相次ぐテーパリングや利上げ 通貨高に直結するのか?
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相次ぐテーパリングや利上げ 通貨高に直結するのか?
竹内のりひろ×松島修
2021年 下半期主要通貨の騰落
こちらは今年の下半期(上半期の最終営業日6月30日ニューヨーククローズから今日現在まで)の主要通貨の対ドルでの騰落です。
上昇通貨は3通貨で上位からNZドル、カナダドル、スイスフランとなっています。この中ではNZドルの上昇幅が突出していて、2.65%。
下落通貨が4通貨で、突出しているのが円3.05%、ユーロ1.78%と大きくなっています。
上昇通貨に共通するのはコロナ後の金融緩和からの出口が見えてきたこと、特にニュージーランドの場合は1回利上げを行っているので、金融緩和からの出口が完全に見えています。
下落通貨の円とユーロに共通するのは、上昇通貨と全く対局で、金融緩和からの出口が見えていないこと、相変わらず日銀の黒田総裁は躊躇なく金融緩和をやると言っているので、金融政策の方向性が真逆です。
このように通貨が売られ始めているところに、さらに追い打ちをかけるのがエネルギー価格の上昇と原油価格の上昇です。
円が一人負けですが下落の最下位ということはその他の通貨に対して全てパフォーマンスで劣っているので、クロス円が上昇していて円が独歩安です。
ユーロも下落していますが、ユーロに対しても負けているので、ユーロ円も買われています。クロス円を買うというオペレーションであれば、どの通貨を対円で買ってもここまでは収益が出てると分かりやすい相場です。為替のトレーディングをする上で、特にこの1ヶ月は非常にやりやすいので、こういう時にしっかりと利益をとっていくことが非常に重要です。
円売りのポジションを持っていれば、ほぼすべての人が儲かっているという楽な相場ですが、円売りをしているということは一方で円買いをしている人がいます。為替はゼロサムゲームなので、そうした人たちは損失を被っています。市場で起こっていることをしっかり把握しておかないと、あっという間に転落してしまうので気を引き締めていかないといけません。
為替はわかりやすい一方で、株は岸田総裁がキャピタルゲイン増税を導入すると言ってから8日続落。その後は、急反発して2000円以上戻していますから非常に難しい局面だったと思います。
多くの通貨に対してクロス円は年初来高値を更新しているので、流れとしては強いです。円が一人負け、金融緩和の出口が見えてきたニュージーランドドルが上昇上位ですから、ここで分かってくるのは通貨が完全に二極化してるということです。
ここで起こっているのは将来の利上げの織り込みです。カナダも利上げは実施していませんが、利上げを織り込んで短期金利が上がってきています。
原油価格の上昇が与える影響
ここでメインドライバーとなっているのがWTI原油先物価格です。コロナ後、昨年の4月にはマイナスまで落ち込みましたが、83ドル台まで回復してきました。
北半球の冬場に向けて需要が急加速。そして、人々が動き出すことで航空需要も戻ってきました。OPECプラスも増産に舵を切っていますが、それでもやはり足りていません。
米系の金融機関は100ドルという予想を立てているので、こうなってくるとインフレが見えてきて、通貨の動向に影響を及ぼしています。通常、物価が上昇すると物価の押し上げになりインフレになります。
インフレになると通貨は売られる?買われる?
実質金利=名目金利-予想物価上昇率 です。
名目金利は、見た目の金利ですから、銀行の預金金利や長期金利となります。長期金利は10年債の金利が市場取引の中心と言いますが、これは市場で発行額が多く流通量が多いので基準となるのです。
この名目金利から、予想物価上昇率を引いたものが実質金利となります。
物価の上昇が大きくなっても、名目金利が変わらないと、実質金利はどんどん小さくなっていきます。例えば予想物価上昇率が上昇、つまりインフレが加速をしてきた場合、名目金利を上げないと実質金利が小さくなります。実質金利がマイナスになると、銀行などでお金を預けておくと目減りしていくということです。
2000年代はオセアニア通貨である、ニュージーランドドルは8%以上、豪ドルはが7%以上の金利ありました。これは高金利通貨という称号を与えられていて、為替市場ではイールドハンティングといって金利が選好されるので、安い通貨の円を売って、オセアニア通貨を運用するようなことができました。
金利スワップを稼いだり、金利が高い通貨の方に人々は向いていくわけです。反対に実質金利が低下すると通貨の魅力の減退につながっていきます。そもそも物価が上昇するということは同じお金で買えるものの量が少なくなるということなので、これは購買力の低下からその通貨の下落要因でしかありません。
ところが今、インフレが迫っている国の通貨であるニュージーランドドル、カナダドルが買われ始めています。
なぜインフレになる通貨が買われる?
物価が上がってくると、中央銀行は利上げやテーパリング(量的緩和の縮小)を始めることになるので、利上げを織り込んで名目金利が上昇をしていきます。
ですから、予想物価上昇率が変わらない中で名目金利が上昇してくると、これは実質金利が上昇しているということになります。
そして実質金利が上昇して、世界中の投資家が金利の高い通貨を買い漁る「イールドハンティング」という動きが今起こっていて、ニュージーランドドル、カナダドルが買われています。
カナダ2年国債金利
政策金利の動向を反映するカナダの2年国債金利は、コロナの打撃で落ち込み初めて0付近まで低下しましたが、1月からは経済が回復、4月に入ってテーパリングを発表すると金利が上がりました。この先の経済の回復を織り込んでくると価格が上昇するという構図です。
トルコの実質金利
トルコはこの2年半の間に、エルドアン大統領が中央銀行総裁3人を解任。来年大統領選があり経済を浮かせたいと考えてるのですが、高金利にしておくから高い物価上昇を招くという経済学の理論からは考えられないことを主張しています。
トルコも原油を輸入しなければならない国ですが、インフレが加速してきてそうした国で利下げを行ってるのです。トルコの物価上昇率は19.6%とすごいので実質金利はマイナスになると思います。
トルコリラ円チャート(月足)
トルコリラの月足チャートです。このチャートは2000年までしかありませんが、この5年前1995年はなんと2000円でした。
25年間をみると65分の1、20年をみても13分の1になっています。日々、五月雨的にトルコリラの売りが出て、下がる一方であったことはわかります。
スワップ金利がもらえるからラッキー嬉しいと思われるでしょうけど違います。なぜかというと実質金利がマイナスなので、長い期間で考えると為替のレートで調整されるのです。
為替の長期的な水準を決めるのは、やはり金利と需給だけでしょう。
日本は資源がないので輸入するしかありません。すると、原油価格の上昇から輸入物価も上昇。ガソリン価格も上昇すると物価も上昇することになり、日銀が金融政策を変えないと、名目金利から予想物価上昇率を引いたときに予想物価上昇率の数字が大きくなり実質金利は低下するのです。
トルコと同じことが起こって、結果的に資源国通貨に起こっていることとは真逆で円売りドル買いとなります。
為替取引をしていてこのように分かりやすい局面はあまりないのですが、ここ1ヶ月は為替の動きをファンダメンタルズから説明して一番分かりやすく説明できるという局面です。
為替を生業にしている専業トレーダーも、兼業トレーダーもこうした易しい局面でしっかり利益を取っていきたいところです。
米国の利上げ局面で通貨高は続くか?
リーマンショック後の金融正常化の中の利上げ局面です。
2015年12月に1回目の利上げをして、最終2018年の12月まで0.25%の利上げを9回行いました。その後のドル円の動きを、当日の終値から翌月の終値まで見ると9回の中で上昇していたのが3回。さらにその中で翌々月までみると更に少ない2回しかありません。
3年後にこの局面、最後の利上げが行われた時、2018年の12月の終値が111.47円ですから、この間の利上げ局面を通じてドル円は下がっていたということになります。
いまの動きは、将来の利上げを先取りしている動きです。ですから、先取りした分、利上げが行われた時には下がっているという状況です。織り込み済みで材料出が出尽くしたことを、金融市場では「Buy the Rumor, Sell the Fact」と言いますが、この動きに限りなく近く、今の動きはしばらく続くと思います。
裏で何が起こっているかを把握してトレードを行うことが大事
金融リテラシーを学ぶという点で、テクニカル分析に頼るだけでなく、何かひとつ追加のエッセンスが欲しいところです。このように学んでいくと、裏でなにが起こっているか把握できるようになります。
為替や株を取引するうえで、ファンダメンタルズをないがしろにできないというのは、こういうところに現れてくると思います。
伝わってくる情報を鵜吞みにせず、裏で何が起こっているのかを把握して、本物を見る力をつけていきましょう。