L字型の暴落は起きるのか?
金融不安は収まりつつあるが、スタートアップ企業とVCはやはり厳しい状況下にある
前回の記事では、日本のマスコミでは曖昧に解説されていたSVB破綻の状況について記しました。
https://real-int.jp/articles/2028/
SVBは、まだ赤字のスタートアップ企業が顧客の大半でした。増資ができなくなったスタートアップ企業は毎月の運転資金を引き出す必要があり、SVBは預金を米国債権やMBSの運用に廻していたために資金がショートし、増資を発表したことで取り付け騒ぎになったわけです。
ブルームバーグの記事にあるように、VCはやはり危ない状況にあるようです。スタートアップ企業とVC、SVBは持ちつ持たれつの関係であり、当然でしょう。VCの破綻はやはりあり得るようです。
そして、今朝ブルームバーグのニュースがタイミングよく流れてきたので、追加させて頂きます。
この記事によると、スタートアップは借入コストが上昇するどころか、新規借入や既存ローンの返済延長もストップしているようです。
ローンや社債の満期が本年中に訪れるスタートアップがどこかまでは分かりませんが、論理上では返済できずに破綻という事になります。
VCやスタートアップのチャプター11はいつ起きてもおかしくないのではないでしょうか?
それに対して、一般の地銀の顧客は個人や黒字の法人顧客が大半であり、毎月預金が取り崩されることはありません。利上げにより自己取引での損失はあるものの、それは水面下です。SVBのような取り付け騒ぎは通常は起きないわけです。
ロイターの引用記事にある米国債券とMSBを償還前でも額面で評価して最長1年の融資を行うBTFPプログラムの利用増とファースト・シチズンズによるSVBの買収により、とりあえずは、金融危機は落ち着いたようです。
そして、BTFPプログラムは、実質的なQEに当たるという声が上がっています。ポズサー氏は米国のデフォルト・リスクによりQEが行われると、昨年夏に予言していました。原因は異なりますが、高金利下でQTではなく、QEが実施されたのです!
2010年の世界金融危機後に、ポズサー氏も関わったであろうドット・フランク法が制定され、総資産が500億ドル以上の銀行にはストレステストが義務付けられました。
しかし、前回触れましたが添付の野村総研の記事にあるように、トランプ政権が2018年に2,500億ドル以上に緩和したために、こうした中小銀行の自己勘定取引が認められたのです。SVBのような資金流出が起きない限りは安全ですが、利上げによる債券の含み損はいくつかの地銀の資金量を上回っているのでしょう。
そして、24日金曜日にはブルームバークの記事にあるようにドイツ銀行の劣後債(CDS)の価格が急落、市場に動揺が走りました。ドイツ銀行はクレディ・スイス同様に、数年前から破綻危機のニュースがあったことは記憶に新しいです。
そのドイツ銀行がCDSの早期償還を突然発表したが、その理由を明かさなかったためです。しかし週明けの27日には、金曜日の急落は、一つの取引が原因だったというニュースが出ました。
このように、暴落を仕掛けてくるヘッジ・ファンドが存在するわけです。実際は健全であったとしても、市場心理により相場は大きく動くのです、一応は収まったものの、この金融不安問題はくすぶり続けるでしょう。
ポズサー氏によると、金融不安後も中央銀行の取るべき道は変わっていなく、利下げは起きない
それでも、ポズサー氏によると、インフレは続き、利上げも止まらず、利上げ中止は一時的なものだということです。
クレディ・スイスの吸収合併という金融不安下にも関わらず、ECBに続きFEDはロイターの記事にあるように3月に0.25%の利上げを実施しFFレートは4.75~5%になりました。ターミナルレートは昨年12月と変わらず5.1%で、後1回の利上げが予想されています。
パウエル議長は今年の利下げはないとも公言しています。ところが、市場はもはやパウエル議長を信用せず、年内の利下げを見込んでいます。SVB破綻前には5%を超えていた米国2年債の利回りは、3月29日時点ではほぼ4%にとどまっています。
ゾルタンシリーズ6に書かれているように、FEDはリセッションが起きても利下げするなどは言っていません。
https://real-int.jp/articles/1960/
金融不安でリセッション入りが濃厚になってきましたが、痛みを伴うリセッションを覚悟しているのです。ハード・ランディングは望んでいないのでBTFPプログラムで沈静化を図っていますが、インフレ退治は雇用の安定よりも重要だと断言しています。市場の楽観論と中央銀行との戦いはまだ暫く続きそうです。
英国では状況がさらに悪化しています。3月22日に発表されたCPIではロイターのニュースにあるように、予想に反してインフレが加速化しました。食品と非アルコール飲料は前年同月比+18% と1977年以来の伸びとなっています。その結果、イングランド銀行も0.25%利上げを実施、政策金利は4.25%となりました。
BBCの英語記事によると、看護師、救急車スタッフ、医師、教員、公務員、鉄道従事者、郵便局員、税関スタッフなど数十万人のエッセンシャルワーカーが4月初めから5月初めまで5週間にわたりストライキを実行するそうです。もはや生活が成り立たなくなっており、ストライキへの賛成者が反対者を上回っているというBBCの他の記事も目にしました。
ストは5月5日まで続くようなので、ゴールデン・ウィークに英国に旅行する方は事前にチェックをすることをおすすめいたします。
日本も英国と同様に島国であり、農水省のデータでは食料自給率は英国の70%に対して38%です。
ウクライナ戦争も長引き、ポズサー氏の予言のように原油、金、レアメタル、食料の獲得競争になることも現実化しつつあります。英国のような事態を避けるためにも、食料自給率を高めることも必須のようです。
このようにSVBとクレディ・スイスの破綻があったにも関わらず、欧州、米国、英国とすべての中央銀行が利上げを実施しています。各中央銀行総裁だけでなく、FEDのメンバーも、金融不安と利上げは別だと語っています。
ブルームバーグの記事にあるように、ブラード総裁はこの環境下でもターミナルレートは5.625%と5.375%から引き上げています。ボスティック総裁もインフレの押し下げに照準を定めるべきだと、述べています。
3月28日のブルームバーグでは、ブラックロックは銀行セクターの問題とインフレとの闘いは別であり、労働市場の逼迫もありインフレは続くというポズサー氏の主張と同じ理由により、利下げはなく、利上げ継続を予想しています。しかし、TDセキュリティーズとダブルラインは利上げ継続を主張するFEDが間違っていると反論しています。
3月28 日のブルームバーグでは、債券王と呼ばれているガンドラック氏は年内数回の利下げを予想しています。年初には物価と金利の低止まりは終わったと語っていたので、今回の金融不安をきっかけに方向転換したということです。
こうした意見が市場の大勢を占めているので米国2年債券の利回りは4%と、ターミナルレートよりも1%も低い状況にあります。「FEDに逆らうな」という相場格言を、著名な投資銀行家が知らないはずはないのですが。
ポズサー氏の主張するL字型の暴落はありうる?
ここで、5月を最後に利上げが一時停止する、年内はパウエル議長の言葉通りに利下げはないと仮定しましょう。それでも金利は5~5.25%に高止まりしているわけです。上記のようにインフレは市場の利下げ期待にも関わらず、あまり減速していません。
ロイターにあるように、米国の戦略石油備蓄は1983年以来40年ぶりの歴史的低水準に関わらずバイデン政権は2月まで補充どころか売却をしていました。
さらに、ロックダウン解除で回復が期待された中国経済はブルームバーグにあるように低成長でした。一般には期待されていたビッグブームは起きなかったのです。
その結果、70ドルを割り込みましたが、ようやく67~72ドルでの購入を発表しました。これで原油は底を打ち、夏のドライブシーズンと中国経済の5%成長という回復目標に向けて上昇していくでしょう。
金は既に3月9日に2,000ドルを突破、2020年の最高値2,074ドルに年内に到達することも現実化してきました。
ポズサー氏の主張通りとなってきています。インフレ沈静化の動きはまだ見られません。この環境下で金融市場にまた何かが起きれば、予言どおりのL字型の暴落が起きうるのではないでしょうか?
そして上記のように金融不安に加えて、ブルームバーグにあるように、今年1月にはイエレン財務長官も言及しているデフォルト・リスクがあります。このXデーはポズサー氏によると(QEの開始となっていた)今年8月末以降です。松島社長も、どうも同じ意見のようです。
https://real-int.jp/articles/2043/
2022年から株式市場はベア・マーケットには入っているのですが、少し落ちると必ずベア・マーケットラリーが起きて、暴落には至っていません。デフォルト・リスクのブルームバーグの記事のタイトルにあるように、ウォール街が悪材料に目を背け続けてきたからです。しかし、ブルームバーグにあるように、流石にリセッション入りは認めざるを得なくなっているようです。
最後に残っているのは、ハード・ランディングを受け入れるかだけとなってきていますが、同記事ではINGのエコノミストは十分有り得ると語っています。
収まらないインフレ、さらなる銀行破綻、シャドーバンキング業界のまだ具現化されていないリスク、スタートアップやVCの破産、ウクライナ戦争やペトロ人民元の実現などの地政学リスク、問題とされている商業用不動産だけでなく古いオフィスも加えたCMBSの値下がりと、暴落のトリガーとなりうるイベントには事欠きません。
いつまで目を背け続けられるのでしょうか?
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