交易条件の変化が為替相場にも影響
日本の交易条件は大幅に悪化
国際商品市況上昇が日本など一次産品輸入国に悪影響を及ぼし始めたようだ。
日本の場合をみてみよう。通関統計によると、日本の輸入価格は、昨年7~9月から直近の今年4月にかけて17.3%上昇した。
輸入価格上昇は円安(昨年7~9月の平均106円から今年4月は平均109円に)の影響も若干あるが、やはり世界的な一次産品価格上昇の影響が大きいとみられる。
国際商品市況の代表的な指数であるCRB商品指数は、昨年4月の106を底に直近では212と、ちょうど倍に上昇している。
コロナショックの混乱がやや落ち着いた昨年7~9月から今年4月までの期間でみると、平均147から平均192と31%上昇している。
昨年7~9月から今年4月にかけて全体で17.3%上昇した日本の通関輸入価格の動きを品目別にみると、上昇幅が大きいのは、
原油などの鉱物性燃料(同じ期間に42.1%上昇)、
化学製品(同27.0%上昇)、
木材、鉄鉱石など原料品(同20.5%上昇)、
繊維製品(同20.3%上昇)、
金属及び同製品(同17.5%上昇)だ。
一方、上昇幅が小さいのは、
電気機器(同0.9%上昇)で、
電気機器のなかで、供給不足と言われる半導体等同部品(同3.3%上昇)も
輸入価格はさほど上昇していない。
耐久消費財のなかでは、半導体不足の間接的な影響からか、自動車など輸送用機器(同10.5%上昇)が比較的上昇幅が大きかった。
オイルショック時同様、輸入価格の急激な上昇は、当該商品の輸入国からみると、所得が海外に移転・流出することで、当該国の経済に対しては、あたかも増税が行われたかのような悪影響を及ぼす。
つまり、こういうことだ。20年の日本の通関輸入金額は全体で67.7兆円だった。仮に、輸入数量は変わらないまま、輸入価格が17.3%上昇するとすれば、輸入金額はそれだけで79.4兆円に膨らむ。まったく同じものを同じ数量だけ輸入しているのに、支払い金額だけが11.7兆円増加することになる。
日本から11.7兆円のお金が国内から海外に流出することになる。もちろん、輸出価格も多少は上昇している。昨年7~9月から今年4月にかけて輸出価格は4.9%上昇した。世界的に貿易品の価格が特に上昇しているのは、鉱物性燃料や原材料などで、製品のなかでも川上に近いものだ。このため、加工型貿易を行っている日本の輸出価格の上昇幅はさほど大きくない。
輸出価格を輸入価格で割ったものを交易条件と呼ぶ。輸出価格が4.9%上昇しており、輸入価格が17.3%上昇しているため、日本の交易条件は、昨年7~9月に比べ10%程度悪化(1.049÷1.173≒0.895)していることになる。同じ量の輸出で昨年7~9月には、10単位買えたものが今は9単位しか買えなくなっていることになる。
20年の日本の輸出金額は68.4兆円で、日本からみた場合、輸出価格上昇分(4.9%)の余分な受取り金額は3.4兆円になる。輸出価格上昇による日本へのお金の流入が3.4兆円で、輸入価格上昇による日本へのお金の流出が11.7兆円となり、差し引きネットで8.3兆円のお金が海外へ流出することになる。
今のような状況が続けば、日本は、オイルショックの時と同様、企業収益の悪化や輸入品を中心とする物価の上昇による消費の低迷など、悪影響が広がっていく可能性が高い。
他の先進国・地域の交易条件は改善している
もちろん、事情は国によって大きく異なる。昨年7~9月から直近(米国とカナダは4月、オーストラリアは1~3月、ユーロ圏は3月)までの輸入物価と輸出物価の上昇率、交易条件の変化率を日本と比較してみよう。
米国は輸入物価が6.3%上昇、輸出物価が10.7%上昇、交易条件が4.1%上昇
カナダは輸入物価が2.5%上昇、輸出物価が14.2%上昇、交易条件が11.5%上昇
オーストラリアは輸入物価が0.8%低下、輸出物価が17.3%上昇、交易条件が18.3%上昇
ユーロ圏は輸入物価が2.1%上昇、輸出物価が5.5%上昇、交易条件が3.4%上昇
日本は輸入物価が17.3%上昇、輸出物価が4.9%上昇、交易条件が10.5%低下
これらの先進国・地域のうちで、この間に交易条件が低下しているのは日本だけだということがわかる。
反面、資源輸出国であるカナダ、オーストラリアの交易条件改善幅は特に大きい。そして、交易条件の変化によるマクロ経済環境の変化は、おそらく為替相場の動きなどにも反映されている可能性がある。
図1は、横軸に各国・地域の交易条件の変化、縦軸に昨年9月末から今年4月末までの各国・地域通貨の対ドル相場変化率をみたものだ。資源輸出国であり、交易条件が大幅に改善しているオーストラリア、カナダの通貨は対ドルでそれぞれ8%程度上昇している。
一方、日本は交易条件の悪化が為替相場の円安につながっている可能性が高い。ワクチン接種の遅れが円安の要因と考えられているが、円安の要因はワクチン問題だけではなさそうだ。
そして、日本の場合、交易条件悪化による円安は、輸入物価上昇率を一段と加速させ、さらに交易条件を悪化させるおそれがある。
交易条件悪化→円安→交易条件の一段悪化、といった悪循環が続くというシナリオも考えておかなければいけない。
こちらの記事は、2021/6/14の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。