供給制約による半導体不足は今後も続く
半導体の需要は回復しているが、3年前の水準とほぼ同程度
半導体不足がなかなか解消されない。サスケハナ・フィナンシャル・グループの調査によると、半導体のリードタイム(発注から納品までにかかる時間)が7月に20.2週と前月から8日間余り延び、同社が統計を開始した2017年以降で最長となったようだ。
不足状況は一段と悪化している。また、8月19日にトヨタ自動車が半導体を含む部品不足を理由に大幅な生産調整を発表した。半導体メーカーは半導体需要に応ずるために、原材料の積み増しや設備投資増額による能力増強に乗り出している。
しかし、設備投資が生産能力を高めるには2~3年かかるとも言われ、半導体不足の状況がすぐに解消するわけではない。このため不足状況は今後も続く可能性が高い。
改めて半導体不足の原因を分析してみよう。まず、需要面の理由としては次のような点が指摘されている。短期的に半導体の需要増加をもたらした要因としては、新型コロナウィルスの感染拡大により、テレワークや在宅時間が増え、PCや家庭用ゲーム機などの販売が増加したことが挙げられる。
また、そうした動きに合わせ、サーバ増強の動きが強まったことも需要を増加させた。
一方、自動車業界では、感染拡大により一時、自動車の販売が減少していた。半導体メーカーは自動車向けの半導体生産を減らし、PCやサーバー向けの半導体を増産した。しかし、自動車の販売はすぐに回復した。
感染リスクから公共交通機関を忌避する動きが強まったことが原因だ。自動車メーカーへの半導体出荷を増やすことが必要になった。他方、暗号資産マイニングのための高性能のPC需要なども高まった。
長期的にみると、半導体需要を増加させた要因としてデジタル化の潮流があるとされる。コロナショック下の2020年前半中も、GAFAなどは5G通信の普及を見越してデータセンターへの投資を拡充していた。
また、あらゆるモノがインターネットに接続され、相互に制御し合うIoTの時代になっていることも長期的な半導体需要増加の要因になっていると言われる。
このような個別の半導体需要増加の例を羅列すると、半導体需要は少なくとも昨年前半のロックダウン後、爆発的に増加し、そのために半導体不足が起きているのではないかとみる向きが多いだろう。
だが、実際の半導体販売額のデータを見ると、必ずしも、半導体不足の状況が深刻化するほど、市場が爆発的に拡大しているわけでもない(図1参照)。
世界半導体市場統計(WSTS、World Semiconductor Trade Statistics)によれば、世界の半導体の販売額は2018年秋頃をピークに19年初めにかけて減少し、コロナショックの影響で低迷状況は昨年春まで続いた。
その後、販売額は増加に向かったが、半導体不足が声高に叫ばれ始めた今年1月頃の世界の半導体販売額は、月約400億ドルで、18年9月のピーク時(448億ドル)より1割以上少ない。
世界の半導体販売額は今年5月442億ドル、6月471億ドルと増加し、6月でようやく18年9月のピークを上回ったところだ。需要の急増によって半導体不足になるとすれば、年後半以降のことだろう。
18年時点でさほど問題化していなかった半導体不足が、今問題になっているのは不可解だが、需要が急増したというより、供給力の問題ではないかと思われる。
つまり、この3年弱の期間で、増加が見込まれる需要に対応した生産能力増強が、なされなかったからなのではないかと思われる。
2021/8/24の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。