米国株のバブル化が強まる
実質賃金増加と労働生産性低下で米企業の利益は伸び悩む
利下げ期待の高まりで米国株は上値を追う展開となっているが、企業の利益は案外伸びていない。
米S&P500種株価指数の1株当たり利益は、22年7~9月の57.2をピークに、10~12月56.1、23年1~3月54.4、4~6月53.5、7~9月54.7と、22年年央のピークを5%程度下回る水準で、23年7~9月にかけ、ほとんど横ばい推移となっている(図1参照)。
現在、決算発表中の23年10~12月分についても、ブルームバーグの集計によれば54.9と、前期比微増、前年比微減と横這い推移は変わっていない。企業収益は頭打ち気味だが、マクロ経済全体は堅調だ。
実質GDP成長率は7~9月年率4.9%と高成長を遂げたあと、10月に一時、急ブレーキがかかったが、11月は復調し、12月も雇用統計などをみると、堅調に推移している。
確かに、エコノミストによる今後の成長率予想については、23年10~12月が年率1%強、24年1~3月、4~6月が同0.5%程度と急減速するという見方がコンセンサスにいなっている。
だが、順次発表される経済指標を元にGDPを推計する、アトランタ連銀のGDPナウによれば、10~12月の成長率予想は年率2.2%と悪くない。
多くのエコノミストの予想は、発表されている経済指標を重視せず、マーケットの利下げシナリオに沿ったものになっているようにみえる。
マクロ経済が堅調ななかで、企業の利益が意外に伸び悩んでいるのは、労働者への分配が増えているためだ。
図2でみる通り、名目GDPに対する企業利益の比率は歴史的な高水準にあるものの、2020後半から22年にかけての12~13%の水準から23年に入ってからは11%台に低下した。
企業(資本)への分配が減り、労働分配率が高まっていることになる。
労働分配率=雇用者報酬÷名目GDP、だが、
雇用者報酬=雇用者数×一人当たり賃金、名目GDP=実質GDP×物価、と分解すると、
労働分配率=(雇用者数×一人当たり賃金)÷(実質GDP×物価)、
労働分配率=(雇用者数÷実質GDP)×(一人当たり賃金÷物価)、
労働分配率=(1÷労働生産性)×実質賃金、
労働分配率=実質賃金÷労働生産性、となる。
つまり、労働分配率の動きは、実質賃金と労働生産性の動向で説明できる。
12月の実質賃金(平均時給÷消費者物価)は前年比0.8%増加した。
実質賃金増加については、エネルギー価格の落ち着きなどにより消費者物価上昇率は急低下(12月は前年比3.4%上昇)した半面、賃金上昇率は労働需給逼迫が続き、労働組合による賃上げ要求も加わって高めの上昇が続いている(12月は前年比4.1%上昇)ため、プラス圏で推移している。
一方、労働生産性については、20~21年初めまではコロナ特需によりモノへの需要が急増し、製造業の活動が活発化したが、22年以降は経済再開によってサービス業でペントアップディマンドが盛り上がった。
製造業の労働生産性は高いため、20~21年初めまでの労働生産性は高かったが、サービス業の労働生産性はほぼゼロであるため、その後、労働生産性は鈍化した。
結局、最近の企業利益の伸び悩みは、実質賃金増加の半面、労働生産性が低下したことが原因だ。
マクロ経済が堅調ななかにあっても、こうした構造に変化がなければ、企業の利益が伸び悩む状況は続くだろう。
ちなみに、日本の場合、サービス業中心の経済拡大により、労働生産性がほぼゼロになっている点は米国と同じだが、実質賃金が大幅に減少している点で、企業有利、労働者不利な環境になっている。
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2024/1/15の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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