強まる米銀の経営悪化懸念
ベンチャーキャピタル向け銀行が破綻
米国の銀行持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行(SVB)が3月10日、経営破綻し、10日の株式市場では危機への連鎖を懸念した売りが広がった。
SVBはカリフォルニア州サンタクララに本店を置き、2022年末時点の総資産は2,090億ドル(約28.2兆円)、預金残高は1,754億ドルだった。
米国の銀行破綻としては、リーマンショック時の2008年9月に破綻した、貯蓄金融機関ワシントン・ミューチュアルに次ぐ、過去最大規模の経営破綻になる。
ちなみに、ワシントン・ミューチュアルは、住宅ローンが主力で預金の流出によって、事業の継続が困難となったため破綻した。
SVBは資産規模では全米16位とそれなりに大きい銀行だが、大手銀行JBモルガンの1割未満で、全国的な銀行危機を引き起こすほどの規模でもない。
一般的な知名度は低いが、テクノロジー関連のスタートアップへの融資というニッチなビジネスを展開しており、その業界では知られている銀行だ。
SVBは米国のベンチャーキャピタルが出資するスタートアップのほぼ半数と取引しており、米ベンチャーキャピタルが支援するテクノロジーおよびヘルスケア企業で昨年上場した企業の44%は同社顧客だったと言われる。
スタートアップやベンチャーキャピタルなどの新興企業は新株発行による資金調達が一般的だが、研究開発費や装置購入費がかさむ医療系などでは運転資金を銀行借り入れで賄うケースが多いと言われ、こうした新興企業がSVBに新規口座を開いていた。
SVBの経営破綻の原因については、以下のようなことがあった。
- SVBは2020年以降の金融緩和下で流入した預金の多くを
米国債や住宅ローン担保証券などの債券で運用していたが、
最近の金利上昇によって保有債券が値下がりした。 - 本業のベンチャーキャピタル向け金融サービスなどのビジネスが変調をきたした
- 流動性危機が発生した。
3月に入り、SVBの経営陣は経営再建のために
22.5億ドルの資金調達が必要として、
売却可能な有価証券のほぼ全額210億ドルを売却したと明らかにし、
税引き後利益ベースで18億ドルの損失を計上した。
資金繰り悪化に対応して緊急の増資計画を発表した今年に入り、SVBの顧客であるスタートアップ企業がSVBの経営悪化を見越して預金を引き出しに走り始め、増資計画の発表を受けてまさに取り付け状態となった。
暗号資産業界でも同様な取り付け
SVBの経営破綻は、増資計画の発表が市場の余計な疑心暗鬼を生んだことなど、経営陣の対応の誤りによる、SVBだけの特殊ケースと思われがちだが、必ずしもそうではない。
SVBの経営悪化が表面化する前に、すでに異変は起きていた。
米国大手銀行の22年10~12月期決算は景気後退を見込んで、引当金を積み増しするなど悲観的な内容だった。
さらに、暗号資産関連企業との取引が多いシルバーゲート銀行の親会社、米シルバーゲート・キャピタルが3月8日に、事業閉鎖を発表した。
シルバーゲート・キャピタルは、22年11月の仮想通貨交換業大手FTXトレーディングの経営破綻後、預金の急減による流動性危機に見舞われていた。
資金流出に対応する資産売却で損失が膨らみ、自己資本比率が規制上の水準を満たさない可能性から、8日のプレスリリースで「最近の業界や規制動向を踏まえ、銀行業務の秩序ある縮小と自主的な清算が最善の道であると考える」と記した。
傘下銀行のシルバーゲート銀行は1988年設立され、2013年ごろから仮想通貨にカジを切り、暗号資産関連企業の預金を積極的に受け入れたほか、暗号資産の投資家向けにドル決済システムを提供した。
顧客はシルバーゲートの独自プラットフォームを通じて送金し、デジタル資産への支払いのために相互に資金を送ることができた。
暗号資産価格の急騰、関連ビジネスの2014年頃から22年9月にかけてシルバーゲート銀行の預金は約30倍に膨らみ、同銀行はその資金を国債や住宅ローン担保証券で運用した。
しかし、規制強化や金利上昇などにより暗号資産の価格は下落し、関連ビジネスも変調をきたした。そして22年11月のFTXの経営破綻を契機に、同銀行の預金引き揚げの動きが加速した。
22年10〜12月中に仮想通貨に関連する企業・投資家の預金は約7割減少したとされる。
シルバーゲート銀行は資金流出に対応して、すでに含み損がでている債券の売却を急ぎ、損失が発生した。
中核的自己資本(ティア1)ベースの自己資本比率は、2022年末時点で5.12%と規制が求める「5%以上」に迫っていた。
23年に入ってからも債券売却損は生じ規制水準を満たさなくなった可能性があるとして、3月1日には「継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)」への影響を吟味するため年次報告書の提出延期を発表していた。
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2023/03/13の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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