ピーター・シフ(Peter Schiff)5 米国は破綻の危機にある!
前回の記事はこちら
https://real-int.jp/articles/2293/
https://real-int.jp/articles/2294/
インフレは結果であったが原因となり、インフレが再開される!
「ゾルタンやピーターの主張は全て理論武装」されています。「ブレトン・ウッズ3」体制では資源を持つ国が供給を支配するので原油や金や食料などのコモディティが上昇し、紙幣は価値を失い「インフレは長期化」します。
現在コモディティの上昇により、FEDの1年で5%以上もの高速利上げでもインフレは沈静化されていません。
そして「米国財政赤字増大はもう止めることが不可能」です。ピーターによると「利上げが今後1回で0.25%か2回で0.5%なのかはもはや重要ではない」そうです。米国国債の買い手がいない中で政府の財政赤字補填の為に「米ドルを擦り続ければ長期金利は上昇し、インフレは2%に戻ることはない」からです。
80年代以来の「双子の赤字に誰も関心をもたなかったが、米国長期債券は眠りから覚め、上昇を始めた」そうです。
こうなると「金融政策だけではインフレを抑制することはできない」のです。そして前々回の記事に書いたように「CPIは上昇に転換」しています。原因は以下となります。
1.賃金
賃金は、ビッグテックなどのホワイトカラーでレイオフがありパートタイムに置き換わり減少していますが、組合支援によりブルーカラーで上昇しています。
ブルームバーグのニュースに書かれているように大統領がリーダーと面会した自動車産業でもストが起きるようです。GM、フォード、クライスラーとジープを傘下に持つステランティスの労働者は「9月14日期限で46%の賃上げと32時間労働を要求」しています。ミレニアム世代に人気の左派のバーニー・サンダース上院議員が支援しているそうです。
ピーターは、「高卒のUPSのトラックドライバーが$17K=約2,500万円の給与をもらっている、反対に、大卒は4年間無給で約500万円の学生ローンを借りて初任給が約700万だ。AIもインターネットもあり独学で学べる、補助金で誰でも大学に行けるので大卒の意味がなくなっている。こんな状況では、大学教員労働組合を助けるために大学に行く必要がなくなる」と主張しています。
バイデン大統領は中産階級を助けると言いながら「労働者階級を助ける方針」のようです。トランプ元大統領の牙城を崩す戦略なのでしょうか?
2.コモディティ
6月時点では「原油は中国経済の不調で下落するという意見が多かった」です。昨年は「ゾルタンやゴールドマンの原油価格は100ドルを目指すという予想が外れ、65ドルまで下落した」のが理由でしょう。
しかし何度も解説してきているように「バイデン政権が40年ぶりの水準までSPR(戦略備蓄在庫)を放出し続けたから」です。昨年と今年の違いは、ピーターの主張にあった「これ以上のSPR放出は無理で供給が増えない」ことです。
ロイターにあるように、ロシアとサウジの減産3ヶ月延長でWTI原油は87ドルと6月末の安値67ドルから2ヶ月で30%上昇しています。米国がSPR放出をできないため「需要に合わせて供給をBRICS+が減らすので上昇する」というゾルタンの予言どおりとなったわけです。
そして米国債券金利が上昇を続けているにも関わらず、金利のつかない金も、BRICS諸国の買いあさりにより、上昇しています。オリーブオイルは干魃で倍になるなど穀物価格も上昇しています。「異常気象による干魃は温暖化により来年以降も続く」でしょう。
ゾルタンの予言にある「金や原油、食料などコモディティの獲得競争」も視野に入ってきました。
3.雇用統計と住宅ローン
「実は弱い米国経済」は9月1日の雇用統計でも明らかになっています。
前々回の記事で紹介した「雇用統計の速報値から実測値の下方修正」は9月1日にも起きました。ピーターによると、7回連続での下方修正は、米国人が大好きな「コイン・トスに例えると7回連続で表が出る」ことになります。
https://real-int.jp/articles/2262/
コイン・トスはランダムなのである時は表、ある時は裏になります。7回連続で下方修正となっているのは論理的には「労働省が恣意的に行っている」と考えざるをえなく「9月も恐らく再度下方修正される」というわけです。
ゾルタンの予言どおりに「FEDは失業率よりインフレを重視」しています。8月失業率は前月の3.5%から3.8%に上昇、4%に向かっています。「失業率悪化」は相関性の高い「住宅ローン破綻増加」へと繋がります。
4.貿易収支
ピーターによると、7ヶ月連続で下方修正され信頼性のない「雇用統計ではなく貿易収支に注目すべき」だそうです。「誰も気にしていない貿易収支こそが米国経済のスコアボード」だというのです。「米国経済の健全性を表す」からだそうです。
雇用が増えても輸出が増えずそれ以上に輸入が増えれば、貿易赤字は増大します。米国にとって生産的ではありません。政府統計にあるように、貿易赤字は上昇に転じています。
「インフレを止めるためには中国とのデカップリングなど無理」なのです。それなのに「正義の旗」の下に半導体輸出規制や日米韓安全保障条約などにより中国を追い詰めてきたのは、バイデン政権です。「米国への生産回帰」などには数年はかかるでしょう。
しかし「BRICSの拡大」により、姿勢を変化させ始めています。ニューヨーク・タイムスの記事によると、訪中した米国商務長官は「米国は中国とのデカップリングを望んでいない」と発言しています。「中央銀行だけでなく政治家もゾルタンの意見にようやく従いだした」ということでしょうか?
しかし中国はこれを良い機会だと捉え「米中デカップリング」は止まらないそうです。安価な中国からの輸入が減少を続け、昨年と比較すると米ドルの上昇率が鈍化するので「輸入インフレが悪化」するそうです。
5.家賃
前回の記事で紹介したようにRedfinによると現在の住宅ローンの中間値は$2,697ドル、家賃の中間値は$2,038ドルです。家を購入できない層が増えるので、「家賃は上昇していく」そうです。
6.家計貯蓄
消費者ローン、住宅ローン、クレジットカードローン、学生ローン、自動車ローン「全てが史上最高」となっています。破綻も急増しています。10月からは新型コロナウイルスで3年間延期されていた学生ローンの返済も開始されます。
サンフランシスコFEDによると新型コロナ支援金で急増した「家庭の貯蓄が9月までには底をつく」そうです。前々回紹介した「ニューヨークFEDだけでなくサンフランシスコFEDもFEDとは異なり米国経済に危機感」を持っているようです。
ピーターのインタビューで司会者が見せた動画ではハリス副大統領が「米国民の多くが破綻に瀕している」と発言(恐らく口を滑らせた)しています。「米国経済が強くない」ことを実は「政府も理解しつつある」わけです。「強い景気を装うことは困難」になってきたようです。
このように賃金、コモディティ、家賃、輸入工業製品など全ての価格が上昇し、財政赤字補填のために刷ったグリーンバックの価値が減少し、インフレは止まらないわけです。しかしこれは労働者、農民、原油輸出国、大家が悪いのではなく民主党政権の「大きな政府」政策が問題なのです。
金利上昇への解決策は利上げの中止かL字型の暴落、金利下落で金が上昇!
ピーターによると、年末までに自然利子率は2.5%となり、PCEが3.7%とすると、プレミアムなしでも「10年債券や30年債券の適正金利は6.2%」になるそうです。
金利上昇への解決策は2つです。1番目は「利上げの中止」です。サマーズ元財務長官は前回ののFortuneの記事で最低でも後1回の利上げが必要としています。1回なら5.5~5.75、2回なら5.75~6%となります。
やはり「6%が限界」なのでしょうか?ピーターも利上げは必要だが上記のように政府も企業も家庭も耐えられないとしています。
2番目はゾルタンの言うところの「L字型の暴落」です。今年の米国債券利益が既に8月には消失した中、市場が値ごろ感から再び買いを入れた後に下落すると「債券収益はマイナス」となります。
これを埋め合わせるには「株式を売却」することになります。それが「一番の利下げへの道」だという記事もありました。
ゾルタンやピーターの意見は「リセッションは起きない」「ソフトランディング」というウォール街とは反対の「ハードランディング」です。
しかし「前者は今まで解説してきた論理に基づいています」が「後者は単なる願望」です。
株式暴落の震源地は米国とは限りません。新型コロナ対策で「世界中で財政赤字が増加」しています。国連によると総長は「途上国の4割が重大な債務問題を抱えている」と警告しています。
米国との金利差が縮まり米国へ資金が回帰、米国金利高と自国通貨安も加わり「途上国の米ドル建て負債の返済は困難」となってきています。既にデフォルトしたスリランカ、インフレが100%を超えたアルゼンチンや59%となったトルコのようにハイパーインフレに陥る国も出現するでしょう。
ロイターによるとザンビア・ガーナ・チュニジア・エジプト・ケニアなどのアフリカ諸国に加えパキスタン、レバノン、エルサルバドル、ウクライナなども「デフォルト問題を抱えている」ようです。こうした「途上国債務も世界経済にとっての脅威」のようです。
そして、社会主義国で実情は分かりませんが「中国経済は不動産バブル崩壊に瀕している」のは周知の通りです。バイデン大統領が「時限爆弾」と表現したように「中国がリセッションの発端になる」という記事が多くなっています。
現在は「Bad news is good news」となり「悪い経済指標が出ると株式が上昇」しています。「利上げ期待が遠のく」からです。しかし不健全な状況であり問題の先延ばしに過ぎず「暴落が起きる可能性が高まる」わけです。
ブルームバーグにあるようにバンカメのストラテジストのハートネット氏は「米国株はハードランディングに直面」していると指摘しています。「最後の利上げで売れ!」とも語っています。11月か来年1月ということになります。利益が圧迫されれば最終的には「悪いニュースは悪いニュース」になります。
添付資料に書かれていますが著名投資家のローゼンバーグ氏も「リセッションを免れるのは奇跡だ」としており「過去14回のうち11回は利上げの最後にリセッションが起きた」としています。ハートネット氏と同じ意見のようです。
ピーターによると、金は金利がつかないのでフィッチ格下げ以降米国10年債券の利回りが4%を超えたので、$1,890まで下落しました。「買場に見えた」そうです。
そしてFEDは上記のように、いつまでも金利を上げられないので市場に敗北し金利は低下、「最後に勝つのは金」だとしています。株も債券も過剰評価されており、買う気にはなれない。金か石油が魅力的で、石油に続き「長期金利がピークを迎えれば、金が上昇する」そうです。ゾルタンや松島社長と同じ意見のようです。
【関連記事】
https://real-int.jp/articles/2276/
https://real-int.jp/articles/2268/