金融政策 ECBに一元化の理由
▼前回の記事
https://real-int.jp/articles/1697/
ユーロ圏の金融政策
前回の本テーマではユーロ圏全体の金融政策はECBに一元化されていると書きました。何故そうする必要があるのでしょうか。
今回はその理由について「国際金融のトリレンマ(問題)、経済の不連続な三角形」という経済理論を例に解説します。
この理論の要諦は、
「(1)完全なる固定相場(単一共通通貨、ここではユーロ)
(2)自由な資本移動
(3)金融政策の独立性
は恒久的に同時に達成できない」 というものです。
少し難しい考え方になるので、図1でドイツとイタリアを例にとって簡単化します。
前提
- ドイツにインフレ圧力が掛かっている一方で、イタリアはデフレに悩んでいる。
- 両国がそれぞれ金融政策を有している。
- この場合、独中銀は引き締め策をとるため、ドイツの金利に上昇圧力がかかる一方で、
伊中銀は緩和策をとるため、イタリアの金利に低下圧力がかかる。
結果
- 両国とも共通通貨ユーロを使用し為替リスクがないため、金利の有利な方に資本が移動する。イタリアから資本が流出し、ドイツに資本が流入。
- イタリアの市中マネーが減少するため、伊中銀の緩和策が機能しなくなる一方で、
ドイツの引き締め策が機能しなくなる。
結論
共通通貨を使用している通貨圏では為替リスクがないため、各国の金利差あるいは金融政策の逆行性だけで簡単に資本移動が生じてしまい、加盟各国が金融政策の独立性を維持していても、自国さらには通貨圏内の物価安定につながらないばかりか共通通貨が不安定となります。
したがって、複数国が共通通貨を使用する場合は、共通通貨圏加盟国は金融政策を放棄し、圏内中銀(ここではECB)に委ねる必要があるのです。
もしそれができないのであれば、圏内の資本移動を規制せざるを得ませんが、それではユーロ圏内で共通通貨を誕生させた意味がなくなってしまうので、それはできません。
こう考えると、ユーロ圏内では投資・貿易の促進等の便益の多いユーロですが、その安定を維持するのはそう簡単ではないと言えます。
ECBは加盟19カ国の経済状況を把握しながら圏内の金融政策を一元的に管理・運営しているのですが、極めて難しいことなのです。
つまり、ECBの政策決定は後手後手に回る可能性が高いと言えそうです。
ECBの母体は第一次世界大戦後にハイパーインフレを経験したドイツの中銀ブンデスバンクであるため、ECBの基本スタンスはタカ派的なのですが、今次のインフレ対策(利上げ)は後手に回った感は否めず、結果的にユーロ安に拍車を掛けたと言えるでしょう。
図2にユーロ圏と日米などとの違いを書いておきましたので参考にしてみて下さい。
次回のテーマは多くの問題を抱えている財政政策についてです。
【 関 連 記 事 】
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