原油価格の変動がサウジに与える影響
石油輸出国機構(OPEC)の加盟国と非加盟国で構成される「OPECプラス」は10月5日、11月以降の生産目標を8月比で日量200万バレル削減することで合意し、原油価格の下落を阻止する姿勢を示したことで、原油価格は上昇した。
しかし、このOPECプラスの生産調整は、次の3点からあまり効果がないのではと評価された。
第1に、示された200万バレルの減産は生産目標量であり、実際の生産削減量は100万バレル程度だとサウジのアブトゥル・アジーズ石油相が述べていること(ゴールドマン・サックスは40~60万バレルと分析)。
第2に、中国のエネルギー需要減退や米国の金利上昇に伴う景気後退の重しがあること。
第3に、中間選挙を前にした米国のバイデン政権が、石油戦略備蓄(SPR)を放出するなど原油価格の抑制政策を明確に示したこと。
確かに、原油価格は11月中旬以降、下方傾向にあり、12月2日16時59分時点の米国の先物市場で、WTIは1月物が1バレルあたり80.34ドルをつけている。
以下では、こうした原油価格の下方が、サウジのムハンマド皇太子が中心となり進めている同国の経済開発事業にどのような影響を与えるかについて検討し、サウジの政治・社会の安定性について考える一助としたい。
ムハンマド皇太子の父親サルマン国王は、12月31日で87歳となる。
同皇太子がこの経済政策で実績を上げることができれば、平穏裡に王位継承を迎えることができるだろう。
原油価格に影響を与える新たな要因
EUは12月5日、ロシア産原油の禁輸を開始する。
これを前に、12月2日、価格高騰を防ぐ狙いで、ロシア産原油の輸入価格の上限を60ドルに設定することが合意され、EUに加え、米国、オーストラリアも協調政策をとることになった。
上限価格は、政策効果を2カ月ごとに確認し、見直すことも合意されている。ただし、この合意に至るまでの協議は難航した。
ロシアの戦費調達を低く抑えることを強く望むポーランド、リトアニア、エストニアは、1バレルあたり30ドルを主張し、他のEU諸国は65~70ドル程度を目安といていたからである。
この経済措置の具体的な実施においては、保険会社が上限価格を超える海上輸送取引の保険を認めないことを義務付けるという方法がとられることになる。
このため、ロシアとの石油取引のうち、陸上輸送、無保険の海上輸送、EU、米国、オーストラリア以外の保険会社を利用した輸送は継続される。
そのことにより、割安のロシア産原油が市場に出るとみられている。ロシア産原油に対する新たなEUなどによる措置のほかにも、原油価格の変動要因がある。
第2の要因としては、世界経済の減速感の緩みが挙げられる。
米国の金利引き上げ率の軟化や、中国の新型コロナウイルス政策見直しの兆しが見えている。
とりわけ、11月26日に中国の国内外で起きた民衆の抗議活動(「白紙革命」とも呼ばれている)は、民主化につながる可能性は低いものの、交通規制の緩和やショッピングモールの再開などが進められている。
中国の経済回復に光が差しはじめており、原油価格にも影響が及ぶと考えられる。ただし、ゼロコロナ政策の全面解除はまだ先とみられている。
第3は、米国のエネルギー事情である。
バイデン政権が発表したSPRの放出は今年5月から開始されているが、遅れ気味であり、12月をもってようやく予定していた1億8000万バレルの放出が完了する。
現在までに、2023年のSPRの放出についての言及はない。
その一方、米国内の石油・天然ガスの掘削リグの稼働数は2カ月連続で増加し、11月の時点の総稼働数は石油掘削リグが627基、天然ガス掘削リグが155基であり、2020年3月以来の高水準になっている。
以上の点を踏まえ、原油が景気変動の影響を受けやすい商品であることを勘案すれば、原油価格上昇の基調をつくることは容易ではないと考えられる。
仮に、現在の基調が上昇傾向へと変化するとすれば、供給サイドでの大きな政策変更や、供給障害事態の発生が想定されるが、その蓋然性は低いだろう。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
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(この記事は 2022年12月4日に書かれたものです)