ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)【29】BRICS+ASEANで脱ドル化は進むが中長期、短期では金利差でジャパニーズリラは下落!
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ASEAN諸国はBRICS11と協調して脱ドル化!
何度か紹介していますが、ASEAN諸国は実は3月の会合で脱ドル化を検討していました。
そして添付資料に書かれていますが、先日インドネシアのジャカルタで閉幕した9月の会議では「ASEAN参加国10カ国(ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール)はBRICS11と連携して自国通貨での取引を推進する」ことを決定したようです。
さらにジャカルタ・グローブの記事によると、インドネシアは財務省と中央銀行などによる「脱ドル化のタスク・フォース」を結成するそうです。
前々回のゾルタンシリーズの記事で「バイデン大統領の圧力によりジョコ大統領はBRICS参加を諦めたが、心の中はどうなのか?」と書きました。矢面に立つのを恐れて「ASEANの仲間と相談して決定する」と語っていましたが、加盟国一致で脱ドル化を進めるようです。やはり心の中では不満に思っていたわけです。
インドネシアの銀行はタイとマレーシアの銀行と脱ドル化推進で合意、越境QRコード使用によりデジタル決済をすすめるようです。日本と中国とも締結を進めており、シンガポールと韓国が次の予定に入っているそうです。
この「脱ドル化の進展」により海外からの米国債券購入は減少し、FEDが自ら購入する事態となってきています。これはボルカー元議長時代との大きな相違点です。日本の債務残高のGDP比率は264%で、米国の倍です。
しかし、日本は経常黒字国なので、理論的には問題がないのです。米国は経常赤字なのでフィッチの格下げ後に問題視されてきたわけです。
インド・ブラジル・トルコは中立でありたい、湾岸諸国とベトナムも?
前々回の記事では「インドがBRICSコインに反対」したと書きました。G20会議を主催していましたが「北京とワシントンの架け橋を目指している」と報道されています。
BRICSコイン推進派であるブラジルも、ルラ大統領が「西側諸国と対立するつもりはない」と発言しています。BRICS11に参加しなかったトルコが中立の立場を取ったのは「インフレが59%」に達しており「西側の銀行システムと決裂できない」という事情があるようです。
CNNニュースに書かれているように「中国が新たな自国地図を発表、反感」を買っています。「特にインドが、中国が設定した国境について拒絶」をしています。「フィリピン、ネパール、マレーシア首脳も中国訪問を中止」したようです。
ASEANとG20開催直前のタイミングで「なぜせっかく取り込みつつあるグローバルサウスの盟友国との軋轢となる発表をしたのか?」が、不思議です。軍部の勇み足でしょうか?それとも実質上の盟主であるBRICS5がBRICS11に拡大したことへの過信でしょうか?いずれにしろ、習近平主席はG20を欠席しました。「インドとの対立が深化」したようです。
インドはCNNにあるようにカナダ在住のシーク教徒指導者のバンクーバーでの殺害をめぐり意見が衝突、カナダと軋轢が生じています。しかしインドを味方につけたい西側諸国は、今回はG7の仲間であり白人国家のカナダの支持に回っていません。英文記事によると、これはかつてなら起きなかった現象だそうです。「ブレトン・ウッズ3体制に入った」のだと実感されました。
「プーチン大統領と習主席の欠席を喜んだのはバイデン大統領」なのは言うまでもありません。ファイナンシャル・タイムスの記事によると、G20後にハノイを訪問した大統領は「ベトナムと米国との戦略的提携締結」に成功したようです。
さらにCNBCにあるようにクリーンエネルギーへの転化を目指すのに必要な「レアメタルのアフリカでの確保」のため対立していた「サウジと米国が提携」を模索しています。
そして他のCNBCによると「米国、EU、湾岸諸国とインドが鉄道と港湾の拠点確保で一致」しました。詳細はまだ明らかになっていませんが、欧州と湾岸諸国を鉄道で結び、湾岸諸国とインドは港湾でつながるそうです。これで前回の記事の最後に触れた「オイル・ショックの心配はなくなった」ようです。
この背景は、ゾルタンが指摘していた添付資料に書かれているレイソン(RTX)とサウジとの大型商談がロシアと中国との繋がりが理由で取消しになったからかもしれません。首都リディアをミサイルやドローン攻撃から守る「レーダーや防空システムのための工場建設が中止」になるのは強気のMBS(サウジ皇太子)にとってもやはりショックでしょう。
ニューヨーク原油価格はサウジの目標の90ドルに達しています。バイデン政権に配慮をすればこれ以上の減産もなく、100ドルには届かない可能性もでてきました。バイデン外交の勝利で「西側にとって『ブレトン・ウッズ3体制』後最大のグッド・ニュース」です。
ゾルタンの予言した「G7対BRICS+の構図は実現」しましたが、そう単純に割り切れるわけではないようです。やはり「BRICS11は一枚岩ではない」わけです。
米中デカップリングはエスカレート、中国半導体技術は想定外の高さ!
「一帯一路」で米国との覇権争いを表明した中国に対する制裁は、ファーウェイの5Gからの締め出しなど「トランプ政権から開始」されていました。バイデン政権は「最先端半導体禁輸」「CHIPS法」「リショアリング」を開始、中国は「レアメタルの禁輸」「ガリウムとゲルマニウムの禁輸」などで対抗していたわけです。
最近も次々とニュースが発表されています。ウォール・ストリート・ジャーナルにある米国の今後重要となるエヌビディアなどの「AIチップなどの新たな規制」に対し中国はロイターに書かれている400億ドルもの「半導体産業への大規模投資」、日本のニュースでも流れた中央政府だけでなく「地方政府までのiPhone使用禁止」を発表「対立は激化」しています。
アップルの株価は3日連続で大きく下落「制裁がアップルだけに留まらないのでは?」と「米国経済界から懸念の声」が上がっています。
そして「ファーウェイは米国の半導体制裁をくぐりぬけている」ようです。ガーディアン紙によれば「最先端半導体工場を建設」しているとSIA(米国半導体工業会)が報告、ロイターに書かれているのはトランプ政権時代から制裁されており製造できないはずの「最先端スマホを発表」したという内容です。
14ナノメーターが中国半導体大手SMICの限界と思われていたのが7ナノメーターの最先端半導体を製造しており、全体に占める中国製半導体の割合が3年前のモデルの3分の1から最新モデルでは半分〜3分の2に増えているというのです!
「米国のファーウェイへの制裁は効果がなかった」ようです。どこかに「抜け穴が存在」しているようで「中国の半導体技術は米国の予想を遥かに上回っていた」のです。日本では全く取り上げられていませんが、これは「西側にとっての大きな脅威」といえるでしょう。
そしてNasdaqに書かれているように「抜け穴はやはり韓国」で韓国SK製のメモリーチップが内部から発見されました。しかし、これは半導体輸出制限以前のことであり「韓国は米国側につくことを決断」したようです。
「韓中日をわざわざ韓日中と言い換える」というパフォーマンスを大統領が行っています。ロシアに対しても北朝鮮との武器交渉を抗議しており、やはり「北の脅威のために米国、日本との同盟を選んだ」ようです。
弱小国の日本や韓国がしかけられてきた「不買運動がiPhoneなど米国製品にまで広がればどうなる」のでしょうか?
前回紹介した米国商務長官の「中国とデカップリングする気はない」という発言はバイデン大統領の行動と矛盾しており「中国から当然のようにスルーされた」わけです。「ルーズ-ルーズ」となっており今後は「米中ともにさらに赤字は拡大」していくと思われます。
米国は政府や中下流家庭、ベンチャー企業や地方銀行が火の車であり、中国は不動産不況に輸出産業の低迷が加わることになります。中国輸出の鈍化に加え米国製品の不買運動が重なることを米国企業が不安がるのは、当然と言えるでしょう。
世界経済第1位と第2位の両国の対立は、全世界に影響するでしょう。両国への輸出に頼っていない国は限られるからです。日本でも半導体メモリー大手のキオクシアが人員削減を検討するなど影響が出てきています。
バイデノミクスで米国金利は高止まり、ジャパニーズリラは下落!
バイデン大統領は、財政支出を6月の債務上限引き上げ後も抑えるどころか増大させています。増刷された米国国債の引き取り手はFEDや高金利に惹かれたファンドしか存在しません。
史上初のビッグ3の組合のストライキは継続しています。SPR(戦略備蓄在庫)は過去最低の20日となり、制裁中のイランへ依頼した増産も上限に達したようで、2ヶ月で30%以上上昇した原油価格が8月のCPIから反映されています。
CNBCに書かれているように前年比+3.7%と予想の+3.6%、前月の+3.2%を上回っています。
反対にウォール街が期待していた「日本のマイナス金利政策は維持」され、金利上昇を見込み日本国債をショートしてきた「米国の債券ディーラーは損失」を蒙り続けています。
もはや日本は期待されておらず、対ドルで底値まで落ちた「トルコと同じリラを日本は円の代わりに採用する」と揶揄されています。「ジャパニーズリラ」です。パウエル議長と同様に、植田日銀総裁の役割は簡単ではないということです。
「誤解がある閲覧者の方もいるのでは?」と西原宏一さんから指摘されたのでここで改めて説明いたしますが、ゾルタンの指摘する「脱ドル化」は1971年に始まった「ブレトン・ウッズ2体制」が2022年に終了し今後は「ブレトン・ウッズ3体制」に入ったために起きるというものです。「ブレトン・ウッズ体制」は約25年「ブレトン・ウッズ2体制」は約50年継続しました。
上記のように「脱ドル化」は予言以上に早く進んでいますが「ブレトン・ウッズ3体制」は始まってまだ1年です。米ドル安は「今後3~5年を見据えた中長期の話」です。
ゾルタンが「短期で重要」としているのは何度も紹介したように「金利差」です。CPIは現在米国も日本も約3%強と同程度なのに、米国政策金利は5.25%~5.5%、日本は-1%です。
9月20日のFOMCでパウエル議長は2024年末の公定金利予想を4.6%から5.1%に引き上げました。来年は1%ではなく0.5%の利下げしか実施されず、ゾルタン主張の「Higher for longer」は遂にFEDに認められたことになります。
ロイターに書かれているようにゴールドマン・サックスはFEDの利下げ時期を従来の2024年第2四半期から第4四半期へと半年も先延ばししています!
そしてFOMC後長期国債金利は上昇を続け、22日には以前の記事で紹介した「米国10年国債の新適正金利の4.5%に到達」しました。日銀目標は0%です。
「ジャパニーズリラ」は植田総裁の発言や介入などによる一時的な上昇はあっても「基本的には下落を続ける」わけです。「介入や総裁発言は絶好の売り場」ではないのでしょうか?
そして、米国は利上げが終了してもピボットとはならず「財政赤字が増大し続ければ長期金利はプレミアムと自然利子率の上昇で高止まりする」のではないでしょうか?
つまり、米ドル指数はピーターの意見とは異なり、ゾルタンの予想どおりに長期金利と共に高値を維持していくということです。L字型の暴落などにより米国長期金利が下落を始める時に初めて「脱ドル化は本格化」するのかもしれません。
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