米国はドル安政策に踏み切ろうとしているのか?

2022年の円安時はレートチェックから約1週間後に為替介入が実施された
1月23日、日銀金融政策決定会合後の記者会見で、植田総裁が利上げに慎重な姿勢を示したとの受け止め方が広がり、ドル円相場は会見後に一時159円台まで円安が進んだ。
だが、その後、日米通貨当局が協調で実施したとされるレートチェックでドル円相場は急落した。
レートチェックというのは「これだけの金額のドルを売る(あるいは買う)とすれば、レートはいくらになるか」との、中央銀行による市場参加者への売値(買値)の照会のこと。照会のうえで、中央銀行がその値段で売買すると言えば、為替介入が実施されたことになる。
そうではなく、中央銀行が売買しなければ、単にレートチェックされただけのことになる。通貨当局が為替介入取引成立の直前の段階まで踏み込むことになるため、為替介入の準備段階として意識されている。
そのため、レートチェックは、為替市場に対して、口先介入などに比べても、強いけん制効果がある。
1月30日に財務省が公表した、直近1か月(25年12月29日~26年1月28日)の介入実績によれば、介入は行われていなかったことが判明した。
今回行われたのは、おそらく、売買に至らなかった、レートチェックだったということになる。
ちなみに、2022年秋の円安局面では、日銀がレートチェックを実施したのは9月14日、その後、実際の為替介入が実施されたのは9月22日で、レートチェックから実際の介入までの期間は約1週間だった。
今回は単なるレートチェックだったが、いつ実際の介入になるかわからないという点では、市場はかなり緊迫した状態であることは確かだ。
なぜ米国が円安を止める必要があったのか?
今回のレートチェックは、日本サイドだけのものではなく、日米が協調したレートチェックであったと推測されている。
というのは、東京時間23日16:43頃に、ドル円相場は159円台から一時157.4円へと急落し、その後、東京時間でいえば翌24日01:15頃から05時頃にかけ158円台から155円台へと、大きく値を下げ、2度にわたってドル円が下落したためだ。
23日の東京では日銀が、翌日、ニューヨーク時間に入ってからはFRBがそれぞれレートチェックを行ったのではないかと推測されている。米国が本当に協調行動に出たかどうかについては確認できない。
だが、協調行動があったとすれば、その理由は、高市政権による積極財政政策への懸念が日本国債売り(日本の長期金利上昇)と円売りにつながると同時に、米国の長期金利を押し上げ、米国経済に悪影響を及ぼすおそれが強まったからだとの解説がなされている。
確かに、ベッセント米財務長官は、3日前の1月20日、ダボス会議において、急上昇していた米長期金利について「日本からの波及効果を分離して考えることは非常に難しい」と述べ、日本の長期金利上昇への懸念を表明していた。
日本では高市政権の積極財政政策が円安を助長し、円安によるインフレ懸念が長期金利を上昇させているという見方がある。
積極財政政策→円安→インフレ懸念→日本国債売り→米国債売りという因果関係だ。
この因果関係を前提とすれば、円安を止めれば、米国債売りも止まるかもしれない。だが、そうではなく、積極財政政策による財政懸念が円安と同時に長期金利を上昇させているという考え方からすれば、円安を止めても根本原因としての財政政策を改めなければ長期金利上昇が止まるわけではない。
米国にとってはドル安はインフレ懸念を高め、米長期金利を上昇させるおそれがある。日本の長期金利上昇が米長期金利上昇へ波及することに対する懸念から、米国が協調行動に踏み切ったという見方には疑問が残る。
11月中間選挙を前に、トランプ政権は改めて米製造業の復権に取り組む必要がある
だが、トランプ大統領がドル安政策を志向している可能性はある。11月の中間選挙を控え、円安・ドル高が続き、自動車などの米製造業の景気低迷が続いている。トランプ大統領が危機感を強めていることは確かだろう。
トランプ大統領は、レートチェックが実施された4日後の1月27日に、記者団から急速なドル安進行を懸念していないか、ドルの水準などについて問われ「ドルの価値は素晴らしい」「ドルは絶好調だ」と述べた。
日本と中国は「円や人民元の切り下げをいつも望んでいる。切り下げるのは公平ではない。切り下げられると競争が難しいと言ってきた」と従来通りの批判を展開した。
トランプ大統領は、ここまで輸入関税によって米製造業を復権させるという取り組みを実施している。
しかし、そうした取り組みが必ずしも成功しておらず、11月の中間選挙を控えて、新たな手段が必要だとすれば、ドル安による米製造業の復権という試みが模索される可能性がある。
確かに、輸入関税によって輸入数量(実質輸入)の増加に歯止めがかかっており、貿易赤字も縮小しているようにみえなくない。
2024年の米国の貿易赤字(石油を除く実質貿易赤字)は月平均1,005億ドルだったが、25年に入ってからは関税引き上げ前の駆け込み需要により1~3月に同1,503億ドルと急拡大した後、4~6月同939億ドル、7~9月同933億ドル、10~11月同824億ドルと縮小した。
ただ、4月以降の赤字幅縮小は1~3月の駆け込みの反動や金輸出の増加による部分も大きい。月ごとの赤字幅の変動幅が大きく、必ずしも関税の影響で安定的に赤字が縮小しているわけではない。
関税によって輸入品が国内品によって代替され、国内製造業が復権するというのが、トランプ関税の狙いだったが、最終的な狙いである、米製造業の景況感改善という目標は実現できていない。
ISM製造業景気指数はトランプ政権への期待から2025年1月に50.5と景気判断の分かれ目である50を一時的に上回ったが、その後はじりじり低下し、25年12月には47.9となった。
関税による国内品への代替効果はある程度あったのだろうが、輸入に依存している部品が関税によって値上がりし、それが製造業の収益環境を悪化させている。
GMやフォードの2025年決算動向をみると、関税コストの増加のほか、EVの税額控除廃止に伴う損失拡大なども加わって、厳しい状況が続いている。
このままでは、ラストベルト地域でのトランプ支持が継続するか、危うい状況と言える。
これに対して、日本の自動車メーカーの動向はと言えば、当初関税の影響による収益の大幅悪化が危ぶまれたが、関税の影響は限定的で、円安やハイブリッド車の好調が収益を押し上げた。
トヨタの2025年の世界販売台数は、前年比4%増の1053万6807台と過去最高を更新し、グループの世界販売も5%増の1132万2575台と最高で、6年連続で世界首位となった。
トランプ関税は米国の貿易相手国に対する政治的威嚇手段として、ある程度成功したと言える。だが、少なくとも、この1年弱の間に、米国の製造業を復権させるこができていないことは明らかだ。
・・・
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2026/2/2の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。















