公開日 2024年1月22日

賃金とともに物価が上昇しても「好循環」は実現しない

賃金上昇とともに物価上昇が実現するかどうかは、日本経済の好循環で低迷から脱するかどうか、とは全く別問題である。
賃金とともに物価が上昇しても「好循環」は実現しない

今年の定期昇給を除くベアは中小企業を含めて2.5%前後か

日銀の政策を占ううえでも今年の春闘、賃金動向に注目が集まっている。

連合は今年の春闘でベア(ベースアップ)相当分として3%以上、定期昇給分を含めて「5%以上」の賃上げを要求する方針を決めた。

ちなみに「ベア」とは、賃金表の書き換えのことで、例えば、昨年から今年にかけて、賃金表が書き換えられて、同じ35歳の人の賃金がどの程度上がるかを示したもの。

一方、「定期昇給分」というのは、同じ年の賃金表でみた、35歳の人と36歳の人との賃金の差だ。昨年の定期昇給分を含めた賃上げ要求は「5%程度」だったが、今年は「5%以上」で、昨年を上回る要求になるもようだ。

では、要求に対して実績はどうだったのか。

昨年の場合、連合の要求が「5%程度」だったが、厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によると、妥結された賃上げ率(定期昇給分を含む)は3.6%だった。

同統計で、妥結賃上げ率が3%を上回ったのは、1994年(3.1%)以来のことだ。1995年以降、2022年までの妥結賃上げ率は3%未満で、特に、日本の金融危機以後の1999年以降は2%前後で推移していた。22年の妥結賃上げ率も2.2%と低かった。

ただ、同調査は、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業364社を対象とするもので、中小企業などは含まれない。

日本の労働者のうち7割が中小企業に従事しており、日本の労働者全体の実態とは乖離している可能性がある。また、この「3.6%」には定期昇給分が含まれている。

いわゆる賃金の「ベア」(定期昇給分を除く賃上げ率)がどの程度かをみる場合、ここから定期昇給分を除かなければいけない。中小企業の賃上げ動向を加味し、定期昇給分を除く賃上げ動向はどの程度だったのか。

毎月勤労統計(共通事業所統計)で、昨年の春闘の結果が反映されているとみられる、23年後半以降(7月~11月)の一般労働者の所定内給与の前年比平均増加率は2.0%だった。

これが、中小企業の賃上げ動向を加味し、かつ、定昇分を除く「ベア」に相当する。

昨年の大企業の定期昇給分を含む賃上げ率が3.6%で、中小企業を含む労働者全体の定期昇給分を除くベアが2.0%だったとすると、大企業の定期昇給分を含む賃上げ率に比べて、中小企業を加味した労働者全体の定期昇給分を除くベアは、1.6%ポイント程度低くなる可能性がある。

前述した通り、連合による要求は昨年の「5%程度」から今年は「5%以上」になった。このため、大企業の妥結賃金上昇率は昨年の「3.6%」から、おそらく4%程度に上がる可能性がある。

そして、中小企業を含む労働者全体の定期昇給分を除くベアは、昨年の「2.0%程度」から、今年はおそらく2.5%前後になるのではないかと想定できる。

賃上げ率の上振れ、下振れ要因は?

この想定が上下に振れるとすれば、以下のような要因がある。

賃金の下振れ要因としては、まず、労働組合の賃上げ要求が、ストライキなどが頻発するようになっている欧米などに比べると、さほど積極的ではないのではないかという点がある。

2000年代以降、労働組合の賃上げ要求は沈静化した。背景には、正規労働者並みの仕事をする非正規労働者が増加するなかで、非正規労働者の賃金は正社員の賃金に比べ、相当低めに抑えられてきたということがある。

正規労働者は、ほぼ同じ仕事をしているにもかかわらず、非正規労働者に比べ賃金水準が割高な、いわば「既得権益層」となった。

労働組合としては、ストライキなどを伴って強硬に賃上げ要求を行なえば、正規労働者は低賃金の非正規労働者に置き換えられてしまうため、それができなかったのではないかと思われる。労働組合は雇用確保を優先し、その賃上げ要求は沈静化した。

もう一つの下振れ要因は、大企業が高い賃上げで妥結しても、収益力に劣る中小企業の賃上げが確保できない可能性がある点だ。

実際、日本商工会議所の小林会頭は以下のように述べている。

「連合が目標として掲げることは否定しないし、理解できるが、中小企業は業績が改善していないのに雇用確保などのためにやむなく賃金を上げているのが大半で、なかなか難しい」

「中小企業の賃上げには価格の適正化が必要だとして、取引先の大手企業への価格転嫁が進むことや、値上げに対する消費者の理解が得られることが求められる」

一方、賃上げ率の上振れ要因としては、まず、労働需給が逼迫し、労働需給環境が賃金に反映されやすい非正規労働者の市場では、すでに高い賃金上昇が続いている点がある。

実質賃金(賃金÷物価)は、大幅な前年比マイナス傾向が続いているが、これは、企業にとって、安い賃金で労働者を雇用でき、高い製品を作ることができることを意味する。

このため、企業にとって雇用のニーズは高まるばかりで、実際、毎月勤労統計によれば、雇用全体の前年比増加率は22年12月の1.2%から、23年11月に2.0%と増加ペースが加速している。

とくに、パートタイム労働者の雇用の伸びは高く、22年12月の2.0%から、23年11月に3.6%と加速している。雇用ニーズの高まりから、パートタイム労働者の時給は22年12月の前年比3.3%増から、23年11月同4.6%増と加速している。

労働需給の逼迫は今後さらに強まる可能性が高い。4月1日からは働き方改革関連法による物流・運送、建設、医療業界での時間外労働上限規制が適用される。

時間制限分の労働生産性上昇がなければ、企業はより多くの労働者を雇用せざるをえなくなるためだ。

もう一つの上振れ要因は政治による後押しだ。

岸田首相は、すでに、春闘にかけて経済界への働きかけを強めるとともに、従業員の給与を引き上げた中小企業の法人税を減税する「賃上げ税制」拡充を表明している。

さらに、1月17日の政府与党連絡会議で、経済界や労働団体の代表者と意見交換する「政労使会議」を開催する方向で調整していることを明らかにした。

自民党の政治資金問題への国民の批判をかわすためにも、政権維持のためにも、高い賃上げの実現が必要不可欠になっている。

・・・

2024/1/22の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。

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