レイ・ダリオ ローマ帝国からビッグサイクルを読み解く
世界的に著名な投資家、レイ・ダリオ氏が提唱する「ビッグ・サイクル」は、世界の覇権国家がおおよそ500年周期、同じパターンで栄枯盛衰を繰り返していることを示している。
ビッグ・サイクルに照らし合わせながら、現代の覇権国家アメリカ、古代の代表的な覇権国家をローマを比較しながら、レイ・ダリオの言説を解説していきたい。
レイ・ダリオbig cycleより
linkedin.com
https://www.linkedin.com/posts/raydalio_changingworldorder-activity-6892208574517637120-6zWP
まずはじめに、レイ・ダリオの言説によると、現在のアメリカ合衆国はビッグ・サイクルの13番目、すなわち長期債務の辺りではないかと言われている。
(あるいは既に14、そして15の内紛についても警告している)
https://www.linkedin.com/pulse/where-we-big-cycle-brink-period-great-disorder-ray-dalio
https://www.linkedin.com/pulse/update-my-views-five-big-forces-ray-dalio-7wtye?trk=portfolio_article-card_title
つまり、レイ・ダリオは既にアメリカの覇権が終わろうとしているという予測を立てている。
これをローマの歴史と比較してみる。
比較 ■ローマ ■アメリカ
内地安定期 イタリア半島統一BC509-BC272 建国1776-1789
拡大期 カルタゴ討伐と東方拡大期BC272-BC146 西へ領土拡大期1790-1861
内乱期 グラックス・カエサル暗殺BC146-BC27 南北戦争時代1861-1865
帝国繁栄期 パックス・ロマーナBC27-AD192 世界帝国へ1865-2008?
混乱期 ゲルマンと混乱192-395 2008-現在
分裂期 帝国分裂395-476 植民地の独立と内乱?
覇権喪失期 西ローマ滅亡、東ローマのみに476-1453 アメリカの欧州化
滅亡 東ローマ滅亡1453
まず、ローマとアメリカの比較をする際に、双方の覇権を獲得するまでの歴史から比べてみることにした。
すなわち、ローマはローマ帝国以前、共和制ローマを起点とした。
このように比較してみた時に、確かに覇権国としてローマとアメリカは非常に似たサイクルを持っていることがわかる。
ローマとアメリカの比較
内地安定期
ローマ/イタリア半島統一BC509-BC272
アメリカ/建国1776-1789
ローマもアメリカは最初は、世界の中にある小国に過ぎなかった。
まず国としての土台を作り上げたこの時期を内地安定期とした。
拡大期
ローマ/カルタゴ討伐と東方拡大期BC272-BC146
アメリカ/西へ領土拡大期1790-1861
基盤ができたため、領土の拡大に移る流れは共通している。
ローマは宿敵カルタゴを滅ぼし、更に東へと領土の拡大を図る。
一方アメリカは、ヨーロッパ諸国の戦争に打ち勝ち、ネイティブアメリカンと戦いながら、西へ領土の拡大し、今日の領土の大半をこの時期に獲得する。
内乱期
ローマ/グラックス兄弟・カエサル暗殺BC146-BC27
アメリカ/南北戦争時代1861-1865
宿敵を滅ぼし、領土を拡大したローマであったが、繁栄ではなく、まずは内乱に突入する。
社会の立て直しを図ったグラックス兄弟は暗殺され、その後にローマの内乱を納めたカエサルも最後はブルータスによって暗殺される。
アメリカも同じように、世界に領土を拡大するのではなく、ここで大きな内乱を迎えることになる。国が南北に渡り戦争に突入し、最後は北部の勝利となるが、戦争の勝者であった北部の大統領リンカーンは戦後に暗殺される。
カエサルとリンカーン、この2人の人物は内乱を納めた後に暗殺された、という点では極めて類似している。
帝国繁栄期
ローマ/パックス・ロマーナBC27-AD192
アメリカ/世界帝国へ1865-2008?
カエサルが暗殺されたのち、ローマはアウグストゥスによりローマ帝国が始まり、ここからおよそ200年に渡って覇権国として君臨することになる。
このローマ帝国最盛期を「パックス・ロマーナ」と呼ぶが、その後のローマ帝国の長い歴史の中では、ごく短い時期にしか過ぎないことがわかる。
アメリカも同じように二つの世界大戦を経てヨーロッパが弱体化する中、覇権を確立する。
そしてここからは推測になっていくが、ビッグサイクルに当てはめると、アメリカの最盛期は2008年のリーマン・ショックまでではないかと考えられる。
混乱期
ローマ/ゲルマン民族の侵入と混乱192-395
アメリカ/リーマンショックの打撃から2008-現在
パックス・ロマーナの後のローマは熾烈な国内の権力争いにより、ほとんどの歴代ローマ皇帝は暗殺されるか、戦死するような事態となる。そのような中、ゲルマン民族との戦争に敗れ、大きな混乱を迎えることになる。
アメリカに当てはめた場合、国内の混乱は深刻な共和党と民主党に対立に置き換えることができるだろう。そして、アメリカにとっての現在の最大の脅威は中国もしくはロシア、イランということになるのだろうか。
分裂期
ローマ/帝国分裂395-476
アメリカ/植民地の独立と内乱21世紀後半?
ゲルマン民族の攻勢により、ローマは東西二つに分かれることになる。
未だ、世界のローマ帝国ではあっても、その力は半減したことになる。
アメリカの場合、おそらく植民地、いくつかの影響力のある国々がアメリカから独立する、あるいはもっと極端に、アメリカ国内が南北戦争の時のように分裂するということになるのだろうか?
覇権喪失期
ローマ/西ローマ滅亡、東ローマのみに476-1453
アメリカ/アメリカの欧州化 23世紀以降?
ローマは東西に分かれたあと、西ローマ帝国は滅亡し、東ローマのみとなる。
この時期において、ローマは完全に覇権を失っていることになる。
アメリカもこのローマに準じて考えるのであれば、現在の州が、国家として独立する、ということになるのであろうか。
そしてヨーロッパのように、アメリカ大陸は複数の国家が乱立することになるのだろうか。
ビッグサイクルを読み解く
レイ・ダリオのビッグサイクルと照らし合わせると、ローマとアメリカの繁栄と衰退の類似は、奴隷や移民の活用、そして金融の優位が挙げられる。
まず、ローマもアメリカも注目すべきは内乱期にある。
双方ともに、勢力を拡大し、繁栄を迎えるはずが、なぜここで内乱を迎えるのか、ということである。
共通しているのは、ローマはカルタゴに勝ち、大量の奴隷を国内に持ち帰ったこと、そしてアメリカも大量の奴隷を主にアフリカから連れ帰ったことである。
これにより、国内労働者と移民との対立、という論点が生まれてしまった。
そして実はアメリカはその問題をずっと解決できていない。
なぜこのような問題が起きるのかといえば、資本家にとって、国内の労働者よりも、国外の奴隷の方が賃金が安いためである。
そして技術のある生産者よりも、効率性を重視したため、ビッグサイクルの9番目less productive、つまり国内の生産力の低下につながる。
もう一つの覇権国の問題は金融の強さにある。
すなわち、トマ・ピケティが指摘、あるいは真に言いたかったであろうことは、覇権国は自国の生産力を強めることなしに、金融の力技で経済を回し始めてしまうということにある。
つまりビッグサイクルの8番目strong markets and financial centers、金融の中心セクターとなること自体が、そのまま9番目の生産性力の低下の原因となっている、ということである。
未来に向けて
移民と金融、この二つが覇権国についてまわる課題であり、我々はこの論点に向き合わない限り、永遠に同じサイクルを繰り返すことになるであろう。
レイ・ダリオ氏も同じパターンであることを指摘はしていても、どのようにしたらこのパターンを壊せるかまでは明らかにしていない。
しかし、歴史的に似たようなパターンが生じているのであれば、本来は政治のあり方として真剣に議論をするような話ではないだろうか。
いま日本でも移民の話が持ち上がっているが、先行するアメリカの事例も含めて総合的な判断をしていく必要があるだろう。