前のめりの利下げ姿勢転換はインフレを再燃させる
FOMCの利下げ姿勢はECBとやBOEと比較しても突出
前週のレポートで、11月以降発表された、10月の米景気指標やインフレ指標の悪化、鈍化が、(1)9月中旬にかけてのガソリン価格の高騰、(2)10月中旬にかけての米長期金利上昇による株価下落、などによる一時的な悪化、減速だと述べた。
https://real-int.jp/articles/2411/
実際、ガソリン価格が下落し、長期金利が低下した後の11月の経済指標は改善した。8日に発表された雇用統計では、UAWのスト終結の影響もあって、雇用者数の増加ペースは加速し、失業率は低下した。
また、12日のCPI統計では、サービス価格や帰属家賃の上昇により、コアCPIの伸びが前月比0.3%上昇と前月の同0.2%上昇を上回った。
賃金インフレの指標として注目されている、住宅とエネルギーを除くサービス価格は前月比0.4%上昇した。これは労働需給逼迫と賃上げ交渉の結果としての賃金上昇によるものにほかならない。帰属家賃の上昇は今年に入ってから住宅価格が再び上昇し始めているからだ。
さらに、14日に発表された小売売上高は、前月比減少がコンセンサス予想だったが、前月比0.3%増と予想に反して増加した。
今年のクリスマス商戦は、事前予想では、物価高による不調が伝えられていたが、ガソリン価格が下落したことも手伝って、消費マインドは回復しており、事前予想ほど悪くないようだ。
そうしたなかで、12~13日に開かれたFOMCは、前のめりで利下げ方向へ政策を転換しようという姿勢が打ち出された。
パウエルFRB議長は、記者会見で、「利下げするかどうか」というだけでなく、その「時期」が議論されたと述べた。
FOMCの動きは、その翌日開催された、ECBやBOEなど会合結果と比べても突出している。
ユーロ圏では、7~9月の実質成長率がゼロ%とこの1年間、全く成長しておらず、コアインフレ率は8月前年比5.3%から、9月4.5%、10月4.2%、11月3.6%と急速に鈍化している。
しかし、14日の政策決定会合で、ECBは「インフレ率が再び一時的に上昇する可能性が高い」「今後の政策金利の水準と据え置きの期間はデータ次第」とした。
パウエル議長とは対照的に、ラガルド総裁は「利下げは議論していない」とも言明した。FOMCとECBの姿勢に大きな違いがあることは明らかだ。
FOMCメンバーの予想(中央値)をみると、24年末のコアPCEデフレータの前年比予想は2.4%と前回9月時の2.6%から下方修正され、インフレが一段と沈静化する予想が示された。
そして、インフレ沈静化に見合って、24年中に0.75%ポイントの利下げを予想し、FF金利の予想は4.625%に引き下げるとの予想が示された。
だが、FOMCメンバーの大半は経済見通しに自信を持てていないようだ。実際、コロナショック以降、ここまでのFRBスタッフのインフレ予想は外れっぱなしだ。
そうした、極めて曖昧な予想を前提に、FOMCは前のめりの利下げ方向への転換を打ち出したことになる。
もちろん、FRBのインフレ沈静化予想が当たれば問題はない。だが、この予想が外れれば、後になって金融市場に及ぼす反動、あるいは悪影響は極めて大きなものになる。
ECBやBOEはインフレ予想の確度が低いことを前提に、「予想」ではなく、「(実際に発表された)データ次第」の姿勢を維持している。
パウエル議長は「高金利を長引かせすぎることのリスクを気にしている」と述べたが、我々の知らない、金融システムリスクなど、早めの利下げが必要な理由があるのだろうか、といった疑念を抱かせる。
FOMCのインフレ容認姿勢はドルの信頼を失墜させるおそれ
米株式・債券市場はFOMCのこの決定を好感した。FRBの姿勢転換に力を得て、市場の利下げ期待は加速した。
FF金利先物市場は、24年3月から利下げが開始されることをほぼ確実視し、24年中に1.5%ポイント程度の利下げがあることを織り込んでいる。
大幅な利下げを織り込んで、10年国債利回りは4%を割り込んで低下した。株価も一気に上昇した。
もし、リセッション懸念の高まる状況のなかでの利下げ転換であれば、リセッション懸念が株価の下落要因となるため、利下げは株価上昇に直結するものではない。
だが、現状の景気は良好で、景気悪化の懸念は少ない。景気拡大下で利下げ期待が高まるのであれば、株価が上昇するのは当然だろう。
一方、為替市場ではドルが下落した。米長期金利の大幅な低下による金利差の縮小がドル安につながったという解釈が普通だろう。
だが、・・・
2023/12/18の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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