経済指標をトレードに活かすコツ!中国景気の減速が豪ドルに与える影響
香港上海銀行(HSBC)でチーフディーラーを務めた経験からの、相場をみるうえで重要なファンダメンタルズの知識を解説!
相場の世界でプロと一緒の土俵で取引をするには、やはり相場の知識が必要です。香港上海銀行( HSBC)で10年以上に渡りチーフディーラーを務め、プロも教育をしてきた筆者が、相場の知識をひとつひとつ解説していきます。
動画での解説は、こちらをご覧ください。
経済指標をトレードに活かすコツ!
いま注目は中国の経済指標と各国のCPI
ハードデータ(遅行指標)とソフトデータ(先行指標)
経済指標は、ハードデータとソフトデータとふたつに分類されます。
ハードデータは経済活動の実績値で、景気の遅行指標です。
ソフトデータは企業の購買担当者や個人に聞き取り調査をしてまとめたもので、景気の先行指標です。これから景気が悪くなる、物価が高くなるという予測や、そのマインドが反映されているといえます。
ハードデータ(遅行指標)
- 雇用統計
- GDP(国内総生産)
- CPI(消費者物価指数)
- PPI(生産者物価指数)
- 鉱工業生産
- 小売売上高など
ソフトデータ(先行指標)
- ISM製造業景気指数
- PMI(購買担当者景気指数)
- 雇用統計など
主な指標を簡単に説明します。
雇用統計
よく話題にあがる「雇用統計」は失業率や新規雇用をまとめたもので 通常は大体、月に1回発表されます。
金融市場で為替、株、商品などの取引をしている人は、この数字に一喜一憂するわけですが、雇用統計というのはどの国でも季節的な問題で数字が大きくぶれるので、6ヶ月ぐらいの平均値で長期的に俯瞰して見ることが必要です。
米国の雇用統計でもウェイトがかかる時期というのがあり、特にここ直近数ヶ月は雇用統計のウェイトが大きくなっています。
理由は、米国で金融正常化に、雇用の回復が大きく関わっているからです。米国の中央銀行であるFRBのミッションは、「雇用の最大化」と「物価の安定」ですが、雇用の最大化が見えてきたところで、おそらく今年中に金融緩和の縮小(テーパリング)をするというのが市場のコンセンサスになっているので、その発表する時期を左右しかねない雇用統計の数値が重要になっています。
CPI(消費者物価指数)
CPIもすごく重要になってきています。物価がどれくらい高くなったか安くなったかということですが、これも今非常にトピックになっています。
CPIは消費者が買うモノや受けるサービスの価格動向をまとめた経済指標です。通常、各国の統計局が月に1度など定期的に公開しています。
CPIは景気が良くなり、モノを買うまたはサービスを受ける人が多くなれば需要と供給の法則で自然と上昇します。一方で、少なくなれば低下に転じます。
中央銀行はこのCPIをある程度一定の範囲内に収めるように金融調整をしていきます。この金融調整が利上げや利下げであり、これらが為替や株価の水準を大きく左右することになります。
PPI(生産者物価指数)
PPIは製造コストなどを加味した物価指標です。企業は生産コストを商品に転嫁することになります。原材料費、人件費、不動産の賃貸料費が上がると、商品価格に影響が出るので、PPIが上昇すると、川下であるCPIを上昇させることになります。ですから、CPIを見るだけではなく、広くPPIも見たほうがよいです。
鉱工業生産
企業の中でどれだけ工業品を生産したかという数字なので、景気の波を受けます。
小売売上高
個人がどれだけ消費財を購入したか、その絶対額です。季節によってブレがあり予想が難しい指標です。
PMI(購買担当者景気指数)
企業の購買担当者に聞き取り調査をして、発注・受注の大きさ、マインドをまとめて数値化したものです。ソフトデータは景気の波を敏感に反映してきます。
経済指標を把握することが重要
今はインターネット上で、証券会社、FX会社、情報提供してくれるベンダーなどが、発表済みの経済指標の数値や予想値をきれいにまとめて公開しています。
まず、そこで市場予想値を事前にしっかり把握しておくことが必要となります。
金融市場は、その予想値を事前に織り込んでいて発表を迎えるので、予想からどれだけかけ離れた数値が飛び出すかが、金融市場の変動要因となります。
ポジティブ・サプライズとネガティブ・サプライズ
市場の予想より極端に良かったことをポジティブ・サプライズ、
予想より極端に悪かったことをネガティブ・サプライズといいます。
結果的に、予想を離れたサプライズがあると市場が動きます。
景気が良くなってきている時は、ポジティブ・サプライズが連発します。景気の回復が一巡すると、市場予想を下回るネガティブ・サプライズが続きます。
両社が交互に現れることはほとんどありません。どちらかが連続して現れることが多いです。
エコノミック・サプライズ・インデックス
Economic Surprise Indexとは、経済指標の予想値から結果がどれだけ離れたか、サプライズだったかというのを指数化してインデックスで表示をしたものです。
こちらはCitigroupが公開している米国のEconomic Surpriseです。0より上に行くとポジティブ・サプライズ、下に行くとネガティブ・サプライズとなります。
2020年3月のコロナから、予想よりはるかに悪いネガティブ・サプライズが続き、その後は金融緩和や経済政策により予想を上回る指標が立て続けに出てきました。
ただ、足元では市場予想を下回る結果というのが続いていて、これは米国だけではなく世界各国でほぼ同じような形となっています。
株・為替の取引においては先行指標を使った経済動向の把握を
現在の世界経済ですが、遅行指標を見ると一喜一憂しながらも継続的に改善はしていますが、コロナ後の経済の落ち込みからV 字回復した世界景気は足元で一服した感じがあります。
こうした時期には経済動向を把握しておかないと、株や為替の取引においても決定打をうつことが難しくなってくるので、先行指標を使って目先の経済動向をしっかりと把握しておくことが必要だと思います。
中国の経済指標に注目
先行指標:中国製造業PMI(購買担当者景気指数)の推移
この指数は50が好不況の分かれ目で、50を下回ると景気が後退していると考えるのですが、直近8月は50.1まで低下してきたので、分水嶺に近づいているといえます。中国景気は先行指標で見てもピークアウトが続いてます。
遅行指標:中国の鉱工業生産の伸び
遅行指標でみるとどうなるか。昨日発表された中国の鉱工業生産の前年同月比は6ヶ月連続で低下し、8月は5.3%まで低下しています。
昨年のコロナで萎縮している時期と今年を比べるので、今年の数字が高くなって当然ですが、昨年の前年同月から比べてわずか5.3%しか上昇していないので中国景気の減速が明らかです。
洪水の影響などもあり、物流網のサプライチェーンが分断され混乱したという理由もありますが、それを考慮しても低い伸び率といえるでしょう。
遅行指標:中国の小売売上高の伸び
鉱工業生産は法人の実績ですが、小売売上高は個人や法人が物をどれだけ買ったかという経済活動の実績です。
こちらも5ヶ月連続で低下をしていて、直近の8月は2.5%とショッキングな数字となりました。これはデルタ株の感染拡大で、企業で働く労働者が以前と同じ時間だけ勤務できないことで収入が減り、購買力の低下となり、小売売上高の伸びが鈍化しているという背景があります。
中国がくしゃみをすると世界が風邪をひく
豪ドルから見る景気の動向
いま、世界において中国経済の影響力があまりにも大きくなっているので、一大生産国である中国の経済力低下は世界にも波及していきます。
中国は貿易を通じて色んな国と強い関係があります。中でもオセアニア、豪州とニュージーランドは輸出入で共に一番の相手先が中国なので、中国経済の影響を強く受けます。オセアニア経済は中国経済の代理変数と言っても過言ではありません。
欧州は世界最大の貿易黒字圏で、輸出を沢山しています。特にドイツの一番の輸出先は中国なので、ドイツもかなりまずいことになります。
豪ドル円(日足)チャートより景気の動向を見る
こちらは豪ドル円(日足)のチャートです。豪ドルは景気の動向を示すリスク通貨といい、下がっている時は世界の景気が悪いということになります。
世界景気がどん底になった昨年の3月に59.90円まで下落しましたが、その後は大きな上昇トレンドとなりました。
しかし、その上昇トレンドも5月10日の85.80円という高値でピークアウト。豪州経済は中国経済と切っても切り離せない関係ですが、5月10日はオーストラリアの一番の輸出品である鉄鉱石の価格までもがここでピークを迎えました。鉄鉱石価格が上昇すると、豪州経済にとっては輸出採算の改善になるので、豪ドルにはプラスとなります。
ただ足元では中国経済の減速から鉄鉱石の中国への輸出量が減り、価格も低下。世界経済がピークアウトしてきているのが豪ドル円チャートに反映しているといえます。
ここで使っているチャートはTwinCloudといい、移動平均でいえばグリーンの部分が長期線、ブルーが短期線となります。
いま、短期線(ブルー)が長期線(グリーン)と交わり、下回ろうかというところですので、トレンドの終わりを予測しているかもしれません。
コロナ後の景気回復の一巡感
ここまで経済指標をみて分かるように、中国経済は急速にピークアウト感、さらにコロナ後の景気回復に一巡感があります。
そして、中国経済の影響をモロにうけるオセアニア、特に豪州景気は失速しているので、コロナ後の豪ドル円の上昇も一服といえるでしょう。
豪ドル円、キウイ円を為替取引するときに、豪州やニュージーランドの経済指標だけを見て取引していても足りません。経済的に強い結びつきのある国までも広くフォローしていくことが重要だと思います。