ECBのテーパリングはどうなる?欧州の金融政策の行方
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ECBのテーパリングはどうなる?欧州の金融政策の行方
ECB(欧州中央銀行)金融政策理事会の注意点
9月9日の ECB(欧州中央銀行)金融政策理事会の注意点を挙げています。
PEPP(Pandemic emergency purchase programme)とはパンデミック緊急購入プログラムのことで、国債を購入してマーケットに資金を供給することにより、皆さん潤滑に動いてくださいねというものです。パンデミックでエマージェンシーという名前がついている通り、時限措置です。
PEPPは2022年3月頃に終わる予定で進んでいますが、ECBは今年に入って第1四半期つまり1~3月期はだいたい平均で月額600億ユーロの国債を購入していました。
第2四半期に入る前に、ECBのラガルド総裁が前倒しでこれから多く買うということで、最終的に第2四半期、第3四半期は平均月額800億ユーロまで増やしました。
どうして増やしたのかというと景気の回復がいまひとつでロックダウンがずっと続いていたということと、ヨーロッパは英国よりもワクチン接種率がかなり遅かったのでもう一度ここで経済に何かカンフル剤を打たなければいけないということで月額を増やしました。
第2四半期、第3四半期ときて、10月から第4四半期に入りますが、今の予定で行くと来年の3月には終わります。
もうそろそろ月額800億ユーロは必要ないのではと、タカ派の理事が2ヶ月前からずっと言っています。ここで言うタカ派というのは割と強気な人達で、金融緩和にはあまり積極的でない金融引き締めの方向を好む方たちです。
ハト派はそのまったく逆で、金融緩和の長期化を支持するような人たちです。
800 億ユーロをずっと購入していて、なぜ今9月に特にPEPPに問題が起きるのかというと、まずヨーロッパの景気が回復してきたことです。PMI(購買担当者景気指数)などの数字を見ると、ものすごく回復してきています。
あとはワクチンの接種率が最終的に60%まで高まってきたので、他国と引けはとらないこと。
そして一番はインフレ率が3%になってしまっていることです。ECB は7月8日に対照的インフレ目標を導入して、2%の目標でも上もあれば下もありますみたいな感じなので、3%にいったからすぐ利上げというわけではありません。
ただ、もう数ヶ月続けて2%を超えているにも関わらず、一体どこがエマージェンシーで緊急なのか分からないというタカ派の議論は確かにそうだなと思います。
特に10月以降はハト派の人の議論としては、もう一度ロックダウンするかもしれないという転ばぬ先の杖の意見が出るかもしれません。
現時点では毎月毎月、平均800億ユーロを買う必要はないと思っていて、その部分をまたECBラガルド総裁が押し切って、やっぱり800億ユーロですと持って行ってしまうかもしれません。私も、もしかしたらそちらになるような気もします。
その時にロックダウンになるかもしれないという理由をつけるのか、全然違う理由をつけるのかは置いておいて、第4四半期もイケイケで800億ユーロ行きますと言った場合に、タカ派の理事はどの時点で文句をつけてくるか。最近は翌日とか当日にヘッドラインがでます。
理事会だけでなくそれが終わった後の理事たちの主要要人発言で、タカ派の理事が発言するのはほとんど決まっていますが、だいたい常連さんがドイツ、オランダ、オーストリア、最近はそこにベルギーも加わっています。
もし、これ以外の理事が新たに発言するようであれば、理事会で相当揉めたということが分かるので、そこは注意点だと思います。それによってユーロが買われたり売られたりするので、理事会が終わったからよかった、もうこれでゆっくりお茶でも飲もうということにはならないと思います。
今まではなんとなくドル安でユーロが買われていたように見えますが、昨日から米国の長期金利は1.37%の8月高値がきてしまっているので、ドル円が下がらないのです。
1.38%抜けました、この後また1.40、1.50%という道が見えたら多分ドル買いに行くでしょう。そうなるとユーロドルは頭が重くなるという、アメリカの長期金利に振り回されているという感じがします。
ECB金融政策内容まとめ
本来のテーパリングとは10を8にして、8を5にしてと縮小していくことなので、今回PEPPを800億ユーロから元の600億ユーロに戻すとなった場合、これは決してテーパリングと言わないと思います。
ただ、縮小したという部分にマーケットが噛み付くので、おそらくテーパリングと受け止められると思います。
ここで要注意なのが、例えばPEPPで200億ユーロ減らした時に、オリジナルのQE 政策であるAPP(資産購入プログラム)です。
ここで問題があってPEPPは緊急なので買いたいだけ買ってよいのですが、APPに関しては財政ファイナンスなので、現在発行残高の33%以上は買えませんというのが決まっています。
33%以上にAPPの額を増やすためには、財政ファイナンスなので、欧州憲法裁やドイツの大学教授のような方が訴訟を起こすので揉めに揉めると思います。
33%でもみんな歯を食いしばって我慢しているのに、37%とかでも天地がひっくり返るほどドイツは騒ぐと思うので難しいです。
今までの発言を聞いていると、私がもし理事だったら意外とタカ派なのかなと思うことがあります。ハト派の人の意見を聞いていると、何のための中央銀行なのか、単なる債務の引受場所みたいになってしまうので、やはり私は一線を画さないといけないような気はしています。
たとえばイギリスがイギリスの国債を買うだけならよいのですが、ヨーロッパで19の有象無象の国のものを買うので、リスキーな国、イタリアなどは今はECBが買ってくれているので助かっています。
イタリアの債務残高はドイツのGDPよりも大きいので、こけたら助けられなくてアウトだと思います。どこかで無理というところがあると思うのですが、ギリギリがこの33%のような気がしていて、それ以上は死活問題になります。
ヨーロッパのトレーダーでユーロを取引する方は、ドイツとイタリアの10年金利差利回りをみんな見ています。それが拡大するということは確実にイタリアの金利が上がって拡大していきます。そうするとユーロ売りになるので気を付けた方がよいと思います。
タカ派理事 怒りの鉄拳
ここから、怒りの鉄剣と書きましたが、ECBドラギ総裁の時は、かなり独断的なハト派の方だったので理事会で決めてないことを平気で決めて揉めていたらしいのですが、彼はすごく著名なエコノミストということで一応理事の方からは一目置いてかれていました。
ラガルド総裁になってからは、単なる政治家なので、ラガルド総裁が話している最中にタカ派のヘッドラインが出てくるようになりました。前回7月22日の理事会の時でもラガルドさんが話し終わって1時間後に、ベルギーの総裁が「ちょっと待って、僕は賛成していませんよ。」とはっきり言ってしまいました。
ドイツとしては今回の800億ユーロを第3四半期も続けることに合意していないのに ECB が決めたというところに引っかかっています。今回、バイトマンさんが何も仰らなくてもこういう援護射撃がドイツの各紙から出てくる可能性があるので、誰がどのタイミングで言うのかと見るのも面白いと思います。
オーストリアのホルツマンさんは前回の総裁も、今回も空気を読まずに言いたい放題で理事会の内容を話してくださるので、私達のような外野にしては非常に助かります。ホルツマンさんは緩和の解除をすべきだと呪文のように唱えていました。
ノットさんは元祖タカ派で、この人の前に誰も通れないぐらいのタカ派です。今はホルツマンさん、オットマンさんが一番のタカ派で、そこから少し下がってバイトマンさん、そこから少し下がってベルギーのウンシェさんという感じです。
もし今回の9月の理事会が何も無く終わっても、また次の理事会10月28日に揉めると思いますので目が離せません。
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ECB理事会を終えて 緊急措置であるPEPPを継続する意味
https://real-int.jp/articles/947/