シリアのアサド政権崩壊の波紋
2024年12月8日、シリアで、2000年に父親のハーフェズ・アサド氏から政権を受け継ぎ、同国を統治していたバッシャール・アサド政権が打倒された。
この政権転覆による原油価格への影響はほぼなく、12月9日のWTI原油は前日比プラス0.04ドルの1バレル当たり67.24ドルであった。
OPECプラスが12月5日にオンライン閣僚級会合で、2026年末まで協調減産を延長することで合意していたこともあり、世界的な需要低迷のなか、湾岸アラブ産油国の供給に大きな変化がない限り価格上昇の機運は高まらないとみられる。
このことは、現在のところ、アサド政権の崩壊が中東地域に与える政治的な影響は小さいととらえられていることを示している。
しかし、果たして本当にそうだろうか。
以下では、懸念される影響について考えてみる。
第2の「アラブの春」への懸念
確かに、イラン、イラク、シリア、レバノンというイスラムのシーア派の地理的結びつき(「シーア派三日月地帯」とも呼ばれている)が分断され、スンニー派が支配する国々が抱いていた安全保障上の脅威は低下する。
その一方、2011年からの「アラブの春」で民衆蜂起の連鎖がみられたように、今回のシリアでの政権崩壊の映像をSNSや衛星テレビなどを通じて目にしたスンニー派政権諸国の市民が政治運動を活発化させる可能性はある。
とりわけ、ガザ紛争で経済的に打撃を受けているエジプト、ヨルダンや民主化が大きく後退しているチュニジアなどはこの点を警戒していると考えられる。
化学兵器の拡散
アサド政権は化学兵器を保有していたとされる。この兵器が、国際テロ組織の「イスラム国」(IS)やアルカイダ関連組織の手に渡り、中東や先進国でテロに使用される懸念もある。
今回の政権の中心勢力である「ハヤト・タハリール・アル・シャーム機構」(HTS)は、多くのメディアが指摘しているように、もともと「シャームの民のヌスラ戦線」と呼ばれる「シリアのアルカイダ」であった。
また、HTSの指導者アブー・ムハンマド・ジャウラニ氏は、国連安保理決議1267号にもとづく国連安保理制裁委員会でテロリストとして登録されている。
同機構は、すでにアルカイダとの関係を断っているとの報道や、今後、同機構を解散するとの報道が流れているが、現在のところ真偽は不明である。
また、化学兵器の存在の有無や、仮に存在するとすれば、どのような管理状況にあるかもわかっていない。
シリアの混迷の長期化
アサド政権の打倒には、スンニー派アラブのHTS、米国が訓練したとされるシリア南東部のヒムス県を拠点にしている「シリア自由軍」、少数派のクルド民族が中心のシリア民主軍や少数派のドゥルーズ派の集団などが加わっており、それぞれ異なる外部勢力により支援されてきた。
アサド氏、アラブ諸国の助言でロシアに亡命した後のシリアで、これらの勢力が呉越同舟を維持し、統一政権を樹立できるかは不確実性が高い。
とりわけ、HTSの背後にいるとされるトルコ、カタールと、クルドや新シリア軍を支援している米国の動きが注目される。
シリア国内の外国勢力
米国は、シリア領内におよそ9カ所の軍事基地を有し、不法に駐留(約900人)してきたとされている。トランプ次期大統領はシリアへの不関与に言及しているが、アサド政権崩壊後もその方針に変更がないかは不明である。
また、ロシアは、アサド政権の要請を受け、シリア西部のラタキア県にフメイミム空軍基地、地中海沿岸にタルトゥース海軍基地を置いてきた(永久使用が承認されていた)。
ウクライナ戦争に注力する必要があるロシアは、フメイミム基地に戦闘機10機、爆撃機4機しか配備しておらず、タルトゥース基地の艦船も沖合に避難させている。
この2つの基地は、ロシアにとって地中海からアフリカへの影響力を維持するための拠点であり、戦略的に重要である。
今後、この両国がシリアでの基地と軍の駐留について、アサド政権を倒した勢力とどのような交渉を行っていくかが注目される。
なお、イスラエルのネタニヤフ政権は、1974年にシリアと結んだ兵力引き離しのための緩衝地帯に、自衛を目的にイスラエル軍を展開すると述べている。
この緩衝地帯に展開するイスラエル軍が、仮に、今後シリア領内から攻撃を受けた場合、シリアに侵攻する可能性がないわけではない。
イスラエルの極右勢力の中には、シリアの一部も「約束の地」だと主張する者もいる。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2024年12月9日に書かれたものです)
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