労働供給制約による米賃金上昇はなお問題
供給制約による賃金上昇は続いている
米雇用統計では、労働供給制約にもかかわらず、雇用者数が大幅に増加したことがプラスに評価されたためか、米長期金利は低下し、米国株価は続伸した。
ただ、供給制約のなかでの雇用増加は当然ながら賃金を上昇させている。賃金上昇は企業のコスト増加を通じて、今後、インフレを加速させるだろう。
確かに、全産業の時間当たり賃金は前月比0.3%上昇(4月は同0.7%上昇、5月は0.4%上昇)と伸びが鈍化し、沈静化しているようにもみえなくない。
ただ、これは、娯楽・宿泊業など低賃金業種の雇用がとくに増加し、それが平均賃金を低下させる効果を持ったためだ。
業種別にみると、例えば、輸送・倉庫業の賃金は5月前月比0.7%上昇のあと、6月は同1.8%と上昇テンポが加速した。娯楽・宿泊業も5月前月比1.1%上昇、6月は同1.0%と上昇テンポは高いままだ。
賃金上昇は失業保険給付の上乗せ措置が問題で、この措置は9月には撤廃されるため、労働供給も増加していくのではないかとの見方も多い。
失業保険狙いの失業者だけでなく、感染懸念の非労働力人口増加が問題
だが、賃金が上昇している要因は、失業保険給付上乗せ措置だけではない。感染などに対する懸念から職場復帰をためらっている人、あるいは子供の保育施設の閉鎖などによって、就業できなくなっている人などが多いと言われ、それが労働供給を制約している。
感染懸念などから復職できない、あるいは復職をためらっている人々の動きは、統計上、「非労働力人口」の増加として現れている。
生産年齢人口(16歳以上人口)は労働力人口と非労働力人口に分けられる。労働力人口は就業者と失業者を合計したもので、労働力人口が生産年齢人口に占める比率は労働参加率と言われる。
また、失業率は労働力人口に占める失業者の比率のことだ。これに対して、非労働力人口は、主として通学者、家事従事者のほか、病弱や高齢が理由で生産活動に従事していない人のことを指す。
仕事をしていないという点で、失業者と非労働力人口は同じであり、両者の線引きは難しいが、米国では過去4週間の間に求職活動を行っている(その結果として失業保険を申請する)人が失業者、そうでない人が非労働力人口と定義される。
図1でみるように、非労働力人口の比率は、コロナ前の2019年12月の36.7%から20年4月には一時40%近くに上昇した後やや低下したが、6月時点でも38.4%とコロナ前を1.7%ポイント上回っている。
過去のリセッション時にも、同比率がこれほど大きく上昇することはみられなかった。
リーマンショック時(2007年12月~09年6月の18か月)と今回のコロナショック(2019年12月~21年6月の18か月)の生産年齢人口、労働力人口(就業者、失業者)、非労働力人口の動きを比較したものが表1だ。
就業者の減少幅だけをみると両者はさほど変わらないが、リーマンショック時には、求人数が減少するなかで就業者数が減少した。労働需要の減少が就業者数を減少させていたと考えられる。リーマンショック時は、非労働力人口がさほど増加しなかったため、労働力人口は減少せず、そのために失業者は大幅に増加した。
これに対して、今回は求人数が増加するなかで就業者が減少しており、労働需要面ではなく、労働供給面の問題が就業者を減少させている可能性が高い(図2参照)。
今回は非労働力人口が大幅に増加し、その半面、労働力人口が減少したために失業者の増加はリーマンショック時に比べ抑えられた形になっている。
結局、経済活動が再開されつつあるなかで労働需要が盛り上がる半面、感染懸念や失業保険給付上乗せ措置により、労働供給が増えにくくなっていることが、最近の賃金上昇の原因と考えられる。
このうち、失業保険給付上乗せ措置については確かに9月までに撤廃されるだろうが、感染への懸念が払拭されない以上、労働供給が元通りになるまでは時間がかかるとみられる。
賃金の上昇傾向は続く可能性が高いとみられる。
2021/7/5の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。