仮想通貨(暗号資産)の相場動向
中央銀行通貨への不信感が仮想通貨をバブル化させた
ビットコインなど仮想通貨(暗号資産)の価格が5月下旬、急落した。
ビットコインの価格は、2017年末にかけ2万ドル近くに上昇したあと反落し、2020年秋ごろまでは3,000~13,000ドルの範囲内で推移していたが、その後急騰し、21年4月半ばに6万ドルを超えた。
しかし、その後の1か月間でほぼ半値に下落した。仮想通貨の価格高騰の原因は政府への不信感の高まり、そして急落の主因は、仮想通貨人気をおそれた政府が介入に踏み切ったことにある。
ビットコインなどの仮想通貨はドル、ユーロや円など、中央銀行が発行・管理する通貨と違い、それを管理する者がいない。例えば、円は日銀が発行する債務証書であり、日本政府の徴税権を担保にその信用が維持されている。
これに対して、ビットコインなど仮想通貨は、政府などに規制されずに、自由に送金などを行いたい、という考えを背景にできた通貨だ。
ビットコインを作ったとされるサトシ・ナカモトの最初の論文には、「誰にも管理されずに、自由に世界中に送金できるようにしたい」と書かれている。政府と中央銀行、また、当局によってコントロールされている金融システム全体への不信感からできたものと考えられる。
そう考えると、2020年秋以降、なぜビットコインの相場が急騰した理由もわかりやすい。日米欧中央銀行の負債(マネタリーベース)は量的金融緩和下で大幅に増加した。
一方、政府はコロナショックに対応して、大盤振る舞いの財政出動を実施し、財政赤字が急拡大した。
しかも、中央銀行は財政赤字拡大に手を貸す「財政ファイナンス」を行っている。この結果、中央銀行と政府に対する信用、中央銀行発行通貨に対する信用が低下したと考えられる。
仮想通貨の特徴、中央銀行通貨との違いは?
ビットコインには管理主体がいない。徴税権のように、その価値を担保するものもない。だが、その安全性はブロックチェーンによって確保されている。
また、ビットコインの発行上限はあらかじめ決められており、その新規発行には複雑な計算による、いわゆる「マイニング」が必要であるため、供給量は限定される。
確かに、取引ごとにブロックチェーンを書き加えていかなければいけないという不便さから、
頻繁な決済には不向きであるとみられ、実際には、決済手段としての通貨になりにくい。
しかし、供給量が限定されている中で、中央銀行通貨に対する不信感から、価値保蔵手段としての需要が増加し、結果として、その価格(仮想通貨の中央銀行通貨に対する相対価格)が高騰したと考えられる。
このため、最近では仮想通貨という呼び名より、暗号資産と呼ばれることが多くなっている。
少なくとも、金利がゼロでなければ、中央銀行通貨への拒否反応がこれほど高まることもなかっただろうが、実質金利がマイナスの状態では、金などと同様、仮想通貨の価格は値上がりしやすくなる。
金には宝飾品あるいは工業用原材料としての価値があり、比較的安定しているが、仮想通貨には裏付けの実物資産はなく、金のような実物資産としての価値はないと考えられる。
そのため、価格は短期的な思惑や投機的な動きによって左右されやすい。「柴犬」をモチーフにした仮想通貨のドージコインの価格は、年明けから100倍に高騰した。ドージコインは2013年に米国のプログラマーのビリー・マーカス氏が、冗談で作った通貨と言われる。これがバブルであることは明らかだ。
仮想通貨への規制強化は通貨発行益独占が奪われることへの危機感からか?
ここまで、米国では仮想通貨に対する規制は技術革新を過度に阻害しないよう、個別の仮想通貨が既存の制度を侵害する疑念があるケースについてだけ規制がなされてきた。
しかし、状況が変わってきたように思われる。仮想通貨にはもともと、以下のような問題がある。
- 匿名性が高く、マネーロンダリング、テロ資金など、非合法的な決済ツールに使われることが多い。
- マイニングのために大量の電力が消費されている。とくに、マイニングの多くは石炭発電によって中国で行われていると言われ、地球環境に深刻な問題をもたらしている。
こうしたなか、昨年秋以降、仮想通貨の価格が急騰し、政府・中央銀行としても、仮想通貨の人気が高まることを、見過ごすことができなくなったのではないかと思われる。
政府・中央銀行側としては、もともとの、1)、2)のような仮想通貨の問題をあげつらうことで、仮想通貨への規制を強化することができる。
政府・中央銀行としては、自身がコントロールできず、自身の既得権を奪うおそれがある仮想通貨への介入に動き始めたと考えられる。
政府・中央銀行側の事情としては、既存通貨をデジタル化、つまりデジタル通貨の発行を検討しているという点がある。
そうなれば、デジタル通貨(資産)としての仮想通貨と中央銀行通貨との競合度は高まり、仮想通貨は政府・中央銀行側にとってより都合の悪い存在になってくる。
実際、2019年に世界の金融当局は、デジタル通貨の規制で一致したことがある。フェイスブックはデジタル通貨、リブラにより、世界27億人とされる利用者がメッセンジャーなどのアプリを通じて、低コストに送金できるサービスを実現しようとした。
しかし、各国政府と中央銀行は、独占してきた通貨発行益を奪われかねないとの危機感から、
この動きにブレーキをかけた。リブラは結局、計画修正に追い込まれ、いまだに発行されていない。
相次ぐ当局の仮想通貨への介入
5月に入り、各国金融当局の仮想通貨に対する発言が相次いだ。イングランド銀行のベイリー総裁は、「仮想通貨には本質的な価値はない」、「有り金をすべて失う用意があるなら買えばいい」とつきはなした。
中国人民銀行は「仮想通貨は現実の通貨ではない」とし、地方政府は住民に仮想通貨のマイニング作業を発見したら、連絡するように呼びかけた。
ラガルドECB総裁は「ビットコインは非常に投機的な資産」であり、「世界規模での規制が必要」と述べた。
ECBの金融安定性報告書は、「仮想通貨のここ数か月の高騰ぶりは、1600年代のチューリップバブル、1700年代の南海泡沫事件もしのぐ」と述べた。
パウエルFRB議長は、「一部の仮想通貨の技術はリスクを抱えている」とし、監視を強化すると述べた。
仮想通貨バブル、バブル崩壊の行方は?
このように、金融当局は仮想通貨への規制を強化しており、今後も、通貨発行益独占のため、規制強化を一段と進めると思われる。実物資産としての価値が薄く、下値の目処がないため、仮想通貨バブルは崩壊する可能性がある。
そして、仮想通貨バブルが崩壊すれば、他の市場にもリスクオフの動きが波及することが考えられる。場合によっては、一部ヘッジファンドなどへの悪影響から、金融不安をまねくおそれがあるだろう。
また、規制によって仮想通貨への需要を抑えられたとしても、中央銀行通貨への信頼が低下したままでは、仮想通貨に向かっていた逃避資金は別の市場に向かうことも考えられる。
仮に、コモディティー市場に資金が向かえば、中央銀行通貨の信用低下による通貨価値の下落が現実化し、政府と中央銀行は放漫財政と財政ファイナンスに、歯止めをかける必要がでてくる。
もともと仮想通貨への投機熱が高まり、バブル化したのは、政府・中央銀行の裁量的な政策により、中央銀行通貨への信頼が低下したことが原因だ。
規制によって投機にブレーキをかけるというのは筋違いであり、襟を正す必要があるのは、仮想通貨への投機を行なっている投資家ではなく、政府・中央銀行側だろう。
政府と中央銀行の裁量的な政策によって、バブル化したのは仮想通貨市場だけではない。仮想通貨だけをやり玉にあげることには、違和感を感じざるをえない。
2021/5/31の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。