりつつある

イラン、アラグチ外相のホルムズ海峡開放発言で、運航正常化の期待が高まったが…

イランのアラグチ外相は4月17日、レバノンでの停戦合意を受けてホルムズ海峡を開放すると述べ、これを機に米・イランの和平合意への期待が高まり、同日のニューヨーク市場では、原油価格が急落、株価は急騰した。

だが、米、イラン双方の言い分は、相変わらず食い違っており、ホルムズ海峡の通航がいつ本当に正常化するかは不透明だ。

17日、トランプ大統領は、イランの港に向かう船舶に対する米国の封鎖は「イランとの取引が100%完了するまで」維持されると述べた。

これに対して、イランのガリバフ国会議長は「米海軍によるイランの港湾封鎖が継続する場合、海峡を再び閉鎖する可能性がある」、「海峡の通過は、指定されたルートを通じ、イランの許可を得た上で行うことができる」と述べた。

また、イラン国防省の声明によると、敵対勢力である米国やイスラエルに関連する軍用船や船舶の通過は依然として許可されていない。

結局、イラン当局は、翌18日になって、米国がイランの港湾封鎖を続け、約束を履行していないとの理由でホルムズ海峡を再封鎖した。

イラン側は、全ての船舶はイスラム革命防衛隊と調整を行う必要があるとしており、ホルムズ海峡通航に関する何らかの権益を維持しようとしていることは明らかだ。

船舶追跡データによると、アラグチ外相の発言を受けて、4月17日の夕方、コンテナ船、ばら積み貨物船、タンカーなど約20隻がホルムズ海峡へ向かっていたが、⁠その大半は引き返した。

海⁠峡の一部に敷設された機雷による脅威も払拭されておらず、安全な船舶の航行も保障されていない。

英仏は17日に、停戦後の機雷除去を担う多国籍ミッションを創設したが、あくまでも停戦が前提となる。

戦争開始前、ホルムズ海峡を通過する船舶の数は、1日当たり約130隻だった。現在、海峡内に閉じ込められている船舶は約2,000隻と言われ、それを退避させるだけでも時間がかかる。

こうしたことから、国際海事機関(IMO)のドミンゲス事務局長は、「ホルムズ海峡が開放されたとしても、航行正常化には数か月かかる」と述べている。

主要な争点となっているイランの核開発計画についても、双方の言い分の隔たりは大きい。

トランプ大統領は、イランが核開発計画を無期限で停止することで合意したと述べた。米国はイランの濃縮ウラン備蓄を撤去するとも述べている。

これに対して、イラン側は、核開発計画を「民生用原子力エネルギー計画」としており、その権利があると主張している。

さらに、イランの資産凍結解除に関しては、イラン側は凍結解除についての合意があると述べていたが、トランプ大統領は、17日時点で、これに否定的な発言をした。

以前、ニュースサイトのアクシオスが、イランの資金200億ドルの凍結を米国が解除する見返りに、イランが濃縮ウランの備蓄を放棄することが協議されていると報じていた。

イスラエルとレバノンの間で合意された停戦協定については、レバノン軍がイスラエルによる違反が一部であったと報告したが、17日の時点ではおおむね維持されていたようだ。

ただ、イスラエル首相府は17日、ヒズボラに対する作戦は「まだ完了していない」と表明しており、目標はヒズボラの解体で「これは明日達成されるものではない」と述べている。

これについて、トランプ大統領は、米国とイランの協議は、イスラエルとレバノンの停戦とは完全に別の合意だと述べた。

イラン側は、前回の停戦協議でも、イランに対する完全かつ恒久的な安全保障・攻撃停止と中東地域(イラク、レバノン、イエメン)における戦闘の完全終了を求めていた。

イスラエルを切り離して扱おうとするトランプ大統領のスタンスは、イラン側のこれまでの主張と食い違う。

確かに、米・イラン間の協議は始まっているが、双方の言い分の隔たりは大きく、トランプ大統領の発言のように、すぐに協議が決着するわけではない。

一方で、日量約2,000万バレルと世界の原油供給の2割を占める、ホルムズ海峡の通航が元通りにならない限り、時間の経過とともに、世界の原油需給は徐々にひっ迫度合いを強め、

原油価格を押し上げるとともで、あちこちで供給不足が表面化することになる。

国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は「欧州のジェット燃料はあと6週間分程度しか残っていない」と述べ、ホルムズ海峡の封鎖が続けば「間もなく」航空便が欠航し始めるだろうと述べた。

OPECの原油生産減少により、世界全体では日量440万バレルの供給不足に

4月のIEA(国際エネルギー機関)“Oil Market Report”によれば、2026年の世界の原油需要は日量1億430万バレルで予想されている。

これに対して、北米、ロシアなど非OPEC諸国の原油供給は7,280万バレル/日と予想され、差し引きOPECに対しては、3,150万バレル/日の原油需要が見込まれている。

OPECはこのうち510万バレル/日を天然ガス液の形で供給すると予想されている。3,150万バレルから510万バレルを差し引いたOPECへの原油需要は、2,640万バレルになる。

一方、ブルームバーグによれば、OPECの実際の原油生産は2024年に約2,700万バレル、25年に約2,800万バレルと増加傾向を辿り、イラク攻撃直前の26年2月時点では2,960万バレルと増加していた。

だが、3月は2,200万バレルと大幅に減少した。興味深い点は、このうち、イランの生産の落ち込み幅が小さかったことだ(2月341万バレル→3月323万バレルで18万バレル減)。

3月にかけて、OPECのなかで、主に原油生産が大きく落ち込んだのは、イラク(同439万バレル→163万バレルで276万バレル)、サウジアラビア(2月1,043万バレル→3月836万バレルで207万バレル減)、UAE(同360万バレル→216万バレルで144万バレル減)、クウェート(同255万バレル→136万バレルで117万バレル減)などだ。

ここから、(1)イランの石油関連施設にほとんど被害はなく、中国など友好国に原油を輸出できていたこと、反面、(2)湾岸諸国では、石油関連施設への被害あるいはホルムズ海峡での足止めによって、輸出が困難な状況だったこと、がわかる。

前述したIEAのビロル事務局長は、中東での紛争によって失われた石油生産設備について「それは国によって異なるだろう。

例えばイラクでは、サウジアラビアよりもはるかに長い時間がかかる。しかし、全体として戦前の水準に戻るには約2年かかるとわれわれは想定している」と述べている。

3月のイラクの原油生産の減少率がとりわけ大きいかったのは、ホルムズ海峡封鎖の影響というより、イラクにおいて石油関連施設の被害が大きかったことが原因ではないかとみられる。

だとすれば、仮にホルムズ海峡封鎖が解かれても、供給はすぐには増加しないことを意味する。3月時点では、世界全体の原油需要の4.2%に相当する440万バレルの不足が生ずる計算だった。

これは、通常であれば原油価格を8割程度押し上げる可能性がある(原油の場合、短期的な需要の価格弾力性は0.05程度と低く、仮に原油生産が1%減少し、それに合わせて原油需要を1%減少させなければいけないとすると、原油価格は20%(1÷0.05=20%)上昇しなければいけない計算になる)。

イラン攻撃が始まった3月以降の原油WTIの価格の動きをみると、4月7日に113ドル/バレルまで上昇したが、2月末の67ドルに比べ7割程度の上昇にとどまった。

これは、トランプ大統領のTACO“Trump Always Chickens Out”を期待し、戦争の早期終結への期待が強いからだろう。

だが、昨年の関税問題とは違い、今回、TACOは期待できないかもしれない。昨年の関税問題で、トランプ大統領は、自分の言いだした高関税が株価を下落させることがわかると、すぐにそれを撤回した。

今回もイランからすぐに手を引きたいが、ガソリン価格上昇(→支持率低下)につながるホルムズ海峡封鎖を人質にとられ、すぐに逃げることができない状態になっている。

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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2026/4/20の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。

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新見未来

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