米国・イスラエルの対イラン戦争の行方(2)

前回の拙稿(3月22日付)から1週間が経過し、欧米のグローバルメディアや現地メディア、研究所などからの情報は、22日付の拙稿で示した短期シナリオの(1)米国とイランが交渉、(4)イランの「分散型モザイク防衛」戦略が機能、(5)米国によるイラン領の島への奇襲上陸作戦の実施に関するものが多くなっている。
以下では、この間の湾岸協力会議(GCC)諸国の動向の変化などに触れた上で、修正版の短期シナリオを示したい。
なお、情勢の変化を確認できるよう、22日から28日午前まで(日本時間)の主要動向を本稿の末尾に示しておく。
対イラン攻撃でトランプ政権が抱える難問
この1週間の動きを見ると、米国とイスラエルのイラン攻撃は、(1)ミサイル・ドローンの破壊、(2)産業基盤・インフラ、(3)海軍力・空軍力の排除で大きな成果を上げており、トランプ大統領が言及している「軍事的な勝利」に近い状況ともいえる。
ただ、攻撃当初から軍事行動の目的として挙げられた核開発の阻止、親イラン武装組織への支援断絶に関しては、軍事力では達成が困難な状況にある。
さらに、イランの新たな最高指導者モジタバ師が3月12日に初の声明で、ホルムズ海峡とGCC諸国への攻撃継続に言及したことで、トランプ大統領は、米国・イスラエルのイラン攻撃により新たに生じたGCC諸国の安全保障の確保という難問を抱えることになった。
「分散型モザイク防衛」戦略をとるイランは、米・イスラエルの攻撃に耐えながら、イスラエルとGCC諸国へのミサイル、ドローン攻撃を行っている。イランは、GCC諸国に対し、民間施設を標的にしないとしながらも、カタール、UAE、バーレーンでは空港や製油所などへの攻撃も見られている。
トランプ大統領が3月21日にSNSで、イランに48時間以内にホルムズ海峡を開放しなければ同国の発電所を攻撃すると述べたことに対し、そうなれば、イランはGCC諸国のエネルギー施設、淡水化施設を含めて無制限の報復を行うと応じた。
その後、3月23日にトランプ大統領はSNSで、48時間の期限を5日間延長すると投稿し、さらに26日には、開戦後初の閣議を開催した後、期限を4月6日午後8時(日本時間7日午前9時)に延長するとSNSに投稿した。このように発電所への攻撃を先延ばしにしたことで、イランのGCC諸国への報復攻撃を弱めたとも考えられる。
トランプ政権が抱える難問はそれだけではない。
対イラン攻撃の影響はトランプ政権の制御可能範囲を越え、世界経済に、エネルギー・物流危機をもたらしはじめた。そして、これを懸念したパキスタン、トルコ、エジプトが仲介に動き始めている。トランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエルの情報機関モサドの甘い分析でイランの底力を見誤り、周辺諸国や世界経済に及ぼす悪影響を十分検討せずにイラン攻撃に踏み切ったとメディアで報じられている。
この初動の誤りにより、トランプ政権は、現在、対イラン政策の転換を迫られている。同政権の現在の選択肢は、次の2つと考えられる。
(1)米軍の増派により地上戦を含めたさらなる大規模な攻撃を実施する。
(2)より幅広い交渉条件をイランに提示し、攻撃の成果を確認しながら
段階的に緊張緩和をはかる。
トランプ大統領が一方的にイランに示した期限の延長は、どちらを選択するかの意思決定のための「時間稼ぎ」といえる。
トランプ大統領の選択に影響を与えるGCC諸国の「恐れ」
このトランプ大統領の意思決定に影響を与える国外の要因は、ネタニヤフ首相の対イラン認識とGCC諸国のイランに対する「恐れ」である。
まず、ネタニヤフ首相は、米国が3月24日に戦闘終結のための15項目案をイランに提示したことを受け、戦闘が終結に向かうことを警戒し、イランへの攻撃強化を軍に指示しており、27日にはイラン西部アラク(重水炉)と中部ヤズド近郊のウラン精鉱製造施設を攻撃している。
ネタニヤフ首相は、米国とイランの間接的やり取りを睨みつつ、イランの軍幹部の殺害、ミサイル攻撃への対応、反体制活動への支援を行い、たとえ米・イラン間で合意が成立しても、これらの行動を継続させる可能性がある。
一方、GCC諸国では、3月24日にニューヨーク・タイムズが報じているように、「終結は誤りだ」との声が強いとみられる。サウジアラビアのムハンマド皇太子は、政策転換を図ろうとするトランプ大統領に原油価格の上昇と、それにともなう世界経済への悪影響は一時的なものだと説得しようとしている。サウジにとって、「イランの脅威」は1979年のイラン革命以来続いており、その脅威はイスラム体制の崩壊なしには解消が難しいと考えている。
サウジをはじめとするGCC諸国は、仮に、トランプ大統領が戦闘を終わらせた後にイランに革命防衛隊を中心とするイスラム強硬派勢力が台頭すれば、再びホルムズ海峡の封鎖やGCC諸国の石油・天然ガスの施設などが標的になる可能性があることを恐れているといえる。
このため、サウジをはじめアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、クウェートは、国連安全保障理事会や人権理事会で、イランの民間施設への攻撃、ホルムズ海峡の封鎖に関する非難決議案提出の働きかけや、アラブ・イスラム諸国との協議などの外交も行っている。
GCC諸国が抱える問題の複雑さ
そのGCC諸国が、現在抱えている主な問題は、次のようなものといえる。
(1)イランが弱体化する中、サウジアラビアが湾岸地域での勢力拡大を図ること。
(2)カタールの天然ガス施設が被害を受け輸出能力が17%低下しており
(年間収入で推定200億ドルの損失)、
その修復に3年から5年かかると見込まれていること
(同国の天然ガス輸出は世界の20%を占めている)。(3)シーア派が多数居住するバーレーンでは開戦以来、
イラン支持者など220人が逮捕されており、
バーレーン王室(スンニー派)の打倒を掲げる抗議が発生しており、
社会不安の高まりがみられること。
なお、バーレーンでは2024年に米海軍第5艦隊の駐留(9000人以上)とイスラエルとの国交正常化に反対する大規模な抗議運動が起きており、今後の動向が注目される。
また、米・イスラエルとイランの戦闘へのGCC諸国の反応は、必ずしも一致しているわけではない。クウェートは、米軍にとって戦略的なアリ・アル・サレム空軍基地を含め多数の軍事施設を抱えているためイランからの攻撃回数も多く、製油所なども被害を受けており、イランに対する怒りが強いと考えられる。
一方、2月まで米国・イラン間の仲介役を務めたオマーンは、ブサイディ外相がエコノミスト誌などで、イランは交渉で重要な譲歩をしていたと述べ、米・イスラエルがイランを攻撃する必要はなかったと主張している。こうしたイランとの関係を反映し、イランからの攻撃量はGCC諸国の中で最も少なく、被害も少ない。
オマーンとは対照的に、イランからの攻撃を最も受けているのはUAEである。イランは、米・イスラエルのイラン攻撃について、UAEが重要な役割を果たしていると考えており、他のGCC諸国を合わせた攻撃回数以上に同国を攻撃している。
イランがUAEに対し抱いている主な疑念として、次の2点が挙げられる。
(1)UAEが米軍に対し同国内の米軍施設以外に複数の空軍基地を利用させていること。
(2)UAEが高度な人工知能を使って、イラン国内の反体制派の人々と協力し
「ターゲット・バンク」を完成させたこと。
イランとUAE間には、ペルシャ湾内の大小トンブ島およびアブ・ムーサ島の領有権問題があり、これまでも関係が良好とはいい難かった。米軍のペルシャ湾内の島への上陸作戦では、これらの島の奪還が行われるのではないかとも報道もある。
このように、GCC諸国は各国事情を抱えながら今回の事態に対応しており、今後のシナリオにも影響を与えている。
短期的なシナリオの修正
以上を踏まえ、短期的シナリオを考えると、3月22日に、蓋然性は低いとして示した「シナリオ2」と「シナリオ3」は消えたといえる。また、米・イスラエルの対イラン攻撃での政策の協調性は、開戦当初よりは弱まっているとみられることから、
以下のようにシナリオを修正する。
1.米国とイランが交渉を行い、今後イランへの攻撃は行わないことと経済制裁の解除を交換条件に、イランはホルムズ海峡の自由航行と高濃縮ウランのイラン国外への搬出で合意し、米国は戦闘を終結し、イスラエルもこれに従ってイランとの戦闘を停止する。【蓋然性は小】
2.米国とイランが交渉で合意、もしくは米国が一方的に勝利宣言をすることで両国間の戦闘は停止するが、イスラエルはイランに対し断続的に空爆や要人の暗殺を続ける。【蓋然性は中】
3.米国がGCC諸国の安全確保を理由として、各国内の複数の基地に海兵隊、空挺隊を配備し、そこからイラン国内の軍事基地への監視および攻撃を継続し、低レベルの戦闘が長期にわたり続く。【蓋然性は高】
(1)イスラエルは、レバノン、イエメン、イラクの親イラン武装組織への監視・攻撃に当たる。
(2)ホルムズ海峡については、有志連合がイランとの協議を踏まえて非戦闘国の航行を確保する。
(3)イスラエルによるイラン国内の政権打倒工作は継続する。
(4)イランは、GCC諸国の基地や米国関連施設などに対し反撃を行うが、
米軍が迎撃ミサイルなどをアジア地域から中東地域に移動させることで、
多くは迎撃される。
4.米国によるイラン領の島への奇襲上陸作戦が実施され、ホルムズ海峡の航行ルートが確保される。【蓋然性は中】
(1)米軍には大きな被害が出ない。
(2)イスラエルは、奇襲上陸作戦に合わせて、
テヘランなどの主要都市の発電所、軍関係施設への空爆を実施する。(3)イランは、GCC諸国の基地、エネルギー関連施設、
淡水化プラントなどに対する反撃を行うが、
米軍が迎撃ミサイルなどをアジア地域から中東地域に移動させることで、
多くは迎撃される。
5.米国によるイラン領の島もしくは本土への奇襲上陸作戦が実施されるが、占領は失敗する。【蓋然性は中】
(1)ゲシュム島などイラン領の島への上陸作戦を実施するが、
イラン軍がこれを撤退させるとともに、
GCC諸国のエネルギー施設、淡水化プラント、空港などの
経済インフラへの報復攻撃を実施する。(2)イラン側の新型ミサイルにより、
標的にされたGCC諸国の施設の防衛ができず、大きな被害が出る。(3)ペルシャ湾内に機雷が敷設され、同湾内に入る船舶が激減する。
(4)イエメンのフーシ派によるバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖に向けた軍事行動もはじまる。
なお、このシナリオ5では、原油、天然ガスの供給が急激に減少し、回復までに長期間かかり、原油価格は急上昇する。また、貨物輸送にも障害をきたす。さらに、UAEをはじめGCC諸国内の空港が標的とされることで航空ルートにも混乱が生じる。
・・・
全文を読みたい方は「イーグルフライ」をご覧ください。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2026年3月29日に書かれたものです)
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