情報を生かす
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
少数精鋭軍が大軍を打ち負かした事例は稀にしかない
世界の戦争の歴史をひも解いてみると、少数精鋭の軍勢が大軍を打ち破ったというドラマチックな戦いは少なく、圧倒的な兵力に勝る方が勝ったという戦いが多いのです。
「指揮官の一番大切な役目は、決戦時までに相手よりも圧倒的に多い軍勢を集めて決戦場に投入することである」とも言われます。
ですから、戦国時代に織田信長が少数の兵で今川義元の大軍を打ち破ったのは例外中の例外であり、日本の合戦史上でも稀な出来事であったと言えます。
時に1560年、戦国時代。東海道一の大大名と言われた駿河の今川義元は、天下をとるために約2万人とも言われる大軍勢を率いて京都への上洛を開始します。その途中にある尾張の織田信長はまだ小さな大名に過ぎず、今川義元に踏みつぶされるか、という存亡の危機にありました。
信長の家臣たちは、篭城(城に閉じこもって戦う)ことを進言します。しかし、今川義元の軍勢のうち本隊5千が、桶狭間という山あいの狭い土地で休憩をし、昼から酒盛りをしていることを信長は知り、そこに勝機を見いだします。
信長は、おりからの土砂降りの中、わずか1千の兵力で奇襲をかけ、今川義元を打ち取ります。大将を失った義元の軍勢は散り散りになり敗退します。尾張は滅亡の危機から救われたのです。今川家はこれをきっかけにして没落していきます。
あっと驚く功績一位発表
戦いが終わって、お城に戻った信長は家臣を集めて論功行賞を行います。そこで、信長は日本の歴史上極めて異例なことを発表します。
それまでの常識ですと、功績第一位は、敵の大将・今川義元の首を討取った毛利新助に与えられるはずです。皆そう思っていました。ところが功績第一位は、今川義元が桶狭間で宴席を開いていることを密偵(スパイ)を使って発見し報告した簗田政綱に与えられたのです。
常識がひっくり返った瞬間です。簗田政綱は褒美として沓掛城を与えられました。家臣一同も多いに驚いたことでしょう。
そうやって信長は情報がいかに大切かということを家臣に示したわけです。功績第2位は義元に一番槍をつけた(第一撃を与えた)服部小平太。そして、義元を討取った毛利新助は第3位でした。
情報の大切さが分かっていたのはもちろんほかの戦国武将も同じはずですが、情報収集をする者は影の存在と考えられていました。
しかし、信長はその重要さをはっきりと示したのです。もちろん、その意味を一番よく理解できたのは、信長の側に仕えていた木下藤吉郎(のちの豊臣秀吉)だったと思います。それはその後に情報を非常に有効に活用して天下をとった秀吉の活躍ぶりをみれば明らかでしょう。
ワーテルローの戦い、投資家の関心事
19世紀初頭のヨーロッパ、ワーテルロー(ベルギー)という場所で、フランス皇帝ナポレオン率いるフランス軍対ウェリントン元帥率いるイギリス・オランダ・プロセイン(後のドイツ)による大きな戦いが行われました。ヨーロッパの支配権をかけた非常に重要な戦いです。
この時、イギリスは国債を発行し、投資家(名門貴族などの資産家)に買ってもらい莫大にかかる戦費を調達していました。
ベルギーからはドーバー海峡隔てたイギリスのロンドンはヨーロッパの金融界の中心であり、そこに集まっている投資家たちの関心事は、イギリス軍がナポレオンのフランス軍に勝ったかどうかということでした。
投資家たちはイギリス軍が勝つことに賭けて国債を買っていたわけですが、もしも敗れれば国債の価格は暴落するからです。ですが、当時は、電話もありませんし無線機もありません。
みんな早く勝敗の結果を知りたいのですが、勝敗はおろか、戦いが始まったかどうかすら、知らせが届くには何日もかかるはずでした。
イギリス国債の暴落
そこにロスチャイルド家という資産家が登場します。(ちなみに、ロスチャイルドとは、ドイツ語のロート・シルト(赤い盾)の英語読みです)ロスチャイルド家は、なぜか急いでイギリスの国債を売り始めたのです。それを知った他の資産家たちは動揺します。
ロスチャイルド家はヨーロッパの各国で兄弟たちが事業を行っているため、独自に情報網があり、いち早く情報を知ることができると思われていたからです。「ロスチャイルド家が国債を売り始めたと言う事はイギリスが戦争に負けたと言うことだ」そう思った投資家たちは急いで国債を売り始めます。
みんなが一斉に大量に売り始める一方、戦争に負けた国の国債を買おうという人はいませんので、国債の価格は大暴落します。投資家たちは、どんなに安い価格でも良いからとにかく早く売ってしまいたいと思いどんどん売っていきます。
ロスチャイルド家の深謀遠慮
しかし、実はロスチャイルド家は知っていたのです。本当はイギリス軍が勝っていたことを。
自分の持っている国債を売却してしまう一方で、代理人を使って紙屑同然になったイギリスの国債を大量に買い集めていたのです。
その後イギリス軍が勝ったと言う知らせがロンドンにもたらされました。たちまちイギリスの国債は人気になりました。
国債の価格は、大きく値上がりしました。もちろんロスチャイルド家は高くなった国債を売却し大きな利益を上げたのです。
この取引によってロスチャイルド家の資産は一説によれば2000倍以上にも膨らんだと言われています。その一方で、破産し没落していった名門貴族も多かったようです。この一件を土台にして、ロスチャイルド家はヨーロッパ随一の大財閥にのし上がっていきました。
現在でもロスチャイルド家は様々な事業を営み、世界の三大財閥の一つと言われています。
ロスチャイルド家は独自の情報を使っていち早く情報をキャッチしていました。早馬を操れる騎手を雇い、伝書鳩を訓練し、大陸からイギリスまでの高速船を用意しておき、迅速に情報が伝達されるようにしていのです。
しかし、イギリスの戦勝をいち早く知ったロスチャイルド家は、すぐにイギリス国債を買い集めれば、価格が暴騰してたくさん買えなくなってしまうので、始めはわざと売り始めたわけです。
非常に情報の使い方がうまかったと言えます。(なお、現代では虚偽の情報を流して相場を動かすのは犯罪行為となります)
真相を知った人たちからは、ロスチャイルド家は当然非難されたはずですが、「私はイギリス軍が負けたとは一言も言っていない、あなた達が勝手に思い込んだだけだ」とでも言ったのではないでしょうか。
正しい情報を見分けて正しく利用する
二つの事例から、ひとつの情報が国の存亡を左右する場合もあり、情報を早く手に入れてうまく使うことで巨額な富をもたらす場合もあるということをみてみました。
もしも信長が、簗田政綱がもたらした情報を千載一遇の勝機として活用しなかったら。
もしも、ロスチャイルド家がイギリス軍勝利の知らせを隠さずに大々的に宣伝して戦勝パーティーを開いていたのならば、、、、日本では今川幕府が誕生し、ロスチャイルド家は人の良い一資産家で終わったのかもしれません。
情報を生かすも殺すも情報を得た人の考え方次第ということですね。
私たちは、日々膨大な情報を得ることができますが、その一方で、有用な情報を選び、有害な情報は排除し、情報を活用していく力が求められる時代になっています。
ところで、スマートフォンやパソコン、テレビなどから、得られるほとんどの情報は、無料で得ることができるわけなのですが、何故無料なのでしょう?本当に無料なのでしょうか?
今回は紙幅が尽きましたので、これについては、また別の機会に話題に取り上げてみたいと思います。
(なお、本稿に例示した歴史的史実については、諸説あります)