2025年の世界経済をどうみるか?
米国経済は「ノーランディング」の形で好調に推移しているが、このままではハードランディングも
中国・欧州経済の低迷が続くなか、予想以上の強さを示す米国経済がどこまで堅調を維持できるかが、世界経済の先行きを占ううえでの最大の注目点だ。
FRBは米国経済がソフトランディングに向かっているとして、9月に政策金利であるFF金利を0.5ポイントと大幅に引き下げた。
だが、米国経済はソフトランディングというより、減速感のない「ノーランディング」の形で推移しており、ここまで鈍化していた賃金や物価も下げ止まっている。
FRBは、この先も米国経済が減速し、ソフトランディングすることを前提に、FF金利を3%程度とされる中立金利水準に向けて徐々に引き下げていこうとしているようだ。
確かに、経済成長率が潜在成長率(1.8~2.0%)を下回れば、労働需給が緩和(失業率が上昇)し、賃金上昇率が鈍化するだろう。それに伴って、物価も目標とされる2%程度に向かうと期待され、利下げが可能となる。
ところが、米国の経済成長率は23年10~12月の前年比3.2%のあと、24年1~3月に年率1.6%と鈍化したものの、4~6月には同3.0%と大きく加速した。7~9月はアトランタ連銀のGDPナウによれば、同3.4%と、なお潜在成長率を大幅に上回る成長が続いていると推計されている。
経済が好調なのは良いことだが、強すぎると賃金や物価のスパイラル的な上昇につながるおそれがあり、市場が期待する利下げもできなくなる。
利下げ観測が遠のけば、長期金利が上昇し、それが住宅投資や設備投資など実体経済にも悪影響を及ぼし、株価を下落させるおそれがある。
このため、一見、最善のシナリオにみえる、ノーランディングの状態は続かない。ノーランディングは、どこかで、ハードランディングを招くおそれがある。
そうしたなか、1月20日には新大統領が就任する。ここへきて、接戦州での支持率については、トランプがハリスを上回るなど、どちらになるかは全く不透明だ。
トランプ再選なら関税引き上げと移民政策厳格化が世界及び米国経済に多大な影響を及ぼすおそれがある。言われている通り、トランプ大統領が、対中輸入関税を60%、その他の地域からの輸入関税を10%に引き上げれば、米国の輸入物価を11%程度押し上げ、それは国内物価をも押し上げる。
輸入関税は米国国内需給をひっ迫させ、物価を押し上げる半面、海外から米国への輸出が減少するため、海外経済にとってはマイナスに作用する。特に、中国の対米輸出は大幅に減少し、中国のGDPは0.5%低下する。
また、移民政策厳格化は米国の労働力人口を減少させ、米国の潜在GDPを低下させる。これも、労働需給の逼迫によって米国の賃金や物価を上昇しやすくする。そうなれば、FRBの利下げはより難しいものになる。
また、議会選挙の結果(現時点では下院は民主党、上院は共和党が勝利し、「ねじれ」が予想されている)にもよるが、共和党主導の議会になれば、いわゆるトランプ減税(個人所得税)の延長が見込まれるほか、法人税率引き下げ(21%→15%)などの減税によって財政赤字は増大する見込みだ。
これに対して、ハリス氏は、児童税額控除や養育費助成の拡大、医療改革制度(オバマケア)の拡充など、低中所得層向けへの減税措置を表明する一方、法人税率の引き揚げ(21→28%)やキャピタルゲイン課税強化など増税も公約に掲げている。
このため、ハリス勝利の場合、トランプ勝利に比べて、財政赤字が少なくなると見込まれている。ただし、税制改正はあくまでも議会の権限であるため、ハリス氏の意向通りの増税が実現するかどうかは不透明だ。
減税だけが先行され、増税措置が実施できないとなれば、ハリス氏勝利でも財政赤字は膨らむおそれがある。
米国だけのことではないが、中央銀行による国債買い入れが徐々に減少するなか、財政赤字が膨らめば、国債需給悪化により国債利回りが上昇する。
また、政府が財政赤字をコントロールできないと、格付け会社が判断する場合、国債の格付け引き下げといった事態になるおそれもある。
欧州政治の混迷は金融市場の波乱要因に
好調な米国経済と対照的に、欧州経済は停滞が続いている。
ユーロ圏の経済成長率は24年1~3月前年比0.5%、4~6月同0.6%と上向きで推移しているが、9月時点でのECBの24年予想(0.8%)を下回っている。
一方、物価については、昨年急騰したエネルギー価格が下落したことから、ユーロ圏の消費者物価は9月に1.7%と、2021年6月以来の2%割れとなった。
景気停滞の長期化と物価の落ち着きを受けて、ECBは9月の0.6%利下げに続き、10月17日の理事会でも0.25%利下げを決めた。ECBもFRB同様、2%インフレの達成を前提に、政策金利を中立金利相当の2%台前半に引き下げようとしているようにみえる。
ただ、エネルギー価格下落によって、物価上昇率は低下したが、エネルギーと食品を除くコア消費者物価は前年比2.7%と高く、特に、賃金コストの影響を受けやすいサービス価格は同3.9%と高い。
ECBが注目する妥結賃金の伸びは24年1~3月の4.74%から4~6月に3.55%とかなり低下したが、これが3%を割り込む程度まで鈍化しなければ、2%インフレ目標の達成は難しいだろう。
経済停滞が続く一方で、欧州の政治状況は波乱含みだ。格差が広がるなか、既存の政治エリート層に対する国民の不満や移民、難民の増加に反対する世論を受けて、自国優先、反EUの右派が勢いを強めている。
フランスでは今年6~7月の総選挙で、こうした右派の勢力を抑えるため、マクロン政権が左派と手を組んだため、予想外に財政支出拡大を主張する左派が勢力を伸ばした。
マクロン大統領が主導する与党パルミエ政権は、右派や左派を取り込めず、議会で過半数を確保できていないことから、いつ倒れてもおかしくない状況で、政権は不安定化している。
一方、ドイツでは2025年10月までに総選挙が実施される。ここでは、6月の欧州議会選挙で第2党となった、極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」が一段と、勢力を伸ばす可能性がある。
右傾化の潮流は今年6月の欧州議会選挙で明らかになった。その後の展開を簡単に振り返っておこう。
今年6月6日~9日に実施された欧州議会選挙では、中道右派の欧州人民党(EPP)グループが議席を伸ばし、中道・親EU会派がなんとか過半数を維持した。
だが、ジョルジア・メローニ首相が率いる「イタリアの同胞」などが所属する「欧州保守改革グループ」、同じく極右・右派でフランスのマリーヌ・ルペン氏が率いる「国民連合(RN)」などが所属する「アイデンティティと民主主義グループ」の議席が伸び、ドイツでは極右で当局からも警戒されている「ドイツのための選択肢(AfD)」も議席を伸ばした。欧州議会は全体的に右傾化が進んだ。
この結果を受けて、フランスのマクロン大統領は、欧州議会選挙とは異なる結果を期待して、フランス国民議会(下院)を解散した。
6月30日、7月7日のフランス総選挙では、右派の勢力を抑えるため、マクロン大統領が左派と手を組んだため、結果的に、左派連合が躍進し、最大勢力となった。
だが、マクロン大統領は中道右派の共和党出身で、英国のEU離脱交渉のEU側の主席交渉官を務めたバルニエ氏を新たな首相に指名した。
大統領を支持する中道会派と中道右派の共和党系会派によるパルニエ新政権が誕生したが、最大勢力となった左派連合は新政権に参加することなく、与党は議会の過半数を握ることができていない。
最大勢力となった左派は財政支出拡大を主張するが、それを認めれば、フランスの財政赤字は拡大し、EUの規制に抵触するほか、国債格下げの懸念もある。
現状、与党パルミエ政権は、議会採決では法案や予算を通すことは難しい状態で、常に、議会採決を迂回する憲法上の特例措置などを駆使しなければならない状態だ。左派連合と極右が協調して内閣不信任案を提出すれば、少数与党の内閣は倒れることになり、来年にも再び総選挙があるかもしれない。
ドイツでは、来年10月までに実施される総選挙で、極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を伸ばす可能性がある。
AfDは当局からも警戒されている極右政党だが、直近の世論調査では、政権与党である社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)が軒並み低迷する中、最大野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)に次ぐ支持を得ている。
欧州主要国が反EU、自国優先主義的な志向を強めれば、最終的に、単一通貨ユーロ崩壊につながるリスクがある。問題は、単一通貨ユーロが構造的な欠陥を抱えている点にある。
すなわち、単一通貨ユーロには、以下の欠陥がある。
(1)域内の労働力移動がスムーズでないため単一通貨になじまない
(ノーベル経済学賞を受賞したマンデル氏によれば、域内に生じた経済格差を労働力の移動によって円滑に調整されることが、単一通貨圏としてふさわしい条件としているが、ユーロ圏内の各国は言語や文化が異なるため、労働力の移動がスムーズでない)
(2)加盟各国の金融政策が1つであるのに財政政策が1つでない
通常、経済が停滞する国と過熱気味の国があれば、停滞する国が金利を下げ、為替相場を安くするするのに対して、過熱気味の国が金利を上げ、為替相場を高くすることで、調整が可能になる。
だが、金融政策が一つで、通貨も一つであるユーロ圏ではそうした調整ができない。米国のように国内での労働力移動が容易な国では、景気が悪い地域から景気が良い地域に労働力が移動して調整ができるが、労働力の移動が容易でないユーロ圏ではそれができない。
日本のように財政が一つであれば地域格差があっても地方交付税交付金などの制度を使って集めた税金を中央政府が地方に分配できるが、EU中央政府の権限が強くないユーロ圏ではそうしたこともできない。
ましてや、EUの権限を制限し、国ごとの権限を強くすべきだという、自国優先主義的な考え方が広がれば、単一通貨ユーロの欠陥は表面化してしまう。
格差が広がるなか、既存の政治エリート層に対する国民の不満が高まり、極右とされるポピュリスト政治家への支持が高まっているのは、欧州も米国と同様だ。
こうした自国優先主義の流れが止まらなければ、ユーロは分裂・崩壊に向かうことになるだろう。
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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2024/10/21の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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