リセッションがなければ、市場の期待する「26年末FF金利3%」にはならない

今回の利下げは雇用の下振れリスクに対応するための保険的利下げであり、かつ引き締め度合いを微調整するための利下げ
9月16~17日の米FOMC(連邦公開市場委員会)は政策金利のFF金利の誘導目標を0.25%引き下げ、4.0~4.25%とした。利下げは昨年12月以来のことだ。
FRBに対して大幅利下げを要求するトランプ大統領からの政治的圧力が強まるなか、金融市場の一部では、0.5%の大幅利下げを期待する見方もあった。
実際、トランプ大統領の指名を受けて、9月15日に上院でFRB理事として承認されたばかりのミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長は、0.5%の利下げを求めて、今回の0.25%利下げの決定に反対した。
今回の利下げは、雇用関連統計などで雇用の伸び鈍化が確認されるなかで、雇用の下振れリスクが高まっていることに対する保険的な利下げだ。
企業のレイオフが相次ぎ、失業者の急増などによって米国経済のリセッション入りが明らかになるといった状況のであれば、緊急的な大幅利下げもあったのではないかと考えられるが、今はそうではない。
雇用の伸びが鈍化していて、先行きその下振れが懸念されるという現在の状況であれば、大幅利下げは正当化させない。
PCEデフレーター、PCEコアデフレーターの前年比上昇率(直近の7月はそれぞれ2.6%、2.9%)と失業率(8月は4.3%)から計算した、テイラールールによるFF金利の適正水準は、それぞれ3.6%~4.0%と計算できる。
ちなみに、テイラールールによる金利の適正水準の計算方法はいくつかあるが、通常、
金利の適正水準=実質均衡金利1%+実際のインフレ率+0.5×(実際のインフレ率-インフレ目標2%)+(自然失業率4%-実際の失業率)
として、計算される。
4.25~4.5%だった、それまでのFF金利はやや引き締め的になっていた。今回の利上げは、引き締め度合いを微調整するためのものであり、利下げ幅である0.25%は、順当なものだったと考えられる。
5月以降の月平均雇用増加ペースが2.7万人とブレーキがかかり、先行きの雇用悪化への懸念が高まった
FOMC声明文では、雇用環境について、前回の「失業率は低水準のままであり、労働市場の状況は堅調さを維持している」という表現から、「雇用の伸びは鈍化し、失業率は小幅に上昇したものの依然として低水準にある」という表現に変更された。
雇用統計によれば、今年1月から4月までの月平均雇用者増加ペースは10~16万人と10万人を超え、雇用は底堅く推移していた。
だが、5月以降、雇用増加にブレーキがかかった。5月1.9万人増、6月1.3万人減、7月7.9万人増、8月2.2万人増となり、直近4か月の月平均雇用増加ペースは2.7万人と、微弱なものにとどまった。
パウエル議長は、雇用者数の伸びが鈍化していることについて、移民の減少や労働参加率の低下といった供給要因の影響も大きく、また、大規模なレイオフは起きていないと指摘しつつも、労働需要は減衰し、雇用者数の増加幅はブレークイーブンの水準(失業率を一定に保つのに必要な水準)を下回っているとの見方を示した。
実際、失業率は2023年4月の3.4%を底に、非常に緩やかなペースで上昇しており、直近8月は4.3%と21年10月以来、ほぼ4年ぶりの水準に上昇した。
このように、雇用の伸びが鈍化しているのに対し、物価については、前回声明の「インフレ率は依然としてやや高い水準にある」から「インフレ率は上昇し、やや高い水準にある」へと、表現がやや変更された。
今回の「インフレ率は上昇」との表現について、パウエル議長は記者会見で、8月のPCE価格指数が上半期と比較して高い伸びを示しており、インフレが加速している点を指摘した。
そのうえで、景気、物価のリスク認識については、前回の「経済見通しに関する不確実性は依然として高い水準にある。
委員会は二重の目標(デュアルマンデート)の両面に対するリスクに注意を払っている」という表現から、「経済見通しに関する不確実性は依然として高い水準にある。委員会は二重の目標(デュアルマンデート)の両面に対するリスクに注意を払っており、雇用の下振れリスクが高まったと判断している」へと、「雇用の下振れリスク」を追加的に特記する形で、表現が変更された。
足元で8月のインフレ指標が加速するなかにあっても、FOMCが雇用の下振れリスクの高まりを重視して利下げに踏み切ったことについて、パウエル議長は、インフレ率の上昇は今後も続くとしながらも、雇用環境の悪化等に伴い、高インフレが持続するリスクはやや小さくなり、高インフレへの警戒をやや弱めることができるから、と説明した。
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2025/9/22の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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