ゾルタンポズサー(Zoltan Pozsar )【22】脱ドル化は予想以上に進んでいる?
ゾルタン・ポズサー氏の記事を1番最初から読みたい方はこちら
https://real-int.jp/articles/1932/
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https://real-int.jp/articles/2172/
グローバリゼーションの終焉と西側諸国と東側諸国のデカップリング
西側諸国はサプライチェーンを中国に依存していました。そのため、工業製品のサプライチェーンの「リショアリング(再構築)」、西側圏での「レアアースの調達網構築」、中国への「半導体輸出制限」などがゾルタン・ポズサー氏の予言どおりに進んでいます。
「フレンドショアリング(友好国でのサプライチェーン構築)」です。「極秘情報漏洩」の可能性のある次世代の「5G通信網からの中国企業排除」は既に起きていました。
東側諸国は、コモディティや工業製品のサプライチェーンを握っています。ウクライナ紛争によるロシア資産凍結が引き金となり、「西側の財務システムからの脱却」が目標となっており、「脱ドル化」が活発化しています。
サウジなど湾岸諸国が石油や天然ガス取引に米ドルだけでなく人民元も使用すると発表した「ペトロ人民元の夜明け」以降、「全ての東側諸国間の貿易に米ドルではなく相互の通貨を使用」する、「BRICSコイン」、「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」などの構想が打ち出されています。「西側諸国と東側諸国のデカップリング」です。
そうはいっても、このシリーズで何度も紹介してきたように、上記の一言で表されるように単純なものではありません。「総論賛成でもそれぞれの国家の事情や思惑がある」からです。実際は「米国と中国とのデカップリング」のようです。
以前の記事で触れたように東京でのG7共同声明では中国に経済的に依存している西欧諸国の反対で「デカップリングの表現は使用されませんでした」。
最近のニュースをみていても朝日新聞にあるようにフランスのマクロン大統領は「NATOの東京事務所設置に反対」しています。
ウクライナへの軍事支援も発表の5割に留まっている(チェコ、スロバキア、スロベニア、ポーランドからは8割)という英文記事もみました、「西欧諸国の動きが鈍い」ようです。
FOX英語版が紹介しているように「米国のクラスター爆弾供与へは英国、スペインが反対」しています。カナダ、ニュージーランドも加わっています。
ロイターにあるように訪中を終えた「イエレン財務長官もデカップリングに反対」を表明しています。
米国も同盟国の意見を尊重せざるを得なくなってきているということでしょう。
しかし、実際には「対話は平行線に終わった」ようです。中国によるシリコン製よりも高品質のガリヒ素製半導体という「最先端半導体の原料であるガリウムとゲルマニウムの輸出」がブルームバーグに書かれているように8月1日から禁止となり価格が高騰するなど、米中対立は激化しています。
米国一極化の終焉と多極化はコンセンサスとなり、脱ドル化が進展
次に今後5年から10年は続く「米国一極化の終焉」ですが、ポズサー氏の予言どおりに「多くのニュースのヘッドライン」になっています。
西側の中央銀行主導のシステムに対抗する「CBDC」、「外貨準備における米国債券の減少や金の増大」もホット・トピックとなっています。
しかし、「米ドルの代替」は存在しません。ポズサー氏によると外為取引の90%は米ドルです。外貨準備高における米ドルの割合は減少していますが、まだ半分を切ったところです。
氏が指摘するように、中国でさえも米国との交易には米ドルが欠かせません。「東側諸国間での交易に米ドルを使用しない」ように多くの国が声を上げ始めた段階です。
何度も解説してきましたが、「昨年12月の湾岸諸国会議」により、以前は石油や天然ガスを買うのに米ドルが必要だったのが、「人民元や金でも購入可能になった」だけであり、一気に人民元での購入が進むわけではないのです。
ポズサー氏によると、米国国債の代わりに、人民元国債を東側諸国が購入する可能性もあるそうですが、すぐにとはいかないでしょう。「米ドルの下落は中長期的で、短期的ではない」わけです。
短期では前々回の記事で比較したポズサー氏も言及している「金利差が重要」であり、その後円キャリー取引による「円全面安」が続いているのはご存知の通りです。
https://real-int.jp/articles/2171/
BRICS会議参加申請国が急増
そうはいっても、CBDCがグローバルイーストやグローバルサウスに普及すれば、一気に人民元取引が進む可能性はあります。それが以前の記事で紹介したラガルドECB総裁の「そのシェアが30%になることもありうる」という発言なのでしょうか?
ポズサー氏の提唱する「ブレトンウッズ3体制」が続く今後5年から10年内に起きるということかもしれません。
Watcher guruによると、8月に南アフリカで開催されるBRICS会議への参加申請国が急増しているそうです4月時点の19カ国から6月時点では41カ国へと倍増しているのです。
中南米ではメキシコ、アルゼンチン、ベネズエラ、ウルグアイ、アジアではパキスタン、バングラディッシュ、インドネシア、アフリカではエジプト、ナイジェリア、アルジェリアなど錚々たるメンバーです。
驚きはフランスも参加に関心を示しているというニュースです。中国との天然ガス取引に米ドルではなく人民元を使用始めたそうで、トルコやインド同様に中立の立場となったのかもしれません。
南アフリカのBRICS大使が欧州もBRCSに関心を持っていると語っていたのは、フランスのことだったようです。特にアフリカ諸国は旧植民地だった関係から欧州や英国とは政治的にも経済的にも深く結びついています。
コモンウェルスメンバーのケニア大統領も、米国以外の国との貿易には米ドルではなく現地通貨での取引をアフリカ諸国に提言しているそうです。エジプトは中国、ロシア、インドとの間ですでに開始しているようです。
インドはブルームバーグの記事に書かれているように、国境紛争を抱えて仲が悪いと日本のマスコミでは語られている東のNATOである上海協力機構会議の議長国を務めました。
共通通貨には否定的ですが、既に原油や天然ガス取引を人民元で実施しています。AppleやAmazonの中国からのサプライチェーン移管もあり、あまり東側と見られたくないというところでしょうか?
そしてにわかには信じがたいのですが、他のWatcher guruの記事によると、全世界の195カ国のうち130カ国がCBDCに向けて動いているというのです。以前の記事で書いたようにパイロットプログラムを実施しているのはわずか11カ国なので、先の話でしょう。
しかし、BRICSのGDPは既に米国とほぼ同じとなっており、サウジやトルコなどが加わったBRICS+が相互取引に米ドルを使用しなくなると米ドルへの脅威となるのは間違いないでしょう。
現在のFX市場は西原宏一さんが指摘されていたように、「円以外に対しては、米ドルは全面安」であり、「脱ドル化」は既に始まっているのかもしれません。原油や天然ガスなどのコモディティにおいては、人民元決済が実施されています。
ポズサー氏の情報では、人民元の貿易におけるシェアは1年前の1%から5%へと急増しているそうです。5%はユーロと同じレベルとのことです。工業製品など東側諸国間での全ての交易に米ドルが使用しなくなれば、「外貨準備高における米ドルを減らすことができる」からです。
以前の記事で紹介したようにこれはユーロに関しても同じであり、西原宏一さんのメルマガによると「ユーロが外貨準備でのシェアを落としている」ようです。収まらないインフレによりストライキが頻発し、金利上昇が見込まれるユーロは、ポンドと並び上昇していましたが、ようやく調整に入ったようです。
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