イスラエルによるイランへの先制攻撃と今後のシナリオ

6月13日未明、イスラエル軍がイラン中部ナタンズのウラン濃縮施設をはじめとする核関連施設、ミサイル工場、軍司令官、科学者などを標的に、大規模攻撃を実施した。
イスラエルのネタニヤフ首相は、動画で、「われわれはイスラエルの歴史における決定的な瞬間をむかえている」と表明し、作戦は数日続くと述べた。
イスラエルによるイラン本土への攻撃は2024年4月、10月に続き3回目で、13日には、およそ200機の空軍機を使用し、約100カ所の目標を空爆している。
この日、イラン側では、ナタンズの核施設内部で放射能汚染が確認されているほか、防空レーダーやミサイル発射装置の破損などが被害を受けたと報じられている。
また、テヘランだけで、軍参謀総長バゲリ氏、防衛隊司令官サラミ氏、航空宇宙軍司令官ハジザデ氏、統合作戦司令部ラシッド氏などの軍幹部、核科学者6人、ハーメネイ最高指導者の顧問で、最高安全保障委員会書記長を10年も務めていたシャムハニ氏を含め78人が死亡している。
この被害状況からは、イスラエルの作戦の目的が核開発阻止ではなく、イラン領空の制空権を手に入れ、日数をかけてイランの体制転覆をはかることだと推察できる。
イランは、2024年10月の経験から、報復攻撃ではドローンと多数の弾道ミサイルを同時に使う戦術を採用すると報じられていたが、13日のイスラエルの発表では100機以上のドローンによる攻撃にとどまった。
これは、イスラエル側から見れば、先制攻撃の成果といえる。
6月13日付AFP通信によると、ネタニヤフ首相はビデオ声明で、「第一撃は非常に成功した。神の助けを借りて、さらに多くの成果を上げるだろう」と述べ、作戦継続の意向を示した。
イスラエルの攻撃を受けてのイランの反応
6月13日、イランのハーメネイ最高指導者は、「偉大なるイラン国民へ」と呼びかけ、「この犯罪によって、シオニスト政権は自らに苦く苦痛に満ちた運命を課した」と述べ、厳しくイスラエルを罰すると語った。また、ペゼシュキアン大統領は、違法なイスラエルにその侵略を後悔させるため、「必要な防衛的、政治的、法的措置を開始した」と述べた。
これを受け、イラン外務省は、イスラエルの攻撃を「戦線布告」と表現し、国連に緊急安全保障理事会の開催を要請した。そして、国営メディアは、米国、イギリス、フランスがイランの対イスラエル攻撃を阻止した場合、これらの国の域内の基地、船舶は攻撃対象になると報じた。
イランに厳しい態度をとってきた欧米とは異なり、2025年1月にイランとの「包括的パートナーシップ条約」に署名したロシアは、13日に「イスラエルの軍事行動は国連憲章と国際法に違反するものであり、断固として非難する」との声明を発出した。
また、同日、中国も、イスラエルの攻撃はイランの主権、安全保障、領土の一体性を侵害するものと非難した。
近隣諸国では、サウジアラビアが「イランの主権と安全を損ない国際法と規範に対する明らかな違反だ」と強い非難と糾弾の意を表明したことをはじめ、アラブ諸国やトルコなどから同様にイスラエルへの非難が述べられた。
イスラエル・イランの直接交戦の影響
イスラエルとイランの戦闘は、13日以降も継続している。その直接的な影響として第1に挙げられるのは、エネルギー価格の上昇である。
13日付ロイター通信によれば、北海ブレントの先物が9%急騰し、74.74ドル近辺で取引されている(ニューヨーク・マーカンタイル取引所のブレント原油は10%以上上昇)。
仮に、ネタニヤフ首相の意図通りイスラエルの攻撃が長期化し、イランの原油・天然ガス輸出に大きな障害が生じた場合、ホルムズ海峡を含むシーレーンの安全保障が脅かされ、エネルギー価格と保険料が上昇する。
とりわけ天然ガスは、ウクライナ・ロシア戦争で供給不足になっており、ペルシャ湾(アラビア湾)諸国に依存しているEU、日本経済は大きな打撃を被ることになりかねない。
第2は、パレスチナ問題への影響である。
6月17日から20日にかけてニューヨークで開催が予定されていたパレスチナ問題に関する国際会合が延期された。フランスとサウジアラビアの共催による同会議は、イスラエル・パレスチナ問題を2国家解決で進める大きな契機になると考えられていた。
また、同会議で、死亡者が5万5200人以上に上り、悪化の一途をたどる人道危機の中にあるガザ地区の人びとを救済する道筋がつくり出されるはずであった。会議の延期は、ガザ地区の飢餓状態を放置することに等しい。
そして、第3は、6月15日にオマーンで予定されていた第6回米・イラン核協議が中止となったことである。イランのアラグチ外相は、14日にEUのカラス外務・安全保障上級代表に対し、イスラエルの攻撃を受けたため、この協議は「正当化できない」と伝えた。
同外相は、その後、イラン国営通信で、「ワシントンの直接的な(イスラエル)支援の結果が攻撃に結び付いた」との声明を出した。
このイラン側の協議中止の発表前、米国のトランプ大統領は、米国メディアで、イスラエルの攻撃は「さらに激化する」と警告し、「全てが灰になる前にイランは協議で合意に達しなければならない」と述べている。
イランのアラグチ外相は、6月15日、各国大使を前にして、同日行われる予定であった米国との第6回核協議で、イラン側が合意に向けた提案を示すつもりだったと述べ、イスラエルの先制攻撃は、核協議を阻止するためだと非難した。
核拡散防止条約(NPT)加盟国であるイランが核兵器開発を進めていると疑惑をかけられ、NPTに加盟していない核保有国イスラエルから武力行使を受ける事態になっている。
16日、イラン外務省報道官からはNPTからの脱退を検討する可能性があるとの発言も出ており、イスラエルの対イラン攻撃により、国際社会での核拡散の懸念も高まっている。
今後のシナリオ
イスラエルは、
(1)イラン軍の経験豊富な幹部の殺害、
(2)反イスラエル武装勢力(ヒズボラ、ハマス、フーシー派)の弱体化、
(3)シリアの体制転覆、
(4)イランに対する諜報活動の優位性および制空権の掌握、
(5)米国による防衛協力
などの点から、戦闘継続にあたり有利な状況にある。
そのなかで、空爆、破壊工作などを組み合わせて「ライジング・ライオン作戦」を推し進めていくとみられる。
これを踏まえると、次のシナリオが考えられる。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2025年6月16日に書かれたものです)