ゾルタンポズサー(Zoltan Pozsar )【23】金に続き原油も上昇?新しい金融危機とは?
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https://real-int.jp/articles/1932/
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https://real-int.jp/articles/2210
金は上昇、原油は綱引きの結果次第だが上向き、仮想通貨は不明
そして、「BRICS」諸国間で相互通貨での取引が普及すると、「脱ドル化(de-dollarization)」が進みます。結果として、松島社長の意見と同じように、「米ドルが売られるのと相反して金が購入される」こととなります。Gold Councilの7月の最新データでは今年第1四半期にはシンガポール、中国、トルコ、インド、チェコの順に中央銀行が金購入を増加させています。
https://real-int.jp/articles/2204/
ポズサー氏によると、地政学的には米ドルを介さずにガーナがロシアと金と石油を交換したり、ロシアとイラン等が金兌換のデジタル通貨で取引をしているそうです。
松島社長が解説されているように、ポズサー氏も以前述べていましたが、CFDなど現物の裏打ちのない「ペーパーゴールド」と呼ばれる商品は金が不足すると購入できなくなりますのでご注意ください。
https://real-int.jp/articles/2208/
原油価格(WTI)は昨年上昇後に「ロシア原油がウクライナ紛争後も取引されている」、「米国のSPR(戦略石油備蓄)の40年振りの減少」、「中国経済の予想外の不振」などにより70ドルほどに下落しています。減産を続ける「OPEC+と消費国との綱引き」が続いていますが、現在はサウジを敵に回してまでのバイデン大統領の政策が成功しています。
しかしポズサー氏の意見では、サウジアラビアが自国での経済政策を推進するには「原油価格が80ドルから100ドル/バレルにする必要」があるそうです。「需要が減る場合は減産を続ける」のです。供給が減り続けるので、「価格は現状からはそれほど下がらない」そうです。
一方、「石油不足が起きると、価格は上昇」します。ロシア原油が遠方の国に売られるためにタンカー価格が上昇、サプライチェーンの問題も起きているようです。
また以前に触れたようにESGへの移行により設備投資が実施されないため、「化石燃料の供給はタイトになっていくそう」です。
さらに、ブルームバーグにあるように遂に米国が10月から11月にかけて600万バレルの原油を購入、SPRの補充に当てるようです。中国経済は不振が続いていますが、需要も上向く可能性がでてきました。つまり、中長期的には上昇するということです。
仮想通貨に関しては3月の仮想通貨セミナーでの質問で「ポズサー氏自身は保有していない」ことが判明しました。公共のものは「お金」だが私的に流通するものは「お金」ではない、理解できないものには投資をしないというのが理由だそうです。
公的通貨として認めている国家も存在する、米ドルの代替として金と共に仮想通貨も候補ではあるが、ウクライナ紛争が終了した際に存在していればという条件付きであり、流動的だそうです。「SECによる規制」を指していると思われます。
ビットコインについてはSECが「証券」ではなく「商品」と認めており、ロイターにあるように否定的だったブラックロックがETFを申請したのでブラックロックはなにか情報を持っていると噂されていました。仮想通貨の中ではビットコインは残るということなのでしょうか?
新しい金融危機とは?
ポズサー氏によると、今回の金融危機は何度も説明しているように2007~8年の世界金融危機とは全く異なるそうです。あのときは「大銀行と米ドルシステムの危機」、今回は「仮想通貨またはハイテク株バブルの破裂、商業用住宅ローン破綻」だそうです。
シグネチャーは「仮想通貨」、SVBは「スタートアップ専門」で特殊なケースの破綻だったそうです。「世界金融危機」でもリスクの高いレバレッジファンドを扱うベア・スターンズがまず潰れました。
SVBのケースでは、供給サイドが問題で資金引き上げが起き、ヘッジをしていなかったので、顧客である新興企業の価値が下落したのが響いたそうです。ファーストリパブリックは「富裕層向けに10年間金利なしの貸付」をおこない、金利上昇で破綻しました。3月の動画で語っていましたが、友人からその話を聞いた際に「そんな銀行の株はショートするべきだった」と伝えたそうです。
他の地銀の多くも水面下の負債を抱えており、金利の上昇とローンを新規更新することで負債が増えるリスクに立ち向かう方法はないそうです。
しかし、FEDの今回の危機で採用した政策は「今まで見たことがないほど寛大」で、「銀行のポートフォリオにおける金利上昇のリスクを許す」ことになっているそうです。預金が逃げないのならば、隠れ負債がたくさんあっても問題ないわけです。
SVBのようになれば破綻するが、FDICが25万ドル以上の預金も保証するのであれば、少なくともシステム上では解決できることになるわけです。約300兆円もの資金が用意されているとのことです。
3月には大銀行は問題ないと語っていたのですが、今回は米国のファンドマネジャーの友人と同様に、サンフランシスコに本拠を持つ某大銀行は水面下の負債が大きいと指摘していました。FDICはそのための準備ということでしょうか?
そして危険なのは銀行ではなく、ハイテク株または仮想通貨のバブルの破裂、商業用不動産ローンのようです。
ポズサー氏がなぜ世間では知られていないのか?
以前の記事でポズサー氏のウィキペディアが検索結果のトップにあり、ウィキもなかったのに驚いたと書きました。理由は2つあるようです。
1つは他のストラテジストのように「市場情勢によりコロコロと意見を変えることをしない」ことです。SBV破綻後に7月からの利下げを見込んだ際には2年物国債の金利は3.5%まで落ちました。先週には5%に達し、2回の利上げを見込んでいます。
ポズサー氏の「高金利と高インフレ時代は始まったばかりという意見は、特に欧州や英国では、もはやコンセンサス」になりつつあります。
もう1つは、「ツイッターを行っていない」ことです。ツイッターでフォロワーを増やし、有名となるという「インフルエンサー戦略」は以前にご紹介したポズサー氏と考えが近いピーター・シフ氏でさえ行っています。「SNSのような世俗的なことには興味がない」そうです。
ポズサー氏は「ラテン語や歴史を引用する教養人」であり「ビジネスマン」というよりも「学者」です。学者ならその理論を本にするのが普通ですが、「著作も存在しません」。そのソフトな語り口からも「賢者」と呼ぶのが相応しいように思えます。
以前の「クレディ・スイスによるニュースレター」に代わり、今後は2種類のメルマガを出していくそうです。一つは「お金、銀行、基幹」という財務的なもの、もう一つは「お金と世界秩序」という「ブレトンウッズ3体制」をフォローしていくものになるようです。「地政学的リスクについては今後も情報を提供してくれる」ということのようです。
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