サウジアラビアとアラブ首長国連邦の政策対立
国際社会ではCOVID-19の変異株により、再び感染が拡大している。その一方、先進国を中心にワクチン接種が進んでいることで、2020年のようなロックダウンは回避されている。
そのこともあり、2020年4月20日に史上初めて、1バーレル当りマイナス36.68米ドルをつけたWTI原油の先物市場価格は、2021年7月30日現在73.24米ドルにまで上昇している。
今後、中国の景気動向やOPECプラスの原油生産量の動向などを注視する必要はあるが、2021年から国際経済が若干持ち直すとの観測を踏まえると、短期的には供給過剰期を脱するとみられる。
しかし、中長期的には、国際社会の脱炭素のトランスフォーメーションが進むことで、原油市場は低迷すると考えられる。そうなると、産油国の財政状況は厳しくなる。2021年7月に開催されたOPECプラスの会議で減産合意が難航したのには、こうした背景がある。
同会議での主な対立は、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)との間で起きた。この2カ国は、湾岸協力会議(GCC)加盟国でもある。上記2カ国をはじめ、加盟国のほとんどがエネルギー生産国であるGCC諸国は、現在、次のような政策課題を抱えている。
- 脱石油産業化に向けた経済・産業政策の転換
- 付加価値(VAT)税の導入や補助金削減など、
国民に負担を強いることになる財政政策の実施 - 安全保障政策をはじめとするGCCとしての政策協調
このうち1.と2.は各国内の政策課題であると同時に、産業政策や課税のあり方など3.のGCCの政策協調にかかわってくる課題でもある。
以上の点を踏まえ、以下では、サウジとUAEとの政策対立に焦点を当てて、GCC諸国の対外政策での協調について検討し、GCCの今後について考察する。
GCCの機能の変化
GCCは、1981年5月にサウジ、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、UAEの6か国によって設立された。
設立の背景には、1979年のソ連のアフガニスタン侵攻、イラン革命、80年のイラン・イラク戦争の開戦があり、安全保障上、アラビア半島のアラブ諸国として連携を強める必要性が高まったことがある。
GCCでは、1981年に統一経済協定を締結し(83年発効)、2003年に統一関税を導入(2015年導入完了)するなど、経済分野の統合化は進められてきた(ただし、通貨統合は難航している)。
安全保障分野では、1985年10月に「半島の盾軍」を設立し、2000年12月には共同防衛協定を締結している。この「半島の盾軍」は、2011年には「アラブの春」の影響が及んだバーレーンでの騒擾の鎮圧で軍事行動をとっている。
また、イエメン内戦では、サウジとUAEを中心にした同盟軍としてフーシ派への航空攻撃で作戦行動をとっている。
しかし、GCCの連携は、1991年の湾岸戦争後、加盟各国が安全保障を米国との2国間協定や武器支援に求めたことから、ほころびが見えはじめていた。
そのほころびは、近年、顕著になっているように見える。「アラブの春」後は、イスラム主義の台頭を恐れるサウジ、バーレーン、UAEが、2017年に、エジプトのムスリム同胞団、パレスチナのハマスなどのイスラム主義運動に理解を示すカタールとの外交を断絶し、経済制裁を実施した(2021年1月に関係回復)。
また、中東和平問題では、イスラエルと国交正常化を果たしたUAE、バーレーンと他の加盟国の間で外交的なズレが見られている。そして、対イラン関係でも、脅威論を唱えるサウジ、バーレーン、UAEと他の加盟国との間には温度差がある。
こうした状況の中、COVID-19パンデミックや原油生産量の調整の失敗により、原油価格が急落し、GCC諸国の財政は悪化した。
そして、今年7月、サウジとUAEとが原油減産協議で対立するという異例な事態が起きた。
(この記事は 2021年8月2日に書かれたものです)
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。