米債券市場は米経済のスタグフレーション化を見越した動き

「利下げの道を開いた」とされるパウエル議長の発言はどういう内容だったのか?
8月22日、注目されていたジャクソンホール会合で、パウエルFRB議長は、米国の労働市場のリスクの高まりに言及し、「リスクのバランスが変化しており、政策スタンスの調整を正当化する可能性がある」と述べた。
金融市場は、このパウエル議長の発言を、ホワイトハウスから利下げ圧力が続く中で、待望の利下げのシグナルを発したものと解釈したようで、株価が急伸し、米国債利回りは低下した。
だが、パウエル議長のこの発言が、本当にメディアで言われているような、「利下げの道を開く」もので「0.5%の大幅利下げを示唆する」ようなものだったのかどうかは疑問だ。
パウエル議長の発言について、整理しておく必要がある。
パウエル議長は、米国の労働市場と物価の現状について、「労働市場は依然として最大雇用に近い水準を維持し、インフレ率はやや高水準にあるものの、パンデミック後の高水準からは大幅に低下している。同時に、リスクバランスは変化しつつあるように見受けられる」と述べた。
労働市場に関しては、8月1日に発表された7月の雇用統計に言及しながら、現状は労働供給が労働需要に合わせて著しく減少する「奇妙な均衡」にあり、雇用に対する下振れリスクが高まっていると述べた。
「奇妙な均衡」というのは、5、6月分の非農業雇用者数が大幅に下方修正され、労働需要の減速が明らかとなる一方、移民流入規制とそれに合わせた非労働力人口増加で、労働力人口(労働供給)が減少し、失業率が低水準のまま推移している状態のことだ。
そして、パウエル議長は、下振れリスクが顕在化する場合には、レイオフの急増や失業率の上昇というかたちで急速に顕在化する可能性があると、警戒感を示した。
メディアは、こうした発言を、利下げのシグナルと解釈したようだが、その一方で、パウエル議長は物価について、関税引き上げによって一部の財価格が上昇し始めていることを指摘し「関税が消費者物価に与える影響は今や明確だ」と述べた。
関税が物価に与える影響については、それが表れてくる時期や大きさには不確実性があるとし、継続的にインフレリスクを高めることになるかどうかが問題との認識を示した。
そして、影響は比較的短期間の一時的な変化にとどまるシナリオがベースラインだとしながらも、物価上昇によって労働者が賃上げを要求し、賃金と物価の間で悪循環を起こすシナリオや、期待インフレ率が上昇し、実際のインフレ率もそれに引きずられて上昇するシナリオもあると述べた。
パウエル議長は、そうした現状認識のもとに、今後の金融政策運営について、以下のように述べた。
- 政策金利は1年前と比べて中立金利に100ベーシスポイント(1.0%ポイント)
近づいており、失業率をはじめとする雇用指標の安定は
政策スタンスの変更を慎重に進めることを可能としている - 政策が引き締め的な領域にある中で、
ベースライン見通しとリスクバランスの変化により、
政策スタンスの調整が必要となる場合もある - 金融政策は、あらかじめ定められた道筋に沿って行われるものではなく、
データとその見通し、リスクバランスへの影響に関する評価のみに基づいて決定する
以上のようなパウエル議長の発言を、メディアは「利下げへの道を開く」もので「0.5%の大幅利下げを示唆する」ものだと評価して、株式・債券市場は大いに好感したわけが、どこをどうみて、そのように解釈したのだろうか?
年内利下げ回数予想は2回程度にとどまっている
このジャクソンホール会合でのパウエル議長の発言で、金融市場(FF金利先物市場)における利下げ観測が高まったかと言えば、そうでもない。
FF金利先物市場によれば、8月27日時点での9月FOMCでの利下げ(0.25%利下げ)確率は88%となっている。
7月雇用統計が発表された8月1日以降の利下げ確率は、72%~107%のレンジで推移しており、パウエル議長の発言がとりわけ利下げ確率を高めたとは言えない。
また、同様にFF金利先物市場によれば、8月27日時点での12月FOMCまでの利下げ回数(1回の利下げは0.25%)は2.2回であり、7月雇用統計が発表された8月1日時点の2.4回から低下している。
金融市場が予想する12月FOMCまでの利下げ回数は、今年5月半ば以降、2回前後とほぼ横ばいで推移しており、この想定は7月の雇用統計でも、今回のパウエル議長発言でも、変わっていない。
つまり、パウエル議長の発言を受けて、金融市場の利下げ観測が高まったわけではなく、ましてや、0.5%の大幅利下げが示唆されたわけでもないことがわかる。
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2025/9/1の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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