スタグフレーションに向かう米国経済
2つの物価統計が示唆すること
7月の消費者物価は全体で前月比0.5%上昇、エネルギー・食品を除くコア部分で0.3%上昇となった。6月実績(それぞれ全体で0.9%、コアが0.9%)を下回り、コア物価については事前予想(ブルームバーグの集計でそれぞれ同0.5%、0.4%)を下回った。
物価上昇率が鈍化したことで、「物価上昇は一時的」と繰り返すパウエルFRB議長の言葉通りになっている、と解釈され10年国債利回りは低下した。また、パウエルFRB議長の志向するような金融緩和が継続されるとの見方から株価は上昇した。
しかし、ここへきて発表されているデータをより詳細に読み取ろうとすると、米国経済については全く異なる見方をしなければいけなくなる。
まず、11日に発表された消費者物価と翌12日に発表された生産者物価の動きの違いが問題になる。
消費者物価はさほど上昇しなかったが、7月の生産者物価は全体で前月比1.0%上昇、コア部分でも同1.0%上昇した。前月(それぞれ1.0%上昇、1.0%上昇)に続く高水準な上昇率となり、事前予想(ブルームバーグの集計でそれぞれ0.6%、0.5%)を上回った。
米国の生産者物価統計はサービス価格なども含み、カバーしている範囲は消費者物価統計と変わらない。財・サービスの購入者である消費者からみた物価の動きをみた統計が、消費者物価統計であるのに対し、販売者である企業側からみた統計が生産者物価統計だ。
物価動向を購入者側、販売者側という表裏両面からみているだけだということになる。実際の数字の動きをみても、両者に大きな違いはない(図1参照)。
図1は、両者のコア部分の3か月前比年率上昇率をみたもの。コア消費者物価年率上昇率は、6月10.6%から7月8.1%と鈍化したが、コア生産者物価は6月9.9%から7月11.2%と加速した。
企業側からみた生産者物価統計をみると、物価上昇は加速し続けていることがわかる。消費者物価統計でみた特徴的な動きは、6月まで急上昇を続けていた中古車の上昇が止まったことだ(図2参照)。
中古車価格は6月の前月比10.5%上昇のあと、7月は0.2%と小幅上昇にとどまった。中古車価格の消費者物価に占めるウエイトは3.5%であり、消費者物価全体の上昇率に対する寄与度は6月0.4%ポイント、7月ゼロだったことがわかる。
6月から7月にかけての消費者物価前月比上昇率が鈍化した分の多くは、この中古車価格の動きで説明できる。一方、新車価格の前月比上昇率は、5月1.6%、6月2.0%、7月1.7%と上昇傾向を続けている。
中古車価格ほど大幅な上昇ではないが、この3か月間の上昇率は年率換算では24%にも達する。新車販売は4月の年率1,878万台をピークに、半導体不足による供給制約などからか、5月1,739万台、6月1,586万台、7月1,523万台と減少している。
新車が買えない分、消費者の需要は中古車に向かい中古車価格を急騰させていた。しかし、中古車価格の上昇が一服となったことは、中古車への需要も衰え始めたことを示す。
中古車価格と新車価格の価格比率は米国景気判断のための指標として使われる。グリーンスパン元FRB議長がこれをよく利用していたという話があった。中古車価格の動きが消費需要の動向をよく反映するのに対し、新車価格の場合、消費需要の動向よりメーカー希望価格など企業の意向が反映されやすい。
いわば製造コストなどが新車価格に大きく影響する。新車価格が上昇し続けていることについては、半導体不足など供給面の制約が影響していると考えられる。こうした中古車価格、新車価格の動きは、ちょうど消費者物価、生産者物価の動きに当てはめていいだろう。
生産者物価が企業つまり供給側の動きに左右されやすく、消費者物価が消費者つまり需要側の動きに左右されやすい。
中古車物価の上昇一服などが示す消費者物価の動きは主として、6月から7月にかけての需要の鈍化によるものと考えられる。これに対し、上昇率が全く鈍化していない生産者物価の動きは主として、7月にかけても供給面での制約が物価を押し上げていることが考えられる。
こうした7月の消費者物価と生産者物価の動きは、米国経済のなかで、需要が減速する一方、供給制約が続き、物価が下がりにくい状況であることを示す。
消費者信頼感指数は昨年ロックダウン時を下回る悪化
需要が減速する一方、供給制約などによって、物価が下がりにくい状況であることを示す指標はこのほかにもある。
13日に発表された8月のミシガン大学消費者信頼感指数は、70.2と前月の81.2から予想外の低下となった(図3参照)。
70.2という水準は新型コロナ感染に対応して、ロックダウンが実施された昨年4月の71.8を下回る水準だ。
2021/8/16の「イーグルフライ」掲示板より一部を抜粋しています。