日本の大幅賃上げは大幅物価上昇につながる
米国と違って日本では賃金インフレの懸念はないのか?
米雇用統計によれば11月の失業率は3.7%と前月比横ばいとなり、時給は前月比0.6%、前年比5.1%上昇と加速した。消費者物価の前年比は賃金の前年比を上回り、実質賃金は前年割れの状態だ。
ただ、労働需給逼迫による賃金上昇がなお物価を押し上げる可能性があり、賃金上昇、物価上昇の悪循環の懸念は払しょくできていない。
FRBは賃金上昇に対する警戒を続けている。これに対して、日本はどうか。日本でも物価上昇率は加速しつつあり、賃金の増加率を上回り始めた。
米国同様、実質賃金が減少するなかにあって、賃金増加への警戒感を強める米国とは正反対に、インフレによる賃金の目減りを補うインフレ手当を支給する企業が増え、政府、日銀をはじめ、労働組合や経済界からも景気回復のために今春闘での大幅賃上げが必要との大合唱が起きている。
米国では賃金インフレの懸念が大きく、日本では賃金インフレの懸念がない、という理屈だろうが、本当にそうだろうか。
2010年代後半以降、日本では生産性に比べ賃金が増加していた
2010年代後半以降の実質賃金と労働生産性の動きを比べてみると、おもしろいことが分かる。
日本の賃金は低迷しており、それが「失われた30年の原因」といわれることが多いが、実質賃金は2010年代後半以降、意外に増加していた。
標準的な経済理論によれば、企業は実質賃金を労働の限界生産性に一致するように雇用量を決めることで利潤を最大化することができ、このため、実質賃金は労働生産性に等しくなると考えられる。
名目GDP × 労働分配率 = 雇用者報 であり、これは、
( 実質GDP × 物価 )× 労働分配率 = 労働投入量 × 名目賃金
( 実質GDP ÷ 労働投入量 )× 労働分配率 = 名目賃金 ÷ 物価
労働生産性 × 労働分配率 = 実質賃金
と書き替えることができる。
つまり、労働分配率が一定であれば、労働生産性の動きは実質賃金に一致する。実際の両者の関係はどうだったか。
一人時間当たり実質雇用者報酬を実質賃金とし、一人時間当たり実質GDPを労働生産性として、それぞれ2015=100としたうえで、両者の動きを比較したのが図1だ。
これをみると、2000年代前半頃までは、労働生産性と実質賃金はほとんど並行して増加していた。その後、労働生産性は2005年頃をピークに頭打ちになり、2010年代後半以降もほとんど伸びない状態が続いた。
これに対して、実質賃金は2005年から2010年代前半にかけて減少したが、2010年代後半以降は、緩やかに増加していた。2015年1~9月から直近22年1~9月までの7年間の労働生産性の増加率は年率0.2%とほぼゼロだった。
これに対して実質賃金の増加率は年率1.3%と低水準ながら労働生産性の伸びを1ポイント以上上回って増加している。
特に、コロナショック前の2015~19年の4年間についてみると、労働生産性の伸びが年率0.4%だったのに対し、実質賃金の増加率は同1.9%とかなり高かった。
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2022/12/06の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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