米国・イスラエルの対イラン戦争の行方-不確実性が高まる世界経済-

2月28日に開始された米国・イスラエルのイラン攻撃から3週間が経過した。
3月11日にトランプ大統領は、オンラインで開催された主要7カ国(G7)首脳会議で、イランは「降伏間近」だと述べていた。
実際、3月19日の時点で、米軍はイラン国内の7000か所を標的として、ミサイル発射装置、防衛産業基盤、海軍などに大打撃を与えており、制空権を抑え、軍事面では順調に作戦を進めている。
しかし、イランのホルムズ海峡の封鎖、湾岸アラブ産油国への報復攻撃により、トランプ大統領が初期に述べた4週間程度というタイムラインが長引く状況が生まれつつある。
この変化は、3月8日にイランの第3代最高指導者に選出されたモジタバ・ハーメネイ師(前最高指導者の息子)が、12日に出した初の声明で、ホルムズ海峡封鎖を交渉材料に活用すること、湾岸アラブ産油国に対する攻撃の継続に言及し、その通りにイランが動き、事態がエスカレートしたことによってもたらされたといえる。
米国防総省は、3月13日には長崎県の佐世保米海軍基地に配備中の強襲揚陸艦「トリポリ」(F35戦闘機も搭載)他2隻、および沖縄県に駐留する即応部隊「第31海兵遠征部隊」(2200人以上)を対イラン戦に派遣した。
また、同日、トランプ大統領がソーシャルメディアに「イランのカーグ島にある軍事目標を米軍が完全に破壊した」と投稿し、ホルムズ海峡における船舶の自由かつ安全航行を阻止させないとの姿勢を示した。
さらに、20日には、カリフォルニアを拠点とする強襲揚陸艦「ボクサー」と第11海兵遠征部隊(2000人以上)を追加派遣した。
こうした艦船や人員の配備を待って新たな作戦を実施するとなると、移動期間を勘案すれば3月22日以降、イラン情勢は一層緊迫度を高めるといえる。
3月21日、トランプ大統領がSNSで、「48時間以内」と時間を区切ってホルムズ海峡の完全開放をイランに迫った。
イランは、トランプ大統領から、2025年6月の「12日間戦争」と同様に無条件降伏を要求されながらこれを拒否し、(1)制裁の緩和、(2)戦争賠償、(3)将来的にイラン攻撃をさせないという国際的保証などを求めている。
本稿では、こうしたイランの戦略を踏まえて「イラン戦争」の今後の動向と国際社会への影響について考察する。
長期戦を準備していたイランの防衛戦略
中東のメディア「アルジャジーラ」(3月10日付)は、イランのアラグチ外相の話として、イランは米国やイスラエルとの戦いで軍の上級指揮官、主要施設、通信網を失い、中央集権的な統治が弱体化しても、長期的に作戦を維持できる防衛戦略を研究していたと報じた。
その防衛戦略は「分散型モザイク防衛」と呼ばれており、革命防衛隊(IRGC)と密接に結びつけられており、その特徴としては次のような点が挙げられている。
(1)防衛を複数の地域に分け、各地区の独立性を高める(分権化)。
(2)軍もIRGC、バシージ、正規軍、ミサイル部隊、海軍部隊などの指揮系統の分散化システムを採用。
(3)低コストで大量の兵器(ドローン、機雷、高速攻撃艇など)を生産し、相手側に大幅な防衛費の負担をさせる。
(4)ミサイルは相手側の深遠部への攻撃能力と抑止力を高めるために保有する。
(5)広範に親イラン・ネットワークを展開し、戦場がイラン領土内にとどまらないようにする。
この戦略は、イランが、2001年のアフガン戦争、2003年のイラク戦争で、単一指揮系統の国家が米国の軍事力により短期間で崩壊したことを教訓としたものであり、戦闘を長引かせ、継続コストや国内外の批判に対する耐久力をもって政治的終結を得ようとするものである。
それに加え、イランの体制は、前ハーメネイ最高指導者のもとで、軍、政府、民間の重要ポストについて、事前に後継者を指名(最大4人)していることが示唆されており、暗殺、失踪などへのリスク対応もなされている。
今回の戦争で、ハーメネイ最高指導者、ラリジャニ国家安全保障最高評議会(SNSC)事務局長、パークプール革命防衛隊司令官、ムーサビー統合参謀本部長をはじめとする国家指導者たちが殺害されても、イランの「分散型モザイク防衛」戦略が機能することが明確となった。
この戦略は、広い国土、厳しい地形、分散した都市圏・人口を有し、国際的エネルギー供給路であるホルムズ海峡の航行のカギを握っているイランの特徴を活かしたものといえる。
この防衛戦略への対抗策として、米国はホルムズ海峡の軍事的威圧による再開、ペルシャ湾内のイラン領の島(カーグ島、ケシム島)、イラン・アラブ首長国連邦間の係争地(アブムーサ島、大小トンブ島)を攻撃することなどがメディアで報じられている。
また、イスラエルは、3月17日のイラン民兵組織(バシージ)のソレイマニ司令官、翌18日のハティブ情報相の殺害にみるように指導者層への攻撃、革命防衛隊、バシージ、警察など治安関係機関の拠点の破壊、さらには、イラン国内での工作活動を通してイランの民衆蜂起を扇動する戦術をとっている。
以上、概観したようなイランと米・イスラエルの間の軍事行動は、今後、どのような道筋をたどるだろうか。
短期間での政治的終結はあるのか
米・イスラエルは、イランのイスラム体制の無力化というビジョンを共有している。
しかし、エネルギー価格の高騰や、それぞれの国内政治事情から、戦争終結に向けて描くシナリオは異なっているとみられる。
つまり、両国が連携して始めたイラン戦争を、両国が連携して終わらせることができるかが不透明な状態なのである。
以下では、この状況を踏まえつつ今後の短期的シナリオを挙げる。
1.米国とイランが交渉するなか、トランプ大統領が軍事的勝利を宣言し派遣した軍を撤退させる。<蓋然性は高い>
ポイントは、
(1)米国のガソリン価格の継続的上昇と金融市場のさらなる不安定化、
(2)米国がイランの軍事能力を低下させたと明確に主張できる戦果を挙げることである。
この2点の状況次第では、合意なしでの一方的勝利宣言・米軍の撤退もあり得る。
2.湾岸アラブ産油国がイランに対し軍事的圧力(米軍に領土内の基地使用を認める、対イラン軍事行動への一部参加など)をかけた上で米・イスラエルとイラン間の停戦を導く(イランに核開発問題で大幅に妥協させる一方、イランの安全保障を国際的に保証する)
イランは、核拡散防止条約に基づく核開発の権利を主張しているが、2月28日の攻撃前のジュネーブでの交渉では妥協案を示しており、経済制裁の解除を交渉材料にすることで妥協を導ける可能性がある。<蓋然性は低い>
ただし、イスラエルのネタニヤフ政権には不満が残ると考えられる。
3.オマーン、エジプト、ロシア、中国などの第三者の仲介者による停戦を、イラン、米国が受け入れる。<蓋然性は低い>
(1)オマーン、エジプトが現在、積極的に仲介努力をしている。
オマーンはこれまでも米・イラン間の仲介を行ってきたことに加え、ポスト・オイル産業として地域最大のデータセンター計画があり、その計画が大幅委の暮れることを避けたいとの動機がある。
また、エジプトは、パンの価格上昇などから生じる国民の不満の高まりを抑えたいとの動機がある。
こうした各国事情をイランは理解している一方、トランプ大統領、ネタニヤフ首相が妥協するかは不透明。
(2)ロシア、中国は、イランと政治、経済、軍事的関係があり、上海協力機構やBRICSのメンバー国であるイランへの攻撃を強く非難している。
ただし、トランプ政権と欧州諸国との間に亀裂が入ることや欧米諸国が経済的に弱ることにはメリットを見出している。
また、両国とも湾岸アラブ諸国との関係が悪化することも望んでおらず、今のところ、積極的に仲介する姿勢を示していない。
4.イランの「分散型モザイク防衛」戦略が機能し続けることにより、イスラエルはイランへの攻撃および加えレバノンでの戦闘が継続し、米国は勝利宣言ができるほどの戦果を挙げられず、政治的終結の契機を見出せないまま6か月程度戦闘状態が続き、弾薬、ミサイルの在庫の制約から戦闘は低レベル化するものの、イラン、米国、イスラエルの被害が増え続ける。<蓋然性は中程度>
(1)イラン国内の民衆蜂起は体制側に抑え込まれ、クルドやバルーチなどの少数民族の蜂起は一部の地域で成功する(分離独立への方向を示す)可能性があるものの、イランの体制は維持される。
(2)ホルムズ海峡の安全航行は、有志連合が結成されることで保障されることになると考えられる(イラン側も通行料の徴取など経済的メリットを得るかたちで交渉が成立)。
5.米国によるイラン領の島への奇襲上陸作戦が実施され、イスラエルによるイランの経済インフラへの攻撃が続く一方、イランが湾岸産油国のエネルギー関連施設および淡水化プラントなどの重要施設を攻撃することで、エネルギー価格、工業製品の原材料価格、輸送コストなどが上昇し、世界経済が危機に陥る。<蓋然性は中程度>
(1)米国がカーグ島(イランのエネルギー輸出の90%を担う拠点)への奇襲作戦が行われた場合、イランは同島の施設や港などを大規模に破壊することが考えられる。
(2)カーグ島に限らず米軍がイラン領の島への上陸作戦は、イラン側の反撃が大きく、米軍の被害も小さくはないと考えられることから、米国内でのトランプ政権への非難の声が大きくなり、11月の中間選挙への影響がでてくる。
(3)エネルギー価格が急騰し、原油価格は過去の最高値の1バレル147ドルを超え、70ドル台程度に低下するまでにかなりの期間を要する可能性がある。また、天然ガスは、カタールの施設がすでにイランからの攻撃を受けており、供給不足、価格上昇がみられており、この状況がさらに悪化すると考えられる。
(4)なお、合わせて、米・イスラエルがイランの核開発を阻止する目的で核施設への空爆の継続や特殊部隊による作戦を実行することも考えられるが、その場合、イラン側が対応策として核を拡散させる恐れがあり、核の脅威がより高まることも考えられる。
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全文を読みたい方は「イーグルフライ」をご覧ください。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2026年3月22日に書かれたものです)















