トランプ米政権による中東地域への関与の限界

関税問題、ロシア・ウクライナ戦争の停戦交渉の仲介など、米国のトランプ政権の政策が連日のように国際報道で話題に上っている。
この数日、もうひとつ同政権の対外政策で注目される動きがある。それは、ガザ紛争について、5月26日に米国のウィトコフ中東特使が、一時的な停戦と長期的な解決策につながる提案を、イスラエルとハマスの双方に示したと述べたことだ。
トランプ政権は、これまでのところ、ガザ紛争の停戦交渉の仲介、イランとの核交渉、湾岸アラブ諸国との関係強化、シリアの新体制への支援など中東地域に活発に関与している。
ただし、実利優先の同政権は、関係国と対等な立場での政策協議を行っているとは言い難い面がある。
本稿では、トランプ政権の中東政策のうち、とりわけ当事者の要望との乖離が大きいガザ紛争の停戦交渉の仲介と、巨額な対米投資という利を得たサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)へのトランプ大統領の訪問について検討する。
そのことを通し、トランプ政権の中東政策には限界があり、行き詰まる蓋然性が高いことを指摘したい。
ガザ紛争の停戦交渉の仲介
イスラエル寄りの米国の新提案
ウィトコフ中東特使の新提案は、トランプ政権がイスラエルに武器を供与した上、イスラエルによるガザ地区の完全封鎖を黙認し、ガザ地区住民が飢餓状態に陥っている中で提示された。
5月29日、ホワイトハウスの報道官は、この新提案をイスラエルが支持し、承認したと記者会見で述べた。
一方、これまで一貫して恒久停戦を求めてきたハマスは、60日間の休戦を内容とする新提案に難色を示している。
この新提案は、米国とパレスチナ側が内々で協議したものとされているが、
パレスチナ側によると、
(1)休戦後の停戦交渉の保障、
(2)イスラエル軍のガザ地区からの撤退、
(3)中立的な組織によるガザ地区への支援物資の搬入
などの要求が含まれていないとも報じられている。
国際社会でのイスラエルのネタニヤフ政権への非難
新提案を受け入れたイスラエルは、すでに5月16日にガザ地区での軍事行動の拡大を発表しており、国際社会から厳しい批判を浴びている。
5月17日にイラクのバグダードで開かれたアラブ首脳会議は、共同声明で、国際社会に「ガザ地区への支援物資搬入と流血を終わらせること」をイスラエルに要求するよう呼びかけた。
また、同会議に出席していたスペインのサンチェス首相は、3月2日からイスラエルがガザ地区に人道物資の搬入を阻止していることについて、国際司法裁判所(ICJ)の判断を求める決議案を国連総会に提出する考えを示した。
5月19日には、日本、イギリス、フランス、カナダ、ドイツ、オーストラリア、スペイン、オランダなど22カ国の外相が、共同声明で、ガザ地区への支援物資搬入を即時、全面再開するよう要請している。
さらに、イギリス、フランス、カナダの3カ国首脳は、「イスラエルの看過しがたい行為を黙認することはできない」と表明し、「軍事攻撃が続くのであれば、共同で対応する」との警告を行っている。これを受けて、同日、イスラエルのネタニヤフ首相は、「ガザ全域の制圧をめざす」と述べた。
そして、5月20日には、イギリスがイスラエルとの自由貿易協定(FTA)交渉の即時中断を発表、EU加盟国もイスラエルとの貿易関係を定めた協定の見直しを検討することで合意した。
国内でのネタニヤフ政権に対する反発
国際社会の風向きが変わっただけではない。イスラエル国内でも、ネタニヤフ政権の戦争の進め方への反発の声が高まっている。
5月19日、イスラエル軍の元副司令官のゴラン氏(左派政治家)が、イスラエルが「国際社会から孤立した国家になる道を進んでいる」と発言し、波紋を呼んだ。
その2日後、元国防相のヤアロン氏が、X(旧ツイッター)への投稿で、ネタニヤフ政権の軍事行動について「政権維持を最終目的とする政府の政策であり、われわれを破壊へと導いている」と厳しい政権批判を行った。
そして、5月22日、オルメルト元首相(2006~2009年)が、イスラエルのハアレツ紙に寄稿し、現政権について、「明確な目的や計画がなく、成功の見込みもない無意味な戦争をしている」と非難した。
オルメルト氏はさらに、イスラエルの軍事行動を批判する諸外国の政治指導者は、反ユダヤ主義でも反イスラエルでもなく、「現イスラエル政府に反対しているのだ」として、諸外国の警告に耳を傾けるべきと呼びかけている。
トランプ政権の停戦仲介はガザ住民の移住が前提か?
こうしたイスラエルを取り巻く国内外の声を無視するように、5月25日、ネタニヤフ政権は2カ月以内にガザ地区の75%を占拠すると発表した。トランプ政権は、おそらくこの政策を了承していると思われる。
これより前の5月15日、NBCニュースが100万人のパレスチナ人がガザ地区からリビアに恒久的に移住させる計画があると報じている。
5月20日、ルビオ米国務長官は、ガザ地区の住民を強制的にリビアに移動させることについては協議していないと述べる一方、自発的な移住希望者については、地域諸国に受け入れを打診したことを明らかにした。イスラエルは、占領後のガザ地区の安全性を高めるため、軍事行動を継続している。
また、米国関係組織がイスラエルと協議しながら実施しはじめたガザ地区住民への支援物資の配布は、配布場所、配布先の人物を限定したものになっており、国際社会から公平性に欠けるとの批判が出ている。
こうした状況下で行われているトランプ政権が仲介する停戦交渉が成果をみることは難しいと言わざるを得ない。
5月28日、ローマ教皇レオ14世は、サン・ピエトロ広場に集まった人びとを前に、「ガザではなくなった子供たちの遺体をしっかりと抱きしめる母親や父親からの激しい叫びが天に届いている」と語った。この叫びは、国際社会の指導者たちにも届いている。
国際世論も、観光地化構想を共有するトランプ大統領とネタニヤフ首相の政策に「No」をつきつけている。
トランプ政権の実利優先のガザ停戦交渉が行き詰まったところから、長年の停滞を経て、パレスチナの人びとや国際社会が描くパレスチナ問題の「二国家解決」に向けた歩みがはじまるのかもしれない。
・・・
全文を読みたい方は「イーグルフライ」をご覧ください。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2025年5月31日に書かれたものです)
関連記事
https://real-int.jp/articles/2828/
https://real-int.jp/articles/2855/