スタグフレーションの様相を強める米国経済
雇用増の実勢からみた成長率は3.7%程度
8日に発表された米雇用統計によれば、9月の非農業雇用者数は19.4万人増と前月の36.6万人増に比べ増加幅は縮小した。
9月初めにバイデン政権による失業保険給付の上乗せ措置がなくなっており、失業保険目当てで失業者となっていた人々が働き始め、9月の雇用は大幅に増加すると予想されていた。
だが、実際には、50万人増程度の事前予想に比べ小幅な増加にとどまり、雇用回復が思ったほど進んでいないことを示した。
一方、失業率は4.8%と前月の5.2%からかなり低下し、労働市場の逼迫を示した。9月FOMCの予想では今年10~12月の失業率について4.8%という数字を予想しており、いきなりこの予想数値が達成されたことになる。ちぐはぐな統計内容については、若干の説明が必要な部分がある。
まず、雇用者数の増加幅縮小については、政府部門の雇用が少なかったことが影響した。地方政府の教育関連の雇用者数が例年に比べ少なかったため、政府部門の雇用は季節調整後の前月比で12.3万人減少した。
民間の雇用増は8月33.2万人増、9月31.7万人増でほとんど変わっていない。求人数は相変わらず高水準で労働力に対する需要は旺盛だが、求人に応じられる労働力はおそらく月32~33万人程度の増加にとどまっていると考えられる。
雇用増加の実勢は月32~33万人程度なのだろう。雇用者数の月32.5万人の増加は年率に換算すれば2.7%増となる。過去10年間の米国の労働生産性(実質GDP÷雇用者数)の上昇率は1%程度であるため、雇用者数の月32.5万人は実質GDPの成長率で言えば、3.7%(=2.7%+1%)に相当する。
ブルームバーグによれば直近のエコノミストによる成長率予想は7~9月が年率4.8%、10~12月が5.1%で、FOMCによる予想(21年5.9%)から計算される今年下期の成長率予想は年率5.3%だ。
こうした予想に比べると、8~9月の雇用者数の伸びが低めであったことは否定しようがない。7~9月以降の米国の経済成長率の予想は下方修正されることになろう。
もう一つの問題は、雇用が伸び悩んだにもかかわらず失業率が急低下したことだが、これには統計の違いがある。
非農業雇用者数のベースになっている事業所調査に比べ、より精度の低い統計である家計調査では、この2か月間、就業者数の増加が非農業雇用者数の増加を上回った。
非農業雇用者数の増加は8月36.6万人、9月19.4万人だったが、家計調査による就業者数の増加は8月50.9万人、9月52.6万人と大幅に伸びた。
このため、非農業雇用者数は伸び悩んだが、失業率の低下は意外に大幅だった。ただ長期的には両者の動きは収れんしていくはずだ。
来年の早い時期に完全雇用状況が実現する見通し
そうした細かい注釈はつける必要はあるにせよ、労働市場の供給制約は変わっておらず、労働力不足のなかで、賃金の上昇も続いている(図1参照)。
9月は娯楽・宿泊業の賃金の伸びがやや鈍化したが、小売業やヘルスケアの賃金が上昇した(それぞれ前月比0.7%上昇、1.5%上昇)。また、感染状況にさほど左右されないはずの製造業も前月比0.5%上昇(年率換算で6.2%上昇)している。
労働供給を抑えている要因は、失業保険給付上乗せ措置だけではなく、感染を恐れて働くのをやめた人が多いことがある。
感染などに対する懸念から職場復帰をためらっている人、あるいは子どもの保育施設の閉鎖などによって就業できなくなっている人の増加が労働供給を抑制している。感染懸念などから復職できないあるいは復職をためらっている人々の動きは非労働力人口の増加として現れている。
2021/10/11の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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