パウエルFRB議長がタカ派に?
パウエル議長のスタンスがいつのまにか物価重視に
デルタ株の感染拡大や供給制約によって、米国経済の拡大テンポが鈍化し、一方で、物価上昇が続くなか、9月21~22日のFOMCでは、思っていた以上にFOMCメンバーがタカ派に変わっていることがわかった。
FOMCメンバーの景気・物価見通し(第4四半期比、中間値)をみると、2021年の成長率は5.9%と6月時点の予想である7.0%から下方修正され、コアPCEデフレータは3.0%から3.7%に上方修正された。
ただ、成長率見通しに関して言えば、下方修正されたものの依然として高い数字だ。
テーパリングや利上げなど金融政策の正常化は、成長率の下方修正は気にせず、どちらかと言えば物価を重視する形で、進められる方向が示された。
FOMC声明では「経済の改善がおおむね予想通りに進めば、資産購入のペースを早急に緩和する必要があると判断する」とし、テーパリングは、事前予想通り次回11月のFOMCで決定されるだろうとの認識が示された。
また、FOMC後の記者会見で、パウエルFRB議長は、「適切なテーパリングのペースについても議論した。まだ何の決定も下していないが、参加者は概して回復が軌道に乗る限り、来年の中ごろに終える緩やかなテーパリングが適切であろうとの見方を示した」と述べた。
パウエル議長は、テーパリングに向けた経済状況、テーパリングの判断のための基準とされた「さらなる著しい進展」があるのかどうか、についての記者の質問に対し、以下のように述べた。
「物価は目標を上回る水準に上昇しており、基準は満たされたと判断している。問題は完全雇用だが、目標の50~60%程度まで到達したといえる。多くのFOMC参加者が雇用はかなり進展したとみているが、もう少し進展がみたいという者もいる。私自身は目標達成間近だとみている」
「物価と雇用の両方の目標を達成したと我々が判断したら、テーパリングを始める。決定する時期は早ければ次の会合になるかもしれない。経済が想定通りに回復して適切と判断すれば、次回の会合で容易に前進できるだろう。多くの参加者は既に『さらなる著しい進展』が満たされていると感じており、私自身もほとんど満たされていると考えている。個人的には非常に力強い雇用統計を確認する必要はないと思う」
「22年半ばまでにはテーパリングを終えるのが適当という点では参加者の幅広い支持を得た」
テーパリング実施の基準は満たされているため、雇用統計がさほど強い数字でなくとも、11月にテーパリングを決定し、22年半ばまでにテーパリングを終了する、というのが、もはや既定路線になっているような発言だ。
パウエル議長はつい最近まで、人種間の失業率の差などに注視べきとし、雇用を重視するハト派として知られてきた。ところが、今回の記者会見でのが発言をみると、いつのまにか雇用重視から物価重視にスタンスが変わっているようにみえる。
パウエル議長はもともと弁護士だ。前FRB議長(現在財務長官)のイエレン氏は労働経済が専門で、労働市場のスラック(余剰)を理由に利上げペースを緩やかにしたが、パウエル議長はエコノミストのように経済理論についてのこだわりはない。
最近の世論調査で、物価の値上がりに対する世論の反発が強まっていることなどを背景とする宗旨替えがあったとしても不思議ではない。