破綻した最強のヘッジファンドLTCM
破綻した最強のヘッジファンド
ロングターム・キャピタル・マネジメント(Long-Term Capital Management略称LTCM)は当時、ウォール街の神々と呼ばれたスーパーエリート達が運用するヘッジファンドです。
ソロモン・ブラザーズで債権の裁定取引部門を率いていた有名な債券トレーダーであるジョン・メリウェザー氏が1994年に設立し1999年まで5年間ほど運用しました。
信頼を手に入れるために元FRB副議長の「デビッド・マリンズ」氏を、そして権威を手に入れるために金融工学に大きな影響を与えた数学教授であり後にノーベル経済学賞受賞を得ることになる2人「マイロン・ショールズ」氏および「ロバート・マートン」氏らが取締役になりドリームチームと呼ばれました。
業界のスーパースターを顧問に置き高度な金融工学理論を駆使して運用をしたのです。
世界各国の機関投資家や政府機関、公的年金、大学、富裕層から銀行など機関投資家や世界の金融機関がLTCMに資金を集めて運用していました。
最初の4年間は驚異的な成績を記録し運用益は4年間で4倍になりました。
12億5000万ドルから始まり、最終的には1000億ドルの資金を運用しました。
1000億ドルにレバレッジがかかるので資金量としては1兆ドルを超え、多くの国の国家予算より大きなものになっています。
この絶好調のヘッジファンドが流動性が低い市場で大きなレバレッジをかけていたため1997年に発生したアジア通貨危機と1998年に発生したロシア財政危機から、あっという間に破綻してしまったのです。
巨大な資金のファンドが破綻したことから金融業界には激震が走りその激震を抑えるために多数の銀行が多額の資金提供をすることになりました。
LTCMの運用方法
流動性の高い債券がリスクに応じた価格になってないことから割安の債券を売り割高の債券を売る(空売り)という「債権の裁定取引」のスキームでした。
その後、債券だけではなく、M&A、金利スワップ取引、株式やモーゲージ取引など流動性が低く、かつ確実性の低い市場で運用をしていくようになりました。
流動性が低い市場でレバレッジを上げて大きな金額を取引したことが致命傷となりました。「コツコツ稼いで大きく損する」取引となったのです。
ちなみにヘッジファンドとは本来は「ヘッジをして安全に運用する」ファンドなのですが、実際にはレバレッジを高くして高リスク運用になっているものが多いです。
本人はヘッジだと思っていても気付くとリスクを取っていることが多いのです。
LTCMはその典型だといえるでしょう。
「割安のものを買って割高のものを売る」その差が縮まることで利益を得る裁定取引はヘッジをしているので安全に見えます。
しかし、レバレッジを上げていると突発的な事件などで通常の動きと反対に動くことですぐに破綻してしまうのです。
ジョン・メリウェザー氏の闇
ソロモン・ブラザーズ時代に債権の裁定取引で大きく稼いで、その時から業界内では神格化されていたジョン・メリウェザー氏に事件がありました。
メリウェザー氏の部下が国債を保有できる割合の上限があったにもかかわらず複数社の入札に偽装したことで上限を超えてポジションを取っていたのです。
違法行為に加え脱税も発覚し、ソロモンの社長・会長が解任という事態に発展。メリウェザーも罰金と3か月の就労禁止処分となりソロモンを退社することになりました。
ジョン・メリウェザー氏が債権の裁定取引のスキームを再び実現するために設立したのがLTCMだったのです。
相場の本質を理解していない
一般にヘッジファンドが破綻する原因には次のようなものがあります。
・基本的な「相場の本質」を理解していない
・自信過剰
・リスクを過小評価
・過剰にリスクを取る
・コツコツ稼いで大きく損する
・詐欺
ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の場合、自分たちがスーパーエリートだと思っていた傲慢さにより、自信過剰から基本的な「相場の本質」を無視し、過大なリスクを取っていたことが破綻の原因だと思います。
相場が間違っている、自分たちが正しいという思いがあったのだと思います。
資金が小さいうちは市場への影響は無視しても大丈夫なことが多いですが、資金が大きくなると自分たちが「買うと相場は急騰」「売ると相場は暴落」することになります。
人気がでればでるほど資金量が大きくなりリスクが高くなっていきます。
売ろうと思ったら買い手がいなかったということもあります。
流動性が低い市場で自分たちが大量に売却すると相場が暴落することに気づかなかったのは決定的なミスです。
小さい池のクジラになっており動きが取れない状態に陥ったのです。一般投資家であっても流動性が高い市場で運用することが必須です。
私たちは思考停止してプロに任せるのではなく自分でリテラシーを身に付けプロを吟味することが大切です。
計算が間違っている
私たちは学者や権威があるように見えるものに対して盲目的に信じてしまう傾向があります。特に実際の相場の世界が分かっていない数学者が理論を作ると間違いが多いのでしょう。
相場や社会は計算どおりに動かないことが多いものなのです。LTCMはロシアが破綻する確率は100万年に3回と計算していましたが近代に入ってからロシア(ソ連)は何度も破綻しています。
ちなみにLTCMが破綻するような事態が起きるのは宇宙が始まって以来の時間で考えても1回あるかないかくらいのことになるようです。
大きな計算間違いをしていることが素人でも分かります。
学ぶこと
LTCMの破綻から多くの学びがあります。
- 肩書きで判断してはいけない
- 著名人が相場の本質を理解しているとは限らない
- 机上の計算と実態とは乖離がある
- 特に実践をやっていない数学優先の学者は危険
- 「高度な金融工学を使った運用」という言葉に注意
- 「相場が間違っている」という言葉に注意
- 自分のリテラシーを高くしておく
- 最初はまともでも、どんどんリスクが高くなる傾向がある
- ヘッジは気付くと投機(ギャンブル)になっている
- 高慢・傲慢に注意
- 金融では性格が悪い人と頭の悪い人とは付き合ってはいけない
これらは投資家にとって大切なリテラシーです。
インデックスに勝てない
ほとんどの積極運用(アクティブ運用)はインデックスに勝てないことが常識ですがLTCMの破綻でその事例が増えたことになります。
つまり高度なスキルで運用するより何も考えないで日経平均(日経225)の225銘柄やニューヨークダウの30銘柄を買う方が運用パフォーマンスが良いのです。
次の記事を参考にしてください。
https://real-int.jp/articles/544/
おまけ アルケゴス・キャピタル・マネジメントとは?
情報が極端に少ないのですが現時点で分かっていることを簡単に解説します。詳細が分かったら無料メルマガや、こちらで案内いたします。
先週、「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」というヘッジファンドが破綻して野村ホールディングスやシティバンクが巨額な被害を受けたと報道されました。
その報道を受けて3月29日、野村ホールディングスの株価は16%急落しました。
「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」を簡単に説明するとLTCMとはだいぶイメージが違う個人的なヘッジファンドです。
代表のビル・フアン氏は2012年「タイガー・アジア・マネジメント」におけるインサイダー取引での有罪を認め、ゴールドマン・サックスは「取引注意人物」として取引をしていませんでしたが、大きな売買手数料を落とす相手だったので途中で「取引注意人物」を外して主要顧客となることを承諾することになりました。
インサイダー取引とは金融犯罪の一つで一般公開されてないインサーダー情報を元に株などを売買することです。
ビル・フアン氏はタイガー・アジア・マネジメント閉鎖直後にファミリーオフィスの「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」を立ち上げました。
年間リターンは16%と運用パフォーマンスが高かったのですが、その運用手法の詳細は明らかにされていません。
インサイダー取引で取引注意人物とされていた人物だということは近づいてはいけない人物だということなのでしょう。