欧州経済にもブレーキがかかる
7月以降、ドイツを中心に景況感が悪化したが、理由はデルタ株問題だけではない
ワクチン接種の普及による経済活動の再開で、ユーロ圏経済は今年4~6月以降、急回復した。
昨年10~12月から今年4~6月にかけての実質GDP前期比成長率の動きを米国と比較すると、米国が1.1%→1.5%→1.6%だったのに対し、ユーロ圏はマイナス0.6%→マイナス0.3%→プラス2.0%となった。
今年1~3月まで、ユーロ圏経済は米国に対して完全に出遅れていたが、4~6月は米国の成長率を上回った。ただ、この高成長にブレーキがかかり始めている。ブレーキをかけたのは、デルタ株と供給制約だ。
欧州委員会が発表するユーロ圏景況指数は、8月に117.5と前月の119.0から下落した(図1参照)。
下落は今年1月以来、7か月ぶりのこと。うち、おそらくデルタ株の影響で、サービス景況感が7月18.9から8月16.8に低下した。
だが、景況感悪化はサービス業だけでない。鉱工業景況感も7月14.5から8月13.7と低下した。
ユーロ圏経済をリードするドイツでは、その一か月前に景気減速の兆しがみられた。ドイツのIFO景況感指数は6月の101.8から7月100.7、8月99.4と2か月連続で低下した。
業種別にみた6、7、8月の景況感は、製造業が22.5→20.1→17.3、サービス業が22.5→20.1→17.3、卸小売業が17.9→15.8→9.0と、やはり景況感の悪化はサービス業だけでなく、全般的なものとなっている。
「供給制約」問題が製造業の景気にブレーキをかけ始めている
製造業の景気が停滞し始めたのは供給制約によるものと考えられる。
図2はユーロ圏の製造業受注と製造業生産の動きを示したもの。製造業受注と製造業生産の動きは昨年までほとんど連動していた。
しかし、今年に入り、受注が増加傾向を続けるにもかかわらず、生産は横ばいか、どちらかと言えばやや下向きに推移している。
業種別にみると、今年に入ってとりわけ生産が下向きに転じたのが自動車・同部品産業だ。昨年11月(92.3)をピークに今年6月は76.9と7か月間で、自動車・同部品産業の生産は17%減少した。
このほか、今年4月頃をピークに化学、機械、金属などの産業の生産が伸び悩み始めている。
受注が増加傾向を辿っていることは「需要」に問題がないことを示す。受注増加にもかかわらず、生産が増えていないのは、何らかの「供給」面の問題が起きていることを示している。
半導体不足の影響が自動車産業に陰を落とし始めたのは、ちょうど今年初め頃のことだった。その後、半導体不足など供給制約の問題が多くの製造業種に悪影響を及ぼし始めていることがわかる。
年前半のユーロ圏の製造業の景況感は、受注の増加に示される需要の拡大を背景に上向き傾向を続けていた。
しかし、供給面での問題により受注分の生産ができない状態が続いていることで、製造業の景況感も下向き始めたのであろう。
インフレ率が加速へ
一方、インフレ率は加速している。8月のユーロ圏の消費者物価上昇率は前年比3.0%と6月同1.9%、7月2.2%から加速している(図3参照)。