緊縮財政転換と金融緩和終了で欧州の長期金利は上昇へ

ロシアの脅威にさらされることになった欧州は自ら防衛力を強化へ
国際情勢は大きく変化しようとしている。
米国の国力は相対的に低下しており、もはや「世界の警察官」の役割を果たすことができなくなっている。米国は中国との覇権争いに注力せざるをえず、ロシアとの直接対立で両面作戦になることは、できれば避けたいところだろう。
ウクライナ問題を契機にロシアの脅威にさらされる欧州は、欧州の防衛を米国に頼ることはできず、自ら防衛力を強化せざるをえなくなっている。
3月6日、EU特別首脳会議は、EUフォンデアライエン委員長が、同月4日に、加盟国の防衛力強化を目指して提案した、今後数年間で最大8,000ユーロ規模の「欧州再軍備計画」を大筋承認した。
米トランプ政権が、ウクライナへの軍事支援停止を発表するなかで、欧州はウクライナに対する「揺るぎない支持」を約束する、欧州の立場を改めて明確にした。
この欧州再軍備計画は、
(1)加盟国に課された財政規律の緩和を通じて国防費増大を要請し、
(2)加盟国同士による兵器の共同調達を促す低利融資制度の創設すること、
が柱となっている。
8,000億ユーロは、EUの名目GDP(2024年、17.9兆ユーロ)の4.5%程度に相当する。各国はその程度の国防費増額を行わなければいけないことになる。
このうち1,500億ユーロは、EUが国防費に関連した投資に充てることを目的に、加盟国に資金を提供するもの。残りの6,500億ユーロは、EUの財政規律の適用除外規定を活用し、加盟国が財政規律に抵触することなく、向こう4年間の国防費を増額するものだ。
フォンデアライエン委員長は、各国首脳に対し「防衛支出の拡大に向けた一段の措置」を求めた。
ドイツが緊縮財政政策を転換しようとしている
こうして欧州各国の国防費増額が不可避となるなか、伝統的に緊縮財政政策をとってきたドイツも財政拡張へと舵を切るのではないかとの見方が高まっている。ドイツでは、財政均衡を義務付けた憲法規定である「債務ブレーキ」に阻まれ、経済停滞が長期化するなかでも、機動的な財政出動が難しかった。
だが、その財政緊縮政策が転換されようとしている。「債務ブレーキ」とは、リーマン・ショックに対する景気対策で増大した債務を削減するため、2009年にドイツで憲法に相当する「基本法」に盛り込まれた条項で、2011年から適用が始まった。
この債務ブレーキ条項は、「連邦政府の歳入と歳出は、原則として、公債収入なしに均衡されなければならず、公債収入を名目GDPの0.35%以内に抑えること」を規定している。「0.35%以内」というのは、ほぼゼロにすること(均衡財政)を意味する。
ただ、例外規定として、「国家のコントロールが及ばず、財政に大きな影響を及ぼす、自然災害または非常事態の場合は、連邦議会の過半数の議決をもって、借入制限を超過することができる。議決は、償還計画を伴わなければならない。この超過借入の償還は、合理的な期間内に行わなければならない」としている。コロナショック時には、この例外規定が発動された。
この結果、2013年から19年にかけて黒字傾向を維持していたドイツの財政収支(対GDP比)は、2019年のプラス1.3%から、20年マイナス4.4%、21年マイナス3.2%、22年マイナス2.1%、23年マイナス2.6%と赤字が続いている。
もともと、ドイツにおいては財政規律を求める国民意識が強い。ドイツでは、第1次世界大戦後に敗戦の賠償金をまかなうため通貨マルクを大量に刷り、物価上昇率が1兆倍ともいわれるハイパーインフレーションを体験した。
その後、引き起こされた社会不安は、ヒトラー率いるナチスの台頭につながり、ナチスは国債を大量に発行して戦費を調達することで悲惨な戦争を続けた。そうした苦い経験が、財政規律を求める国民の高い意識につながっている。
ドイツでは、昨年12月16日、ショルツ首相の信任投票が実施され、反対多数で否決されて、同政権は崩壊した。ショルツ首相への信認低下の一因となったのが、やはり、債務ブレーキの適用除外の濫用問題だった。
コロナ禍の2021年に、当時のメルケル政権は、2,400億ユーロの新型コロナ対策費を計上し、緊急事態への対応という名目で、議会に債務ブレーキの適用除外を要請し、承認を得たうえで、国債が発行された。
そして、2021年12月に発足したショルツ政権は、このうちの未使用となっていた600億ユーロを、気候変動対策のためとする基金の財源につけかえる2021年度の補正予算案を議会に提案し、同予算案は可決された。
だが、2023年11月に、憲法裁判所は、このような予算のつけかえは債務ブレーキの適用除外にならないとして、違憲と判断した。
一転して財政難に陥ったショルツ政権は、2024年3月まで延長を決めていた電気料金やガス料金の補助を中途で止めざるをえなくなり、国民の支持を失った。
キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)のメルツ党首は、ショルツ首相に対して「債務の制限を前例のない方法ですり抜けようとした違憲システムの作り手だ」「首相の器ではない」と批判していた。
2月23日に20年ぶりとなる議会解散に伴う総選挙が実施され、そこではキリスト教民主・社会同盟が大勝した。得票率はキリスト教民主・社会同盟が29%でトップとなり、極右の「ドイツのための選択肢」が21%とそれに続いた。ショルツ首相の社会民主党(SPD)は、16%と第2次大戦後最悪の結果となった。緑の党も12%に後退した。
一方・・・
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2025/3/10の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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