大企業の思考法 輸出企業を例に
1. 企業はビジネスの採算意識をもって為替予約を行う。
大企業の想定レートで当面の上値・下値に当たりを付ける
「売上(円貨での輸出代金)―コスト」=利益であり、この利益を固めるためには、当該期の為替レートを想定しておく必要がある。従って、企業の為替予約はこの想定レートが基準(事業計画の前提レート)となる。
大手企業は日銀の「短観調査」で各期の事業想定レートを求められている。
日銀短観(2021年3月調査)
報告するレートの正確性は兎も角としても、中央銀行への報告資料である以上、概ね信頼できるレートとして捉えておくべきである。
なおこれを参考にする場合、四半期毎の統計なので、その間の業績や為替相場も変動で、想定レートも置き換えられる点に注意が必要である。
図のグリーンの囲みは2020年12月調査における輸出大企業の2020年度の通年・上期・下期の想定レートである。
同じ年度の3月調査における通年・上期・下期が赤の囲みだが、調査時期によって各期のレートが異なっているのが分かる。
二つの調査期間におけるドル円がドル高・円安に振れるのに連れて、大手企業(輸出関連)が想定レートを引き上げているからだ。
2. 実践にも使える想定レート
日銀短観(2022年3月調査)
2021年3月調査における2021年通年想定レート(紫の囲み)は109.43である。
但し以下の理由から、実際には企業が想定レートと全く同じレートで予約する訳ではない。
有象無象の市場参加者が短観で大企業の想定レートを知っていることから、109.43より手前からドル売りが出るため、この例では109円前後から上値が重たくなり始める。
そのため、輸出関連企業はドルの売りそびれを回避するため、想定レートに到達していなくても近いレートでドルを売り始めることは当然と言える。
例えば、ドル高基調となった昨年の相場展開で最初に109円台を付けた3月相場(図2①部分)でドル売りが出たことで、強いドル買いと揉み合いとなったのはそうした現れと見られる。
実需のドル売りがある程度捌けると、保ち合い(揉み合い)を上に放れ(②)再び上昇が始まる。ちなみに、輸入企業の場合は、上記と逆と考えれば良い。
注)実需企業(輸出、ドル円)は通常2~3カ月(長くても6カ月)先の期日でドル売り円買い予約を行う。
従って、ドル金利>円金利の場合の状態(この状態をドルの先物ディスカウントと言う)では、スポットレートより先物の方がドル安水準となる。
上の例でこの辺りを加味すると複雑になるため、この点を割愛した。
次回は、「恐い企業のヘッジ・ミスと大相場」をテーマとして予定している。
【関連記事】
https://real-int.jp/articles/1258/
https://real-int.jp/articles/1255/