GOLDは米利上げで上昇開始?!コモディティ市場、中国の存在感
大橋ひろこさんに、解説いただいた内容を記事にしましたのでご覧ください。
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FF金利とGOLD価格変遷
FF金利とドル建てGOLD 1970年~1985年
1970年~1985年のチャートです。
アメリカの金利FFレート(政策金利)が下の段の白い山で、これが上がっているところは利上げしているときです。その下はCPI(消費者物価指数)でインフレを示す指標です。
アメリカの政策金利がなぜ引き上げられるのかというと、CPIが上がると、金利も上げざるを得ないという流れで、過去推移してきたことが分かると思います。
利上げすると金は下がると思っている方が多いのですが、決してそんなことはなく、同じように上がっているので、利上げとインフレと共に金は上がるということが確認いただけると思います。もう少し直近のチャートを見ていきましょう。
FF金利とドル建てGOLD 2002年~2021年
2002年~2021年のチャートです。
2004年ぐらいから金利が上がっていて、利上げの時に金は上がっています。ここで面白いのが、そのあと利下げした時でも金が上がっているということです。
では、金が下がった時に何があったかというと、バーナンキショックとテーパリングの開始あたりです。テーパリングをやるという時に金はどーんと下がりました。
これが再び近づいているので警戒が必要なのですが、利上げしても利下げしても金は上がっていて、再び利上げをした2016年以降も金価格は上がっています。
ではなぜ利上げしても、利下げしても金が上がるようになったのでしょうか。
GOLDとマネーストック(通貨供給量)
下の段、ピンク色の山のマネーストック(通貨の供給量)が伸びているのがお分かりいただけると思います。金は物の価格で、お金がいっぱい配られると物価が上がるという関係ですので、お金が配られることに反応するようになってきているといえます。
テーパリングは、追加の緩和の量を少しずつ減らしますということなので、緩和量が減るということに反応して、金は下がったと考えることができます。
変動相場制スタート時点ではわずか35ドル
今回はアフガン情勢でガラッと変わり、歴史の転換点になるのではという印象がありますが、50年前にも歴史の転換点がありました。
変動相場制がスタートしたことです。ニクソンショックと呼ばれています。
変動相場制が始まる前(この縦線の前)は、1オンス35ドルで、ドルと金を交換できるというルールの固定相場制でした。
ドルと円が固定されているので、すべて結局は金に紐づいていたことになりますが、ニクソンショックでこの交換を止めるという話をしたところから、為替ディーラーなど、あらゆるトレードをする職業が誕生するわけです。
ここから金価格も動き出しました。ちょうど今年の8月15日で50年。金価格35ドルから現在の1800ドルまで50倍になったのです。
下のピンク色のところ見ると、ずっとドルの供給量は増えて、一番直近は垂直に増えています。これはコロナショックで、これだけばら撒かないと経済回復できなかったということです。
これだけ急角度にドルの供給量が増えているのに、金価格は足元でそんなに上がっておらず、まだ反応していないように見えます。
なぜかというと、前回テーパリングの時に、ものすごく金価格が下がったバーナンキショックというのがありましたが、テーパリングがコロナから1年で騒がれるようになったので、それを警戒して金価格が上に行けないだけのように思えます。
しかし、テーパリングが終わって、今度は景気が良くなり利上げのサイクルに入ると、過去の事例から金は上がる時代に入っていますので、この通貨供給量からみると金がここに留まっているのが不思議なぐらいです。
今はレンジの中で下がったところを、コツコツと買っていくと面白いのではないかと思っています。
鉄鉱石、原油、プラチナと通貨との相関
テーパリング、利上げと「鉄鉱石:豪ドル」
コモディティは金だけではありません。景気に左右される商品の価格があります。その商品と通貨の関係、そしてテーパリングと利上げの関係を見ていきましょう。
まずは鉄鉱石が上がっているということで、今年前半かなり話題になりました。鉄鉱石を一番生産して輸出しているのがオーストラリアですので、豪ドルを相関したチャートになっています。
過去、きれいに相関してきましたが、足元で鉄鉱石の上昇の割に豪ドルが上がっていないのはコロナの影響があると思います。鉄鉱石が上がるのもコロナのせいでというのがあるので、いまのコロナ禍では過去の相関を崩すような凄いことが起こっているというのが分かります。
バーナンキショックのところを見ると鉄鉱石も豪ドルも下がっています。いまテーパリングが話題になっていることもあって、右側の黄色い縦線のところは6月のFOMCで早期利上げ観測、ドットが前倒しになったというので崩れ始めました。
6月のFOMC以降テーパリング、金融政策が意識され始めて、足元で下がっているので、その期間コモディティは上がらずに横ばいか、下げ気味になるのでないかと見ています。
下の山は利上げの時期ですが、景気が良いから利上げをするということで、鉄鉱石も底入れして利上げと共にジリジリと下値を切り上げていることが分かります。
ただし、これはアメリカの利上げなので、豪ドルはこの部分においては横ばいで、どちらかというとドル高、コモディティ高になった時期なのがうかがえます。
テーパリング、利上げと「原油:カナダドル」
続いては、King of Commodityの原油です。
長期で見るとカナダドルとは相関しているというのが分かります。
原油は景気に敏感なので、利上げと共に原油も上がってきているというのが一番左の山のところです。右側の小さい山でも、同じようなことが確認できます。
縦の黄色い線がテーパリング時期ですが、やはりテーパリング時期が一番弱いのが分かります。足元でもテーパリング、アメリカの金融政策の転換が意識され始めて、少し上値が重くなっています。
テーパリングが終わって次の利上げが始まるまでが軟調で、実は利上げが始まるぐらいにはコモディティもカナダドルも上がるかなとみています。
アメリカの利上げがあるとドルが上がると思っているかもしれないですが、ドルが上がるのは利上げを開始する前までで、利上げを開始したら材料出尽くしでドル高は終わってドル安になると考えたほうがよいと思います。
テーパリング、利上げと「プラチナ:南ア ランド」
プラチナは自動車触媒、主にディーゼルエンジン車の排ガスの汚いものを取るという役割をしています。プラチナが取れるのは、ほとんど南アフリカということで通貨ランドと本当に相関性が高いといえます。プラチナが上がればランドも上がると覚えていただければと思います。
今プラチナが下がってきている要因として、火を燃やして走るものは2030~2050年には世界的に販売停止になると言われているので少しネックですが、2030~2050年の間にも排ガス規制は厳しくなっていきます。それまでの間、自動車触媒はかなり使われるはずなので、あと10年ちょっとは強いと考えています。
テーパリングが終わってからもずっと下がっているのですが、 これはなぜかというと2015年の独フォルクスワーゲン社によるディーゼル排ガス不正問題です。排ガス規制のルールがあったのですが、排ガス規制を誤魔化していました。
ディーゼルエンジンはクリーンというイメージがあったのですが、大嘘だったので、ディーゼルエンジン車のブランドの失墜がかなりプラチナ価格にきいてきたということです。
今後、プラチナが上がるとランドは上がると思うのですが、テーパリング時期は厳しいかなともみえます。
自動車とコモディティ
トヨタショックとパラジウム
株式投資家の皆さんは、トヨタの減産のニュースにはびっくりしたと思います。トヨタショックという言い方もされました。
上がトヨタのチャートです。9月に4割減産ということでガクッと下がったのですが、年間の計画は変わらないということで足元で戻ってきています。
この時に、コモディティではパラジウムが一緒に下がりました。パラジウムはガソリン車の触媒需要として使われています。
トヨタはパラジウム市場にもこれだけの影響をもたらしました。自動車というのは車体、エンジンの触媒、タイヤはゴムとコモディティの塊です。
中国の自動車販売台数推移 2005~2020
中国が2009年に世界一の自動車販売数を誇ってから11年ずっと連続で世界一です。その中国でも2017年ぐらいから販売台数が鈍化しています。もう少し短期のグラフを見てみましょう。
中国の自動車販売台数推移 2020/9~2021/7
これは2020年9月から今年の7月までのもので、一旦戻りかけたのですが、この数ヶ月は販売が落ち込んでいます。これは中国の景気が良いか悪いかの、ひとつの指標になるのではないかと見ています。
中国の存在感と景気
コモディティ市場における中国の存在感
中国の存在感が、コモディティ市場にどれだけ影響を与えているかは、こちらを見ていただくとお分かりいただけると思います。
銅価格も相当上がってきて話題となっていますが、銅の世界消費のうちの50%は中国です。中国が上がると銅価格が上がるというようにも見えます。
世界の鉱物金属資源輸入額ランキングでも、第一位の中国の輸入量はすごいものがあり、中国が買わなくなると市況は下がります。
原油価格もコロナ禍からの回復で上がってきましたが、足元では頭打ちして下がってきています。原油市場で中国の輸入量はこれだけ大きいです。
日本もエネルギーがないので相当輸入していますが、中国の輸入量の大きさなダントツなので、中国景気がどうかというのは、原油、あらゆる鉱物資源、銅などものすごく影響が大きいと思っています。
中国の景気がコモディティ価格にも影響
中国の指標を占うという意味では、金融市場のマーケット関係者もみんな見ているのが、中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)です。PMIというのは製造業の購買担当者にアンケートをして回答から出てくる指数です。
50が分水嶺で、50を上回っていれば良い、50を下回っていると悪いということです。コロナ禍から回復して55ぐらいまで上がったのですが、足元で下がってきて、月は49.2になりました。
PMIはヨーロッパのPMIなどそれぞれにあって、みんな見ていますが、中国が一番先行して動くと言われています。そう考えると、世界の景気も大丈夫なのかという感じになってきています。
李克強指数も急反落
PMI以外に李克強指数(りこっきょうしすう)というのがあります。
中国のGDPの数字などが信用できるのかという話があり、また中国には沢山〇〇省というのがあり、そこで上がってきた数字を合算すると、とんでもない数字になるので、当たらないだろうというのは中国自身が分かっているわけです。
そこで李克強さんが嘘をつけない「電力消費量」「鉄道輸送量」「銀行融資」の指標から割り出したのが李克強指数と言われています。
この数字も足元を見ると急に下がっています。
テーパリング、利上げと「銅価格」
銅価格も、テーパリングの時期には一時的に下がるかもしれませんが、以下の要因からも長期的は強いコモディティだと思います。銅の生産はチリなどであるため、相関する通貨というのはありませんが、景気の先行指標としてみることは出来ます。
・EVはガソリン車の4倍の銅を使用
・太陽光、風力発電は化石燃料発電の5倍の銅を使用
・中国、今後10年間に風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーの生産能力を現在の3倍近くにまでに引上げる
・世界における精錬後の銅の消費量は20年の2340万トンから30年には3330万トンに増加
穀物上昇とテールリスク
穀物価格推移~21年アラブの春の頃の水準へ
付録として、穀物価格には気をつけろという話です。こちらは1980年代からの大豆、小麦、トウモロコシのチャートです。水準が一段上がっているという感じがします。
この背景には中国という国が大きくなったことと、バイオ燃料があります。
穀物価格は過去の推移を見ると安定して動いていました。安いと農家は苦しいので、高く売りたい、では高く売るためにはどうしたらよいのかということで、バイオエタノールという政策を導入して、ガソリンの中に穀物から作ったオイルを混ぜて、それを使いなさいと政策として決定しました。
環境配慮、気候配慮ということで、ガソリン中の10%は食物由来の油にしましょうというE10とか、E15という政策をアメリカが取り始めたのです。(今度は15%になる)
世界も同じ方向ですが、そういったこともあって穀物価格は水準が上がってしまっているという中で、近年は干ばつや洪水など気候変動問題もあります。
また、ASF(アフリカ豚熱)の蔓延も穀物価格に影響しています。中国ではASFの蔓延で、一旦豚を処分しました。養豚数が減ると飼料として使わなくなるので、マルで囲ったところで穀物が下がりました。
一旦処分した豚ですが、食卓には重要なので、また育て始めて需要が急激に回復したことで、食べ物の価格が上がるということが起こっています。
食べ物の価格が上がると何が問題かというと、「アラブの春」が起こった期間の水準に近づいているということです。アラブの春というのはチュニジアから始まっていますが、食料価格が上がるなどのインフレが民の心を荒ませて暴動のきっかけになっているとも解説されています。
食料品価格が上がると、貧しい国は可処分所得が減るのでかなり苦しくなり、暴動や革命が起きやすくなるので、穀物関係者はこのアラブの春をもの凄く意識して見ています。
ただ、今はテーパリングもありますし、他のファンダメンタルズが改善してきているということもあって、足元では穀物価格は少し下がってきています。このまま下がっていけば政変などの心配は無いのですが、高くなってくると不安定な国の政情不安リスクは高まります。
ただでさえ今はアフガンの問題があり、中央アジア、中東は不安定化している時に、どこかで革命が起こると世界が大混乱になりかねないので、その意味で穀物価格は大事です。