ゾルタンポズサー【11】ペトロ人民元の現実化
前回の記事はこちら
【1】ブレトンウッズ体制3は起きるのか?
https://real-int.jp/articles/1932/
【2】米ドル時代の終焉と人民元時代の到来
https://real-int.jp/articles/1933/
【3】2023年 FXでの勝者と敗者
https://real-int.jp/articles/1934/
【4】2023年 何に投資をすべきか
https://real-int.jp/articles/1936/
【5】世界は新冷戦時代 2023年も60/40には戻らない?
https://real-int.jp/articles/1956/
【6】L字型の大不況とスタグフレーションの必要性
https://real-int.jp/articles/1960/
【7】予言どおりに世界情勢は変化
https://real-int.jp/articles/2006/
【8】「TRICKs」の脅威
https://real-int.jp/articles/2010/
【9】コモディティのスーパーサイクルが到来!?
https://real-int.jp/articles/2011/
【10】地政学リスクによるインフレが始まった!
https://real-int.jp/articles/2058/
一帯一路とサウジヴィジョン2030のシナジー効果でペトロ人民元が現実化する!
中露や湾岸諸国が目指しているのはブレトンウッズ3体制、つまり米ドル依存からの脱却と金兌換通貨への移行です。公式データによると金の保有量は西側諸国が多いのですが、非公式データではどこか分からない国が急速に保有を増やしています。
ブレトンウッズ2体制でたまった貿易黒字を米国債券購入で還元していた中国やサウジなどの湾岸諸国、制裁されたロシアが保有を増やしているという見方が多いようです。
ロシアが資産を凍結されたように、このまま米中対立がエスカレートすると、中国も同じ憂き目にあいます。外貨準備高として米国国債を保有するのはリスクであり、代わりに金の保有を増やしているのは当然でしょう。
昨年末の中国と湾岸諸国とのサミットは史上初であり、ポズサー氏は1945年のルーズベルト大統領とサウジのアブドゥル・アズィーズ国王との米国軍艦クインシー号での会談を想起したそうです。この後70年以上も両国は戦略パートナーであり続けたわけですが、それと同じことが起ころうとしているのです。
米国は開発途上のサウジに安全保障と原油購入を約束、サウジは原油収入を獲得、それが米国債や武器の購入で米国に還元され、銀行に預けられていました。
しかし、シェール革命で米国は中東の原油を必要とせず、中国が最大の輸入国となっています。
安全保障面でもサウジとイスラエルの雪解けにイランとの国交回復が加わり、中東戦争時とは状況が異なるようです。お互いに必要ではなくなり、サウジ皇太子は今後も米国債や株式の購入を減らすと語っているそうです。
そしてクレディ・スイスの吸収合併でサウジ政府は大きな損失を蒙りました。西側から東側へとシフトしても不思議はないでしょう。
習近平主席は湾岸諸国会議での演説で、今後3年間から5年間にかけて
- 大量の原油に加えLNGを購入する(既に最大の輸入国)
- 川上の採掘から在庫、輸送、川下の精製までの設備投資に協力する
- 上海石油ガス取引所では金兌換の人民元決済を、CBDCでの為替スワップも実施する
という多面的協力体制を約束しました。
中国は南シナ海での新たな天然ガスや油田の共同採掘、欧米企業が独占していた精製にまで協力を申し出ています。サウジでの工場設置と雇用創出は中国の一帯一路政策にも、サウジのサウジヴィジョン2030のどちらにもウィン−ウィンとなります。
石油依存から脱却し、ビッグデータやクラウドなどのITインフラを整え、宇宙探査も実施、クリーンエナジーを推進、教育を充実させ、女性に活躍の場を与えるというものです。
イランのモハンマド・パフラヴィー元国王の自伝を読んだところなのですが、彼が実施していたイランの白色革命を想起させられました。
50年も前の改革なのですが、そこには国有企業の民営化、学校・道路・公衆浴場設置から婦人参政権、水力発電と原子力発電の推進、衛星を使用した遠隔治療までも含んだ医療改革までが構想されていました。
イランにも2021年から25年間かけて精製やプラスチックなどの石油化学分野、輸送、工業育成を援助するそうです。
日本のマスコミによる記事では分かりませんが、ポズサー氏の論文を読むと、なぜ湾岸諸国が仇敵のイランと国交回復をしてまで中国との同盟に動いたのかは明らかですよね?
そして、上記のイランとサウジの復縁でペトロ人民元は確実なものとなりました。
実は2018年の南アフリカ開催のBRICSサミットから中国は金兌換の人民元取引を目指してきたそうです。イラン、ベネズエラに続き、2022年のウクライナ紛争によるSWIFT規制でロシア原油は人民元建てで取引されています。
さらにインドネシアも一部をすでに人民元建てにしているようです。2025年までには湾岸諸国もこれに加わることになりそうです。
OPECはイラン、イラク、サウジ、クウェート、ベネズエラが設立メンバーだそうです。これに湾岸、北アフリカ、西アフリカ、南米の諸国、ロシアが加わりOPEC+となっています。
中国はベネズエラとは2019年、イランとは2021年、ロシアとは2022年から人民元建て取引を実施していますがこの3国でOPEC+の埋蔵量の4割、サウジと湾岸諸国が4割を占めているそうです。
残りの2割のうち北アフリカはロシア、西アフリカは中国の債務の罠に落ち、軍事面と小麦はロシアに依存しているそうです。
元々西アフリカはフランス領で繋がりが深かったのですが、軍事面で支援されたロシアとの関係が深まっていたのです。マクロン大統領は近年頻繁に訪れていましたが、ロイターのニュースにあるように、遂にフランス軍の駐留を諦めたようです。
ジル夫人、ブリンケン国務長官に続き、ロイターによるとハリス副大統領が訪問するなど、米国はまだ頑張ってはいますが、アフガニスタン撤退の記憶も新しく、挽回できるという意見は少ないようです。
つまり、OPEC+の持つ原油のうちインドネシア産以外は人民元建てとなる可能性が高いということです。ペトロダラーに代わり、ペトロ人民元が現実のものとなるわけです。
投資家は米ドル決済から人民元決済への移行と米ドル建て石油価格の負担増によるインフレ加速に注意すべきだそうです。
そして、ポズサー氏の懸念が現実のものとなりました。OPEC+が予想外の減産に踏み切ったのです。ブルームバーグの記事にあるように、OPEC+が4月2日、5月から110万バレルの減産に踏み切ると発表したのです。
前回の記事に書いたように米国の戦略石油備蓄放出により米国の原油価格は70ドルを割り、OPEC諸国は米国への不信感を強めていました。
昨年の中間選挙対策で米国が原油価格を下げる方針にOPEC+が反発、バイデン大統領の増産要求にも関わらず10月に200万バレルの減産を決めたのと似た状況です。イランとサウジとの国交回復によりOPEC+はインドネシアを除き東側G7のメンバーとなったわけです。
もはや米国の増産依頼をサウジなど湾岸諸国が受け入れることはなく、原油価格の決定権はサプライサイドである東側G7に握られてしまったわけです。
まさにポズサー氏のいう供給サイドによる構造的な要因でインフレは長期化するということです。ドライブシーズンで需要が高まる7月からはロシアの減産も加わり160万バレルの減産となるようです。
米国は以前に書いたように民主党政権のESG推進策によりシェールガスの開発は行われておらず、ブルームバーグの記事にあるように、OPEC+の減産にも関わらず、彼等は利益を新規採掘ではなく配当や自社株買いに廻しているようで、米国の供給拡大も望めないようです。
前回の記事に書いたように今後は需要が増加するが、供給は減少していくわけで、100ドル予想が突然出てきたようです。
ポズサー氏の意見では米国がシェールガスを国有化し、採掘を再開しないと、今後3年から5年で供給不足になるそうです。来年の大統領選で共和党が勝利しないとそれも難しいでしょうね。
欧州では暖冬に助けられたものの天然ガス価格はウクライナ進行前の10倍まで上昇、生活が脅かされています。
一方、天然ガスや石油の産出国である米国のエコノミストやストラテジストの危機感は小さいのでしょう。インフレの地政学リスクの影響をハンガリー出身のポズサー氏のように考慮していないのです。今回のショックでも原油をショートしていたヘッジファンドが大きな損失を出したそうです。
もちろん、今後3年〜5年にかけての話なのですぐではないのですが、中東からのエネルギーに依存する日本は、オイルショック時のような混乱に備える必要はないのでしょうか?
ウィキペディアによると、当時は狂乱物価と呼ばれ、消費者物価指数が23%も増加したようです。まさに現在の英国で起きている以上の物価高が日本でも過去に起きていたようです。
問題は原油取引が人民元建てになり、原油価格が上昇するだけではありません。欧州の天然ガスはロシアからではなく中国経由、ガソリンやディーゼルはインド経由となり、既に価格が上昇しています。
下流の精製分野も中国とサウジ資本が握るので、欧米の石油化学企業は淘汰される可能性があるということです。ドイツの石油化学大手のBASFはすでにラインラントの本社工場を縮小、中国に移転するそうです。
西側諸国では石油化学製品が不足し、東側から輸入することで製品価格が上昇し、インフレが加速するわけです。
・・・続く
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