ECBが国債購入ペースを拡大することの意味
ECB金融政策理事会からの発表
政策金利とQE策内容/規模
全て据え置きとなりました。
声明文
私にとっては、驚きの声明文でした。「金融環境についての見解」について、今回の声明文でも3月と同じく「a significantly higher pace」が繰り返されていたのです。
https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2021/html/ecb.mp210610~b4d5381df0.en.html
具体的には、
「the Governing Council expects net purchases under the PEPP over the coming quarter to continue to be conducted at a significantly higher pace than during the first months of the year.
PEPPでの(加盟国の国債)購入ペースを今年最初の数ヶ月と比較し、相当大規模に早める(増やす)」と繰り返しています。
3月の声明文と唯一違うのが、netという単語が追加された点。単純に購入額だけに注目せず償還分を差し引いたnetの額に注意するようにという注意喚起なのかもしれません。
個人的には、これだけワクチン接種が進んでおり、購買担当者景気指数(PMI)の数字などで確認されている景気回復基調を考慮した場合、どうして第3四半期も第2四半期同様にPEPPの購入を拡大する必要があるのか、理解に苦しみました。
もちろん金融環境については、長期金利の動向に気を配らないといけませんが、それもここにきて落ち着いています。
いずれにせよ、significantlyという文言が残されたため、声明文からは「ハト派」のメッセージが伝えられました。
ECBがsiginificantly に、「購入ペースを早める」ことの意味
FXを初めて間もない個人投資家さんにとって、ECBが国債購入ペースを拡大することが、そんなに大事件なのか?
どうして、こんなにマーケットが注目しなければいけないのか?
その辺りが、あまりよく理解できていない方もいらっしゃると思います。その点について簡単に説明しましょう。
そもそもどうしてECBは3月の理事会でPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の購入ペース拡大を決定したのか?
それは、ユーロ圏の金融環境が引き締め気味になっていることに懸念を持ち、その中でも特に長期金利の上昇に対しナーバスになっていたからです。
当時はまだヨーロッパでのワクチン接種は全く進んでおらず、目先の景気回復についても不安視されていました。
しかし、バイデン米大統領が次々と経済支援策を出したことも手伝い、アメリカの長期金利は大きく上昇し、年初は1%以下であった10年物国債利回りが、3月には1.5%に乗せました。この影響は世界各国に広がり、当然ユーロ圏加盟国の長期金利も勝手にどんどん上昇して行きました。
経済回復が軌道に乗っていれば長期金利上昇は当然の現象ですが、まだそれが確認できないユーロ圏にとっては、長期金利の上昇は景気回復の腰を折ることになりかねません。
そこで、ECBはPEPPの購入額を第2四半期に限って拡大すると発表したのです。
つまりこれが意味することは、PEPPを通じて加盟各国の国債をECBが購入し、加盟国の長期金利を意図的に低く抑え、金融市場の環境を引き締めからニュートラル/緩和的に戻すことです。
6月10日の記者会見でもラガルド総裁は、
「a sustained rise in market rates could translate into a tightening of wider financing conditions that are relevant for the entire economy. Such a tightening would be premature and would pose a risk to the ongoing economic recovery and the outlook for inflation.
継続的な金利上昇は、金融環境の引き締めと同じ意味を持つ。このような引き締めは時期尚早であり、景気回復基調とインフレ見通しにリスクを及ぼすことにもなりかねない。」
と警告しています。