公開日 2025年12月24日

利上げでもインフレ懸念が高まるのはなぜか?

日銀が、インフレを加速させる「積極財政政策」を暗黙のうちに容認しているようにみえることが、円安につながっている可能性がある。
利上げでもインフレ懸念が高まるのはなぜか?

今回の利上げは、不確実性の低下や賃上げへの期待の高まりから、基調的物価上昇率の「伸び悩み」懸念がなくなったことが原因

日銀は12月18~19日の政策決定会合で、政策金利を0.5%から0.75%に引き上げた。利上げは事前に予想されていたが、市場では債券安、円安が進んだ。債券市場では10年国債利回りが前日の1.97%から2.02%に上昇した。

また、為替市場では19日15時半から始まった記者会見の直前には、まだ円の対ドル相場は155円/ドル台だったが、記者会見後、円安が進み157円/ドル台乗せとなった。

また、円の対ユーロ相場は184円/ユーロ台乗せとなり、1999年のユーロ誕生以来の最高値を更新している。1週間前のFOMCでは利下げが実施され、前日のECB理事会では政策金利は据え置かれた。

政策金利の方向感から言えば、円高が進んでもおかしくなかったが、実際は逆だった。一方、株価は上昇したが、これは前日の米国市場での株価上昇を受けた上昇だったとみられる。

日銀は今回の利上げの背景について、以下の内容を挙げた。

  1. 「春季労使交渉に向けた労使の対応方針や
    日本銀行の本支店を通じたヒアリング情報等を踏まえると、
    来年は、今年に続き、しっかりとした賃上げが実施される可能性が高く、
    企業の積極的な賃金設定行動が途切れるリスクは低い」こと、
  2. 「米国経済や各国の通商政策の影響を巡る不確実性は引き続き残っているものの、
    低下している」こと、
  3. 「賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、
    消費者物価の基調的な上昇率は、緩やかな上昇が続いている」こと、

そのうえで「賃金と物価がともに緩やかに上昇していくメカニズムが維持される可能性が高いと考えられ、先行き、『展望レポート』の見通し期間後半には、基調的な物価上昇率が2%の『物価安定の目標』と概ね整合的な水準で推移するという、中心的な見通しが実現する確度は高まっている」とした。

前回10月末会合時の展望レポートによれば、「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、米などの食料品価格上昇の影響が減衰していくもとで、来年度前半にかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していくと考えられる。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペースの影響などを受けて伸び悩むことが見込まれる」としていた。

今回は10月展望レポートのなかにあった「伸び悩む」という文言がなくなり、「賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、消費者物価の基調的な上昇率は、緩やかな上昇が続いている」という表現になった。

そして、日銀は、これまでの金融政策の基本姿勢通り、「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と述べた。

日銀は利上げに伴う経済・物価の反応をみながら、中立金利の水準を探ろうとする構え

金融政策決定会合後の記者会見で、質問が集中したのは、中立金利に関するものだった。

日銀は2024年8月に発表したワーキングペーパー「自然利子率の計測をめぐる近年の動向」のなかで、日本の自然利子率(実質均衡金利)の計測のための6種類のモデルによる推計値(2023年1~3月時点)を掲載している。

6種類の推計値は、それぞれ、HLW(2023)モデルが0.509%、Nakajima(2023)モデルが0.417%、今久保・小島・中島(2015)モデルがマイナス0.359%、岡島・須藤(2019)モデルがマイナス0.166%、Del Negro(2017)モデルがマイナス0.665%、Goy・Iwasaki(2024)モデルがマイナス0.990%となっている。上限0.509%~下限マイナス0.990%で、6つの平均がマイナス0.211%だ。

自然利子率は実質の均衡金利であるため、物価目標である2%が達成できたとすると、中立金利(名目均衡金利)はこの推計値に2%ポイントを足した数字になり、上限が約2.5%~下限が約1.0%、平均が約1.8%という計算になる。

これによって、世間的には「日本の中立金利は、日本銀行の推計に基づくと、1.0%から2.5%の範囲にある」ということになった。

記者の質問の多くは「今回、政策金利を0.75%に引き上げたことで、中立金利の下限に近付いたことになるが、総裁はこれをどう評価するか?」といったものだった。

これに対して、植田総裁は「中立金利の概念自体は非常に重要」で「かなり幅をもってみる必要がある」とし「中立金利の水準を前もって特定するのが難しい」と述べ「推計された中立金利の下限にはまだ少し距離がある」と述べた。

中立金利からみても、現在の金融環境は緩和的で、下限に近付いたとは言え、まだ、利上げ路線を継続していく方針を示した。

そのうえで、実際の政策金利が中立金利の推計値付近まで上昇した経験がないといったデータ不足もあって、推計値はあくまでも統計上の推計値であり、植田総裁としては、この先の利上げに伴う経済・物価の反応を点検しながら中立金利の水準を探っていく考えを示した。

記者からは「それでは中立金利の水準を超えて利上げしてしまうリスクがあるのではないか」との質問がでたが、「そうしたリスクはあるが他の中央銀行も同様なことをやっている」との答えだった。

おそらく記者の多くは、下限1.0%~上限2.5%と、かなり幅のある中立金利をより狭い範囲に絞ってほしかったのであろうが、植田総裁としては、単に、統計上の推計値である中立金利の水準を特定することは、今後の政策運営を続けていくうえで問題があると考えたのだろう。

利上げでもインフレ懸念が高まったのはなぜか?

前述した通り、今回の利上げ決定後、債券市場では10年国債利回りが前日の1.97%から2.02%に上昇、為替市場では植田総裁の記者会見後、むしろ円安が進み、157円/ドル台乗せとなったが、このような債券安(長期金利上昇)・円安の理由は何か?

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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2025/12/22の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。

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新見未来

エコノミストとして、シンクタンク、投資顧問会社などで経済分析、資金運用とアセットアロケーション業務に携わる。

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